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ハーレクイン症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ハーレクイン症候群
別称 ハーレクイン徴候
ハーレクイン症候群の非対称症状を示す男性。前額の一方が他方より赤くなっている。
概要
分類および外部参照情報

ハーレクイン症候群は、上胸部、首、顔面において、非対称性英語版発汗と紅潮を呈する状態である。ハーレクイン症候群は自律神経系の障害とされる。自律神経系は発汗、血管拡張・収縮、瞳孔反射英語版などの体の不随意的な生理学的プロセスを制御する[1]。 この症候群の患者は、通常、顔面、腕、胸部の片側で発汗や皮膚潮紅英語版が起こらなくなる。これはどの年齢で発症する可能性のある自律神経障害である[2]。ハーレクイン症候群の症状は、激しい運動、暖かい環境、感情の昂ぶりで出現しやすい。体の一方は、状況に応じて適切に発汗と潮紅英語版が生じるのに対し、もう一方ではそのような反応が起こらない[3]

症状

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ハーレクイン徴候は、通常、熱への曝露や激しい運動の後に生じる顔面、首、上部胸部の片側性の紅潮と発汗である[4]ホルネル症候群という、同じく交感神経系に関連する問題が、ハーレクイン症候群と共に見られることが多い[要出典]。ハーレクイン症候群は自律神経系の機能障害に関連しているため、この機能障害の主な症状は以下の通りである:顔面、首、または上部胸部の片側における発汗(無汗症英語版)と紅潮の欠如。さらに、他の症状には群発頭痛、流涙、鼻汁、縮瞳、頸部の筋力低下、片側の眼瞼下垂が含まれる[3]

原因

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ハーレクイン症候群の考えられる原因の一つは、頸部交感神経節前英語版節後英語版線維と毛様体神経節英語版副交感神経ニューロンの病変英語版である[5]。 また、胸椎のねじれ英語版によって、前根動脈の閉塞が起こり、ハーレクイン症候群を引き起こす可能性もあると考えられている[6]脱神経英語版側の交感神経活動欠損により、無汗症英語版が生じる。ホルネル症候群の患者もこの状態を呈することがある。脱神経側の副交感神経活動欠損により、反対側の皮膚潮紅英語版がより顕著となる。健常側の反応が正常なのか過剰なのかは不明だが、これは体が障害側を補償し恒常性を維持しようとする試みの結果である可能性があると考えられている[6]

ハーレクイン症候群は、片側の内視鏡下交感神経切除術英語版の結果として生じることもある[2][7]。また、静脈脱血・動脈送血の体外式膜型人工肺PCPS)の合併症としても観察される。これには上半身と下半身の低酸素血症(血液中の酸素濃度の低下)の差異が関与する[8]

診断

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ハーレクイン症候群の診断は、その一貫した徴候と症状を示す場合になされる。さらに、ホルネル症候群、アディー症候群ロス症候群英語版などの類似の障害を除外するためにMRI検査が必要なことがある[3]。また、臨床医が自律神経機能検査を実施して外傷性の原因を除外することも重要である[9]。 そのような検査には、ヘッドアップティルト試験、起立性血圧測定、ヘッドアップ試験バルサルバ法、体温調節性発汗検査、腱反射テスト、心電図が含まれる。器質的疾患を除外するために心臓と肺のCTスキャンも実施されることがある[10]

治療と予後

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ハーレクイン症候群は交感神経神経支配の障害によって起こる。

ハーレクイン症候群は生活機能を損なうものではないため、通常は治療を必要としない[4]。 患者が社会的に恥ずかしさを感じる場合、対側の交感神経遮断術が検討されることがあるが、他の部分の代償性の紅潮と発汗が生じる可能性がある[10]。 対側の交感神経遮断術では、顔面の紅潮を引き起こす神経束が遮断される。この処置により、顔面の両側で紅潮や発汗が起こらなくなる。この治療は症候群に関連して生活に重度の支障を来している人にのみ推奨される[11]

疫学

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ハーレクイン症候群はアメリカ合衆国での罹患者数は1000人未満である[12]。 発生頻度は100万人に1人未満と報告されている[13]

研究

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2016年8月、ボツリヌス毒素シナプス前ニューロン英語版からのアセチルコリン放出を遮断する方法として使用された。片側の紅潮は減少したが、発汗は残った[14]

手術後にこの症候群を発症した症例シリーズ報告がある[15]。転移性がんを持つ37歳と58歳の女性患者2名が、髄腔内ポンプ英語版薬物送達システムの埋め込みを予定されていた。髄腔内ポンプが設置された後、特定の薬剤が患者に投与された。薬剤が投与されると、両患者ともハーレクイン症候群に酷似した片側性の顔面紅潮を示した。神経学的検査の結果、神経は無傷であることが確認された。MRIでは、出血や神経圧迫の明らかな証拠は示されなかった。16時間の綿密な観察の後、ハーレクイン症候群の症状は軽減し、両患者ともその後の発作は見られなかった。

運動中または熱への曝露後に片側性の皮膚潮紅英語版を示した6歳の男児の症例も報告されている[9]バイタルサイン、臨床検査、CTスキャンは正常だった。症状は潮紅に加えて、右瞳孔径は1.5mm、左瞳孔径は2.5mmだった。しかし、眼瞼下垂縮瞳、または眼球突出英語版は認められなかった[9]。 脳や脊髄付近の病変を除外するためにMRIスキャンも行われた。異常は認められず、患者は治療を受けなかった。患者は特発性ハーレクイン症候群と診断された。

語源

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この症候群の名称は、患者の半分だけ紅潮した顔が色鮮やかな道化師(ハーレクイン)の仮面に似ていることから病名の着想を得たLanceとDrummondによるものである[2]

出典

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  1. ^ Waxenbaum, Joshua A.; Reddy, Vamsi; Varacallo, Matthew (2024), Anatomy, Autonomic Nervous System, StatPearls Publishing, PMID 30969667, https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK539845/ 2024年12月26日閲覧。 
  2. ^ a b c Lance, J. W. (2005). “Harlequin syndrome”. Practical Neurology 5 (3): 176–177. doi:10.1111/j.1474-7766.2005.00306.x. 
  3. ^ a b c Harlequin syndrome | About the Disease | GARD” (英語). rarediseases.info.nih.gov. 2024年12月27日閲覧。
  4. ^ a b National Institutes of Health: Office of Rare Diseases Research. (2009) "Harlequin syndrome." Genetic and Rare Diseases Information Center (GARD). http://rarediseases.info.nih.gov/GARD/Condition/8610/QnA/22289/Harlequin_syndrome.aspx Archived 2010-06-03 at the Wayback Machine.. December 9, 2011.
  5. ^ Corbett M., Abernethy D.A.; Abernethy (1999). “Harlequin syndrome”. J Neurol Neurosurg Psychiatry 66 (4): 544. doi:10.1136/jnnp.66.4.544. PMC 1736279. PMID 10201435. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1736279/. 
  6. ^ a b Lance, J. W.; Drummond, P. D.; Gandevia, S. C.; Morris, J. G. L. (1988) "Harlequin syndrome: the sudden onset of unilateral flushing and sweating." Journal of Nerology, Nerosurgery, and Psychiatry (51): 635-642.
  7. ^ Wasner, G.; Maag, R.; Ludwig, J.; Binder, A.; Schattschneider, J.; Stingele, R.; Baron, R. (2005). “Harlequin syndrome - one face of many etiologies”. Nature Clinical Practice Neurology 1 (1): 54–59. doi:10.1038/ncpneuro0040. PMID 16932492. 
  8. ^ Al Hanshi, Said Ali Masoud; Othmani, Farhana Al (2017). “A case study of Harlequin syndrome in VA-ECMO”. Qatar Medical Journal 2017 (1): 39. doi:10.5339/qmj.2017.swacelso.39. PMC 5474607. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5474607/. 
  9. ^ a b c Kim, Ju Young; Lee, Moon Souk; Kim, Seung Yeon; Kim, Hyun Jung; Lee, Soo Jin; You, Chur Woo; Kim, Jon Soo; Kang, Ju Hyung (November 2016). “A pediatric case of idiopathic Harlequin syndrome”. Korean Journal of Pediatrics 59 (Suppl 1): S125–S128. doi:10.3345/kjp.2016.59.11.S125. ISSN 1738-1061. PMC 5177694. PMID 28018464. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5177694/. 
  10. ^ a b Willaert, W. I. M.; Scheltinga, M. R. M.; Steenhuisen, S. F.; Hiel, J. a. P. (September 2009). “Harlequin syndrome: two new cases and a management proposal”. Acta Neurologica Belgica 109 (3): 214–220. ISSN 0300-9009. PMID 19902816. 
  11. ^ ハーレクイン症候群の診断・治療|Web医事新報|日本医事新報社”. www.jmedj.co.jp. 2024年12月28日閲覧。
  12. ^ Different Sides of Harlequin Syndrome”. Cleveland Clinic. 2023年8月29日閲覧。
  13. ^ Harlequin syndrome”. Orphanet. 2024年7月9日時点のオリジナルよりアーカイブ2024年12月23日閲覧。
  14. ^ Manhães, Roberta K.J.V.; Spitz, Mariana; Vasconcellos, Luiz Felipe (2016). “Botulinum toxin for treatment of Harlequin syndrome”. Parkinsonism & Related Disorders 23: 112–113. doi:10.1016/j.parkreldis.2015.11.030. PMID 26750113. 
  15. ^ Zinboonyahgoon, Nantthasorn (June 2015). “Harlequin Syndrome Following Implantation of Intrathecal Pumps: A Case Series.”. Neuromodulation 18 (8): 772–5. doi:10.1111/ner.12343. PMID 26399375.