ハルドゥ
ハルドゥ | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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ハルドゥ
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分類(APG IV) | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
Adina cordifolia (Roxb.) Brandis[1][注 1] | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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英名 | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
yellow teak、saffron teak など |
ハルドゥ[2](haldu; ヒンディー語: हलदू、ラテン文字転写: haladū; 学名: Adina cordifolia、シノニム: Haldina cordifolia など)とは、アカネ科の樹木の一種である。インドやスリランカ、東南アジアなどに分布する(参照: #分布)。本種の特徴は丸みのあるハート形の葉と、球状の見た目をなす腋生の花である(参照: #特徴)。様々な用途のある木材が得られる(参照: #利用)。
分類
[編集]最初は1796年にナウクレア属の Nauclea cordifolia として新種記載される[7]が、1870年代前半になるとタニワタリノキ属(Adina)に分類され[8]、さらに1978年にはコリン・リズデイルがタニワタリノキ属[注 5]との形態的な差異を根拠にハルドゥ1種のみのために新属 Haldina を設けた[9]。正名はリズデイルによる Haldina cordifolia とする場合[10]と100年以上の歴史を有する Adina cordifolia とされる場合[1]とに分かれる。ただ、Haldina属の独立性に関しては2014年に発表された研究で否定的な見解が出されている(詳細はヘツカニガキ#分類を参照)[11]。
なお、日本にはタニワタリノキ属であるタニワタリノキ(Adina pilulifera; シノニム: A. globiflora)が九州南部に自生しているが、#特徴で後述するようにハルドゥの葉が丸みを帯びたハート形であるのに対し、タニワタリノキの葉は披針形である[12][注 6]。
分布
[編集]スリランカやインドから東南アジア、東アジアにかけて分布する[4]。
生態
[編集]インドのアラーヴァリー山脈では時々清流沿いで見られ8月から12月にかけてが花期で、2月から3月の間に実がなる[6]。またタミルナードゥ州中央部においては山麓や1200(1400)メートル以下の地帯に見られる[4]。
特徴
[編集]落葉中高木で[2]、樹高は3-10メートル[6]だが20(30)メートルにまでなる場合もある[4]。幹は地表から数メートルは分枝しない[4]。樹皮は灰褐色、雲斑状にはがれ落ち[2]厚さ4センチメートル[4]、若い部分には微毛が見られる[6]。板根が存在する[14]。
葉は対生で[2]革質[6]、心臓形から(ほぼ)円形、12-17×14-20センチメートル[4]、先端が先鋭形[15]、全縁で表面は無毛となるが裏面は灰色で微毛が見られ[6]、托葉は葉質である[4]。葉柄は長さ3-7センチメートルで微毛がある[6]。
花は腋生で[6]葉腋から長さ2.5-10センチメートルの花梗が1-4本伸び[16]、5部位に分かれる球状の頭花で乳白色[4]あるいは黄色で径1.8-2.5(場合によっては3[4])センチメートル[16]。萼はドングリの殻斗状で不明瞭だが5稜あって5裂し[4]、その萼片は基部まで裂け、外側が毛に覆われる[6]。花冠は乳白色で径3.5ミリメートル、漏斗状で5裂し[4]、微毛が見られる[6]。雄蕊(おしべ)は5本で(ほぼ)突出している[4]。柱頭は頭状で[15]花柱はかなり突出しており[6]、子房は(ほぼ)先端が切られた形で2室、胚珠は3-5個が頂生胎座上に付き[4]、下垂する形となる[15]。
果実は蒴果で倒円錐形、微毛があり[6]、密になり、割れて2つの小乾果となる[4]。種子は長楕円形で翼があり[2]、微毛が見られ茶色っぽい色である[6]。
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Beddome (1869) の図版。
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全体。
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全体。
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樹冠。
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幹。
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樹皮。
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根本。板根あり。
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葉。丸くハートのような形状で先端がとがっている。
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花。頭状花。
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果実。
利用
[編集]ハルドゥからは木材が得られる。材の色は新鮮なうちは淡黄色から黄色であるが、やがて黄褐色から帯黄褐色となる[5]。木目は細かく滑らかかつ繊維質で、建材や板張り、箪笥、銃床、櫛[14]、帆柱、家具、彫刻、刳形(モールディング)、曲げ木、屋内造作、農具、糸巻、定規などに用いられてきた[2]が、湿気に対しては弱い[14]。比重は0.64-0.70で加工しやすく、美しい光沢があり、耐久性は高めである[2]。
諸言語における呼称
[編集]スリランカ:
- シンハラ語: කොළොම් (koḷom)、කොළොං (koḷoṃ)、කදඹ (kadamba)、දීප්තා (dīptā)、තරුණාද්රි (taruṇādri)、ධූලිකදම්බ (dhūlikadamba)、ෂට්පදේෂ්ට (ṣaṭpadēṣṭa)、කදඹක (kadambaka)[18] - kalon[2] や kolong[14] のラテン文字表記で記録している資料が存在する。
インド:
- サンスクリット: hridru, peetadaru, kadambaka, gaur kadambaka, girikadamba[16]
- タミル語: மஞ்சக்கடம்பு[19] (mañcakkaṭampu) - manja kadambe[14] や mancal katampu、mancatkatampu、manja kadambai、manjakadamba、manjakadambai、manjakadambu、manjatkadambu[20]、manja cadambai といったラテン文字表記が記録されている[2]。
- テルグ語: దాడుగచెట్టు (dāḍugaceṭṭu), dudagu, paspu kadambe[14]
- ヒンディー語: हलदू (haladū), करम (karama)[21]
- 南カナラ: ahnow[14]
インドおよびバングラデシュ:
ビルマ:
タイ:
カンボジア:
ベトナム:
- ベトナム語: gáo vàng - ただしこの名称は同じアカネ科の別種 Neonauclea sessilifolia(シノニム: Adina sessilifolia)にも用いられている[26]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ a b c いずれも同じ文献 Forest Fl. N.W. India 263 1874 に基づいてタニワタリノキ属(Adina)に分類されたものであり、Govaerts (2019) はこれを正名としている。
- ^ 文献情報は Gen. Pl. 2: 30. 1873。
- ^ 文献情報は Pl. Coromandel 1: 49 1796。
- ^ 文献情報は Pl. Cor. 1: 40. t. 53. 1796。
- ^ ここでは Adina dissimilis Craib、タニワタリノキ(Adina pilulifera (Lam.) Franch. ex Drake)、シマタニワタリノキ(Adina rubella Hance)の3種のみを指す。
- ^ 牧野はタニワタリノキの正名を Nauclea orientalis L.、そのシノニムを Adina globiflora Salisb. としているが、Govaerts (2019) は両者は互いに無関係としている。熱帯植物研究会 (1996:426) はインドシナ、フィリピン、インドネシア、ニューギニアに分布する Nauclea orientalis に「バンカル」(フィリピン: bangkal)、後に Govaerts (2019) により N. orientalis のシノニムとして扱われるようになるモルッカス(モルッカ諸島)原産の Nauclea undulata Roxb. に「チーズウッド」(パプアニューギニアやオーストラリアの英語: cheese wood)や「ヤエヤマアオキ」という呼称をあてているが、ヤエヤマアオキというと今度はアカネ科の別種 Morinda citrifolia の標準和名となってしまう[13]。
出典
[編集]- ^ a b c d e Govaerts (2019).
- ^ a b c d e f g h i j k l m 熱帯植物研究会 (1996).
- ^ a b c d e The Plant List (2013).
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o Matthew (1995:235).
- ^ a b 堀田 (1989).
- ^ a b c d e f g h i j k l m n Otaghvari et al. (2015:150).
- ^ Roxburgh, William (1798). Plants of the Coast of Coromandel; selected from drawings and descriptions presented to the hon. court of directors of the East India Company. 1. London. pp. 40, t. 53
- ^ Stewart, J. Lindsay; Brandis, Dietrich (1874). The Forest Flora of North-West and Central India: A Handbook of the Indigenous Trees and Shrubs of those Countries. London: Wm. H. Allen & Co.. p. 263
- ^ Ridsdale, C.E. (1978). “A revision of the tribe Naucleeae s.l. (Rubiaceae)”. Blumea 24 (2): 361 .
- ^ World Flora Online, http://www.worldfloraonline.org/, 23 May 2019
- ^ Löfstrand, Stefan. D.; Krüger, Åsa; Razafimandimbison, Sylvain G.; Bremer, Birgitta (2014). “Phylogeny and Generic Delimitations in the Sister Tribes Hymenodictyeae and Naucleeae (Rubiaceae)”. Systematic Botany 39 (1): 304–315. doi:10.1600/036364414X678116.
- ^ 牧野 (1940).
- ^ 米倉・梶田 (2003-).
- ^ a b c d e f g h Beddome (1869).
- ^ a b c Matthew (1995:230).
- ^ a b c d Bhutya (2011).
- ^ Wilkes (1819:610).
- ^ Clough (1892:101, 137, 272, 643, 791, 795).
- ^ இராமையா & சந்திரசேகரன் (2004:53).
- ^ a b Quattrocchi (2012).
- ^ 古賀・高橋 (2006).
- ^ 大野 (2000).
- ^ อุดม รุ่งเรืองศรี (2004).
- ^ Khmer Dictionary: ខ្វាវ. 2019年5月26日閲覧。
- ^ 坂本 (1991).
- ^ Viện điều tra qui hoạch rừng (1995:104, 106).
参考文献
[編集]英語:
- Beddome, R. H. (1869). The Flora Sylvatica for Southern India. I. Madras: Gantz Brothers. p. 33
- Bhutya, Ramesh Kumar (2011). Ayurvedic Medicinal Plants of India. 1. Jodhpur, India: Scientific Publishers (India). p. 233. ISBN 978-93-87307-31-5
- Clough, B. (1892). A Sinhalese-English Dictionary. Kollupitiya, Colombo: Wesleyan Mission Press NCID BA00813829, BB09136975
- Govaerts, R. (ed). For a full list of reviewers see: http://apps.kew.org/wcsp/compilersReviewers.do (2019). WCSP: World Checklist of Selected Plant Families (version Aug 2017). In: Species 2000 & ITIS Catalogue of Life, 2019 Annual Checklist (Roskov Y., Ower G., Orrell T., Nicolson D., Bailly N., Kirk P.M., Bourgoin T., DeWalt R.E., Decock W., Nieukerken E. van, Zarucchi J., Penev L., eds.). Digital resource at http://www.catalogueoflife.org/annual-checklist/2019. Species 2000: Naturalis, Leiden, the Netherlands. ISSN 2405-884X. 2019年6月5日閲覧。
- Matthew, K.M. (1995). An Excursion Flora of Central Tamilnadu, India. Rotterdam: A.A. Balkema. ISBN 90 5410 286 1
- Otaghvari, Arman Mahmoudi; Yadav, S.R.; Raina, S.N.; Uniyal, P.L. (2015). Vegetational Wealth of Aravalli Ranges. Jodhpur, India: Scientific Publishers. ISBN 978-81-7233-926-5
- The Plant List (2013). Version 1.1. Published on the Internet; http://www.theplantlist.org/ (accessed 23rd May 2019).
- Quattrocchi, Umberto (2012). CRC World Dictionary of Medicinal and Poisonous Plants: Common Names, Scientific Names, Eponyms, Synonyms, and Etymology. Boca Raton and London and New York: CRC Press. pp. 1919–1920. ISBN 978-1-4822-5064-0 NCID BB09914640
- Stevens, P. F. (2001 onwards). Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017 [and more or less continuously updated since].
- Wilkes, John (1819). “NAUCLEA”. Encyclopædia Londinensis; or, Universal Dictionary of Arts, Sciences, and Literature. 16. London: Jas. Adlard and Sons. pp. 608–610
タミル語:
- இராமையா, பு.ஏ.; சந்திரசேகரன், தா. (2004). செந்தமிழ்ச் சொற்பிறப்பியல் பேரகரமுதலி: A Comprehensive Etymological Dictionary of the Tamil Language த, தா. 4, Part 1. சென்னை: செந்தமிழ்ச் சொற்பிறப்பியல் அகரமுதலித் திட்ட இயக்ககம். NCID BA07474313
日本語:
- 大野, 徹『ビルマ(ミャンマー)語辞典』大学書林、2000年、350頁。ISBN 4-475-00145-5。
- 古賀勝郎、高橋明 編『ヒンディー語=日本語辞典』大修館書店、2006年、201・1409頁。ISBN 4-469-01275-0
- 坂本, 恭章『カンボジア語辞典』(第2版)大学書林、1991年、75頁。
- 熱帯植物研究会 編『熱帯植物要覧』(第4版)養賢堂、1996年、416-7頁。ISBN 4-924395-03-X。
- 堀田, 満「Adina Salisb. タニワタリノキ属」『世界有用植物事典』平凡社、1989年、49頁。ISBN 4-582-11505-5。
- 牧野, 富太郎『牧野日本植物圖鑑』北隆館、1940年、119頁。
- 米倉浩司・梶田忠 (2003-).「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList),http://ylist.info (2019年5月26日).
- コリン・リズデイル、ジョン・ホワイト、キャロル・アッシャー 著、杉山明子、清水晶子 訳『知の遊びコレクション 樹木』新樹社、2007年、325頁。ISBN 978-4-7875-8556-1(原書: Eyewitness Companions: Trees, Dorling Kindersley, London, 2005.)
タイ語:
- อุดม รุ่งเรืองศรี (2004). พจนานุกรมล้านนา-ไทย. Phāk Wichā Phāsā Thai, Khana Manutsayasāt, Mahāwitthayālai Chīang Mai
ベトナム語:
- Viện điều tra qui hoạch rừng (1995). Sổ tay điều tra qui hoạch rừng. Hà Nội: Nhà xuất bản Nông nghiệp
関連項目
[編集]- クビナガタマバナノキ - ヒンディー語名: कदंब (kadaṃba)(古賀・高橋 2006: 189)。熱帯植物研究会 (1996) はカランパヤン(マレーシア名: kelampayan; インド名: kadam; パプアニューギニア名: labula)の名で紹介しつつ3種類の学名を列挙しているが、そこで挙げられている3種類の学名は Govaerts (2019) では以下のようにそれぞれ別種のシノニムとして扱われている。
- Anthocephalus chinensis (Lam.) Rich. ex Wapl. → Neonauclea purpurea (Roxb.) Merr.
- Anthocephalus cadamba Miq. → Neolamarckia cadamba (Roxb.) Bosser - リズデイルら (2007) はこれをカダム kadam(訳書では別名として「ラブラ」と「カランパヤン」も追加)として紹介している。
- Anthocephalus indicus Rich. → Breonia chinensis (Lam.) Capuron
- タニワタリノキ連(Naucleeae)- アカネ科の連の一つ。APG IVではここまでに言及されたタニワタリノキ属(Adina)、Breonia属、Haldina属、ナウクレア属(Nauclea)、Neolamarckia属、Neonauclea属は全てこの連の下に置かれている(Stevens 2001-)。