ニーキャップ
ニーキャップ | |
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出身地 | ウェストベルファスト |
ジャンル | ヒップホップ |
活動期間 | 2017–現在 |
レーベル | Heavenly Recordings |
公式サイト | kneecap.ie |
メンバー |
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ニーキャップ (英: Kneecap) は北アイルランドのウェストベルファスト出身のヒップホップトリオである。メンバーはモ・カラ、モグリー・バップ、DJプロヴィの3名である[1][2]。メンバーはアイルランド語の話者で、アイルランド語に英語をまぜたラップを発表している。デビューシングル "C.E.A.R.T.A."(アイルランド語で「権利」を意味する)は2017年にリリースされ、2018年にはデビューアルバムの3CAGが出た。セカンドアルバムであるFine Artは2024年にリリースされ、同年にはグループ名と同タイトルの伝記映画『ニーキャップ』も公開された。リリックは政治的で、アイルランド全島がイギリスの支配を脱することを目指すリパブリカニズムの影響が強い一方、ドラッグが横行するウェストベルファストの暮らしを戯画化した楽曲もあり、批判や検閲の対象になっている。このため、「セックス・ピストルズ以来最も物議を醸すバンド[3][4]」と呼ばれている。
名前の由来
[編集]「ニーキャップ」(英語: Kneecap) とは、英語の名詞では「ひざ」を意味するが、罰としてひざを撃ち抜くことを意味する動詞として使用されることがある[5]。ベルファストではアイルランドナショナリズムをかかげるリパブリカンの民兵組織が、薬物の売人など好ましくないとされる人物に対して伝統的にこの種の私刑を行っており、グループ名はそこからとられている[6]。モグリー・バップは、自分たちがドラッグなど「ニーキャップされそうなことを語っている」ので皮肉のつもりでグループ名を選んだと示唆している[6]。
DJプロヴィ (DJ Próvaí) の名前の発音はIRA暫定派 (英語: Provisional IRA、プロヴィジョナルIRA) を指す俗語である "Provie" と同じである[7]。
来歴
[編集]2017年にモ・カラ、モグリー・バップ、DJプロヴィにより結成された[8]。3名ともアイルランド語のネイティブスピーカーである[9]。ニーキャップのファーストシングルである "C.E.A.R.T.A." はモグリー・バップの経験をヒントに書かれた。ベルファストでアイルランド言語法推進デモが行われる前日、モグリーは友人と外出してスプレーペイントでバス停に "Cearta" という文字を落書きした。これが北アイルランド警察に見つかり、モグリーは逃げられたが友人は逮捕された。この友人はアイルランド語以外の言語を警察で話すことを拒んだため、留置場で夜を明かす過ごすことになった。この出来事の後で "C.E.A.R.T.A." が制作された[10]。
"C.E.A.R.T.A." は薬物などに関する表現が問題視され、アイルランド共和国の公共放送であるRTÉアイルランド語ラジオで放送ラインナップから外すという判断を下された[11]。ファンが署名運動を立ち上げ、この局を放送ラインナップに戻すよう、700名の署名を集めた[12]。ニーキャップはこの曲は「ウェストベルファストの暮らしを誇張したもの」で、「若者の生活を諷刺的に解釈した試み」だと擁護している[12]。
グループの最初のフルアルバムである3CAGが2018年にリリースされた。タイトルはアイルランド語の "Trí Chonsan Agus Guta"(子音3つと母音1つ)のことであり、薬物であるMDMAを指す俗語である[6]。
2019年2月、ニーキャップがベルファストのエンパイア・ミュージック・ホールでのライブで「イギリス人は出てけ!」と叫んでいる様子が映っている動画がネットに投稿され、サウスベルファスト選出民主統一党所属北アイルランド議会議員であるクリストファー・スタルフォードがこれに抗議を行った[13]。このライブは当時ケンブリッジ公であったウィリアム王子とその妻キャサリンが同じ会場を訪れた翌日に行われた[13]。
2021年にニーキャップは自分たちの母親に敬意を示すシングル "MAM" をリリースしたが、この曲はニーキャップが普段作っている曲とは異なるスタイルだと評された[14]。このようなコメントを受けたモ・カラは、インタビューでこの曲のコンセプトについて、「俺たちはステージからみんなを「ぶっ飛ばす」みたいなこともできるけど、その後ではハグもできるんだよ。ちょっとセンチメンタルなものをやりたかったんだ。いつも男らしさみたいなもんに閉じ込められていたいわけじゃないからね」と述べている[14]。ニーキャップはInstagramでモグリー・バップの母はこの曲が出る前に自殺しており、この曲からあがった収益は全額、自殺問題に取り組むチャリティであるサマリタンズに寄付される予定だと述べた[15]。
2020年にニーキャップはライブでパレスチナの旗をかかげて独立パレスチナに対する支持とイスラエルに対するボイコットを公言した[16][17]。パレスチナのアイダ難民キャンプでボランティア運営される体育トレーニング設備の支援も行っており、2020年にはインスタグラムで資金集めを呼びかけた他、2022年にはアイルランドの作家マンハン・メイガンがこのジムの資金集めのため "C.E.A.R.T.A" のカバー版をリリースした[18][19]。
セカンドアルバムであるFine Artを2024年にリリースした[20]。
映画
[編集]2023年の前半にニーキャップは『ニーキャップ』というタイトルの映画の撮影を行った[21]。この映画は2019年のウェストベルファストのアイルランド語使用地域であるゲールタハト・クォーターが舞台で、グループのメンバー自身が自分たちの役で主演をつとめたほか、マイケル・ファスベンダーなどの俳優も出演した[22]。この映画は2024年1月18日にサンダンス映画祭初のアイルランド語映画として上映された[22]。この映画はアメリカ合衆国では2024年8月2日に、アイルランドでは8月8日に公開された[23][24]。アイルランドの興収ランキングでは初登場3位で、最初の週末の興収総額がアイルランド語の映画としては歴代1位となった[25]。同年8月末までに興収が100万ユーロに達した[26]。
評価
[編集]アイルランド語と英語をまぜたラップを制作している[9]。メンバーは3名ともアイルランド語話者であり、家族や友人ともアイルランド語で話している[9]。アイルランド語のラップ楽曲はこれまで非常に少なかったため、この分野の先駆者と見なされている[27]。
楽曲におけるドラッグへの言及や政治性のため、イギリス及びアイルランドの音楽グループの中でも「セックス・ピストルズ以来最も物議を醸すバンド[3][4]」だと言われている。北アイルランドにおけるアイルランドのナショナリズムの影響を強く受けており、アイルランド全島がイギリスの支配を脱することを目指すリパブリカニズムが楽曲の「中心的なテーマのひとつ」であると評されている[7]。「アイルランド語、リパブリカニズム的なトーテム、北アイルランド問題にまつわるイコノグラフィ、パンクな活気[3]」が特徴であると言われる。また、ユーモアのあるリリックもしばしば特徴としてあげられ、このため初期のエミネムと比較されることがある[28][29]。
ディスコグラフィ
[編集]アルバム
[編集]- 3CAG (2018)
- Fine Art (2024)
シングル
[編集]タイトル | 発売日 | チャートのピーク順位 |
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アイリッシュ・シングル・チャート[30] | ||
"C.E.A.R.T.A" | 2017年12月 | — |
"H.O.O.D" | 2019年6月 | 78 |
"Gael-Gigolos" | 2019年6月 | — |
"Fenian Cunts" | 2019年9月 | — |
"Get Your Brits Out" | 2019年10月 | 100 |
"Mam" | 2020年12月 | — |
"Guilty Conscience" | 2021年10月 | — |
"Thart agus Thart" | 2021年10月 | — |
"Its Been Ages" | 2023年3月 | — |
"Better Way to Live" | 2023年11月 | 92 |
脚注
[編集]- ^ Earley, Kelly. “Who are KNEECAP? Everything you need to know about the Irish rappers in trouble with both BBC and RTÉ” (英語). The Daily Edge. 2020年9月7日閲覧。
- ^ Mullally, Una (2022年3月16日). “A Celtic Revival, in Hip-Hop and More” (英語). The New York Times 2023年12月9日閲覧。
- ^ a b c Carroll, Rory (2024年8月18日). “How Northern Irish rap trio Kneecap rose to fame by subverting the Troubles” (英語). The Observer. ISSN 0029-7712 2024年9月22日閲覧。
- ^ a b Hodgkinson, Will (2024年6月13日). “Kneecap: meet the UK’s most controversial band” (英語). www.thetimes.com. 2024年9月22日閲覧。
- ^ Oxford English Dictionary, s.v. “kneecap (v.),” June 2024, https://doi.org/10.1093/OED/6191806806.
- ^ a b c O'Toole, Lucy. “12 INTERVIEWS OF XMAS: KNEECAP on Controversies, Misconceptions, Mental Health and Generational Trauma”. Hotpress. 2023年12月9日閲覧。
- ^ a b Kula, Adam (2024年1月27日). “Kneecap: Who are Belfast's republican Irish language rap trio and why are they labelled controversial? A breakdown of the group's background, lyrics and antics”. Belfast New Letter. 2024年9月22日閲覧。
- ^ “Kneecap at Féile an Phobail: The Irish rappers who want to rile you up” (英語). (2023年8月10日) 2024年9月25日閲覧。
- ^ a b c “Belfast rap group Kneecap: “Our music is provocative, but it's a…” (英語). The Face (2024年1月30日). 2024年9月26日閲覧。
- ^ Mullally, Una. “Kneecap: 'Low-life scum' of west Belfast rap whose day has come” (英語). The Irish Times 2020年9月4日閲覧。
- ^ O'Toole, Lucy. “KNEECAP spark controversy in Belfast with 'Brits Out' chant”. Hotpress. 2020年9月4日閲覧。
- ^ a b “Belfast Irish language rappers Kneecap banned by radio station” (英語). Belfast Telegraph. (2018年1月1日) 2020年9月4日閲覧。
- ^ a b O'Dornan, David (2019年3月3日). “Belfast rappers chant 'Brits out' at Empire following Royal visit” (英語). Belfast Telegraph 2021年9月28日閲覧。
- ^ a b Allen, owen (2021年9月16日). “An Interview with KNEECAP” (英語). New Sound Generation. 2022年8月4日閲覧。
- ^ “Kneecap release gorgeous song to pay tribute to their mams” (英語). JOE.ie. 2022年8月4日閲覧。
- ^ “Belfast hip hop trio Kneecap and the new Irish rebel music” (英語). IrishCentral.com (2020年3月24日). 2021年9月24日閲覧。
- ^ Brayden, Kate. “Over 1000 Irish artists pledge to boycott Israel in support of Palestine”. Hotpress. 2021年9月24日閲覧。
- ^ “Instagram post”. www.instagram.com. Kneecap (2020年2月19日). 2024年9月22日閲覧。
- ^ Newsdesk, The Hot Press. “Irish writer Manchán Magan covers KNEECAP's 'C.E.A.R.T.A' in aid of volunteer gym in Palestine”. Hotpress. 2022年8月4日閲覧。
- ^ “Kneecap: Fine Art review – Intimidatingly brilliant tribute to hedonism, identity and the pure joy of living fast” (英語). The Irish Times. 2024年9月26日閲覧。
- ^ “Kneecap's Irish Language Film is Heading to Cannes” (英語). District Magazine. 2023年6月2日閲覧。
- ^ a b O'Broin, Cian (December 6, 2023). “Belfast rap group Kneecap make history with new film becoming first Irish language movie at Sundance Festival”. Irish Independent. 8 December 2023閲覧。
- ^ Grobar, Matt (2024年4月12日). “Sony Pictures Classics Sets Summer Launch For Sundance Pic ‘Kneecap’ On Irish Rap Trio” (英語). Deadline. 2024年9月22日閲覧。
- ^ “Award-winning Irish feature film Kneecap to open in Irish cinemas on Thursday, 8th August” (英語). Screen Ireland. 2024年9月22日閲覧。
- ^ “Kneecap movie claims biggest Irish weekend opening ever for Irish language film” (英語). The Irish News (2024年8月12日). 2024年9月22日閲覧。
- ^ O'Cearbhaill, Muiris (2024年8月29日). “Kneecap film set to surpass €1 million at the box office today” (英語). TheJournal.ie. 2024年9月22日閲覧。
- ^ Mullally, Una (2022年3月16日). “A Celtic Revival, in Hip-Hop and More”. The New York Times. 2024年9月26日閲覧。
- ^ Sawyer, Miranda (2024年2月25日). “Belfast rappers Kneecap on stunts, drugs and Kemi Badenoch: ‘We don’t discriminate who we piss off’” (英語). The Observer. ISSN 0029-7712 2024年9月22日閲覧。
- ^ Noelker, Annie (2022年5月26日). “A night out with Kneecap, Ireland's political hip-hop rebels” (英語). Los Angeles Times. 2024年9月22日閲覧。
- ^ “IRMA – Irish Charts: Week 35, 2024”. Irish Recorded Music Association. 31 August 2024閲覧。