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ナギサノシタタリ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナギサノシタタリ
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
: 有肺目 Pulmonata
上科 : オカミミガイ上科 Ellobioidea
: オカミミガイ科 Ellobiidae
亜科 : ハマシイノミガイ亜科 Melampinae
: ナギサノシタタリ属 Microtralia Dall, 1894
: ナギサノシタタリ M. acteocinoides
学名
Microtralia acteocinoides Kuroda et Habe in Habe, 1961

ナギサノシタタリ(渚の滴り)、学名 Microtralia acteocinoides は、有肺目オカミミガイ科に分類される巻貝の一種。西太平洋海岸に分布し、潮間帯上部の狭い間隙に棲む微小貝である。和名は末尾に「貝」をつけたナギサノシタタリガイ(渚の滴り貝)、またはコメツブナギサノツユ(米粒渚の露)と呼ばれることもある。また学名は M. alba (Gassies, 1865) とする文献もある[1][2][3][4][5]

成体でも殻高3-5mm、殻径1-2mmほどの微小種であり、日本産オカミミガイ科貝類の中でも小型である。殻表は光沢のある半透明白色・薄質で、粒に例えられるが、生きている時は褐色の内臓が透けて見える。殻の形態は殻頂が短く尖る卵型で、臍孔や縫帯はない。殻口は縦長に開き、内唇に1-2歯と軸唇に1歯の歯状突起がある。外唇は肥厚せず、歯もない[1][2][3][4][5]。貝殻の形態は同じ亜科のハマシイノミガイ Melampus nuxeastaneus 等に似ているが、本種はずっと小型である。

西太平洋沿岸の熱帯・温帯域に分布し、日本では北海道南部以南に見られる。但し広い分布域内の本種が全て同一種かどうかは要検討とされており、現に形態が異なる八重山諸島産のものが未記載種コデマリナギサノシタタリ M. sp. として提唱された[1][5][6]タイプ産地は九州大学理学部付属天草臨海実験所に近接した熊本県苓北町富岡の曲崎海岸だが、ここでは近年姿を消してしまい、再発見もされていない[7]。日本の海産オカミミガイ類では最も北まで分布している。なお日本産オカミミガイ科で最も北まで分布するのは陸生のエゾケシガイ Carychium sibiricum である。

海岸の潮間帯上部に棲息し、砂泥に深く埋まった転石や漂着物の下、海蝕洞内の転石下、ヨシ原等で見られる。また埋立地運河等の人工海岸でも見られる。内湾・外洋どちらでも見られるが、内湾の個体は小型である[2][3][8]。同所的にはウスコミミガイ Laemodonta exaratoidesマキスジコミミガイ L. moniliferaヤマトクビキレ Truncatella pfeifferiオオウスイロヘソカドガイ Paludinella tanegashimaeカハタレカワザンショウ Assiminidae gen. et sp.等の貝類が見られ[9]、貝類以外ではヒメアカイソガニ Acmaeopleura parvulaミナミアシハラガニ Pseudohelice quadrata 等も見られる。干潮時に湿度と暗さが保たれた区域に潜んでおり、常時海水に浸る区域や乾燥する区域にはいない。地表を這うことはなく、砂泥内の間隙で生活している。棲息地では褐色の細い糸くずのようなも見られる。

保全状態評価

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本種の棲息環境である海岸の潮間帯上部は、防波堤や道路の建設、埋立、浚渫等の改変を受けやすい。また本種は人間との関わりがないうえ、他の貝が少ない特殊な環境にいるため、狙って探さないと見つからない[3]

日本の環境省レッドリスト2007年版では「準絶滅危惧(NT)」として一旦掲載されたが、2012年版では分布の広さ・個体数の多さ・人工海岸への適応等を鑑みて「ランク外」となった[2][8]。しかし各自治体では絶滅危惧種の指定が多い[10]

  • 絶滅危惧I類(CR+EN) - 兵庫県(2003年)[11]、香川県(2004年)[12]
  • 絶滅危惧II類(VU) - 千葉県(2011年)[4]、愛知県(2009年)[6]、福岡県(2011年)[9]
  • 準絶滅危惧(NT) - 三重県(2005年)[13]、大分県(2011年)[14]、熊本県(2009年)[7]、長崎県(2011年)[15]
  • 情報不足(DD) - 鹿児島県(2003年)[10]

同属種

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コデマリナギサノシタタリ(小手毬渚の滴り) Microtralia sp.
ナギサノシタタリに比べて殻が太い。また殻の色は半透明白色が多いが、半透明赤紫色の個体もいる。ただしナギサノシタタリとの中間的な形態を示す個体もあり、分類学的な検討が必要とされている。宮古島石垣島西表島与那国島で記録されている。環境省レッドリストでは2007年版で「絶滅危惧II類(VU)」だったが、2012年版では「準絶滅危惧(NT)」となった。また日本ベントス学会のレッドデータブック2012年版でも「準絶滅危惧」に掲載されている[2][5][8]

参考文献

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  1. ^ a b c 黒住耐二, 2000. ナギサノシタタリ, 奥谷喬司編著「日本近海産貝類図鑑」 ISBN 9784486014065, 東海大学出版会
  2. ^ a b c d e 木村昭一, 2007. コデマリナギサノシタタリ, ナギサノシタタリ, 環境省第3次レッドリスト 陸産貝類・淡水産貝類 付属説明資料 15p., 30p. 2012.12.3閲覧
  3. ^ a b c d 鈴木孝男・木村昭一・木村妙子, 2009. ナギサノシタタリ, 「干潟生物調査ガイドブック 東日本編」66-67p. ISBN 9784990423810, 日本国際湿地保全連合
  4. ^ a b c 黒住耐二, 2011. ナギサノシタタリ, 千葉県環境生活部自然保護課生物多様性センター編「千葉県の保護上重要な野生動物」6. 貝類482p. 2012.12.3閲覧
  5. ^ a b c d 木村昭一・福田宏, 2012. コデマリナギサノシタタリ, 日本ベントス学会編「干潟の絶滅危惧動物図鑑」100p., ISBN 9784486019435, 東海大学出版会
  6. ^ a b 木村昭一, 2009. ナギサノシタタリガイ, 愛知県環境部自然保護課・愛知県環境調査センター企画情報部編「レッドデータブックあいち2009」547p. 2012.12.3閲覧
  7. ^ a b 森敬介・飯間雅文・逸見泰久ほか, 2009. ナギサノシタタリ, 熊本県環境生活部自然保護課編「改訂・熊本県の保護上重要な野生動植物」9.海洋生物488p. 2012.12.3閲覧
  8. ^ a b c 近藤高貴ほか, 2012. 環境省第4次レッドリスト・貝類のレッドリスト新旧対照表7p., 17p. 2012.12.3閲覧
  9. ^ a b 松隈明彦, 2011. ナギサノシタタリガイ, 福岡県環境部自然環境課「福岡県の希少野生生物」. 2012.12.3閲覧
  10. ^ a b 野生生物調査協会・Envision環境保全事務所, 2012. 日本のレッドデータ検索システム ナギサノシタタリガイ. 2012.12.3閲覧
  11. ^ 兵庫県農政環境部環境創造局自然環境課編「兵庫県版レッドデータブック2003」. 2012.12.3閲覧
  12. ^ 矢野重文, 2004 ナギサノシタタリガイ, 香川県環境森林部みどり保全課「香川県レッドデータブック」. 2012.12.3閲覧
  13. ^ 中野環ほか, 2005. ナギサノシタタリガイ, 三重県環境森林部自然環境室「三重県レッドデータブック2005」. 2012.12.3閲覧
  14. ^ 濵田保・神田正人・室原誠司, 2011. ナギサノシタタリ, 大分県景観自然室「レッドデータブックおおいた2011」. 2012.12.3閲覧
  15. ^ 福田宏・川内野善治ほか, 2011. 長崎県環境部自然環境課「改訂版長崎県レッドリスト2011[リンク切れ]」. 2012.12.3閲覧