ドール
ドール | |||||||||||||||||||||||||||
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ドール Cuon alpinus
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保全状況評価[1][2][3] | |||||||||||||||||||||||||||
ENDANGERED (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) ワシントン条約附属書II
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分類 | |||||||||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||||||||
Cuon alpinus Pallas, 1811[3][5] | |||||||||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||||||||
ドール[5][6][7] | |||||||||||||||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||||||||||||||
Asian wild dog[3][6] Dhole[3][5][6][7] Indian wild dog[3][5] Red dog[3][5][6] |
ドール(豺、英: Dhole、学名:Cuon alpinus)は、哺乳綱食肉目イヌ科ドール属に分類される食肉類。本種のみでドール属を構成する[5]。別名アカオオカミ[7]。
分布
[編集]インド、インドネシア(ジャワ島、スマトラ島)、カンボジア、タイ王国、中華人民共和国、ネパール、バングラデシュ、ブータン、マレーシア(マレー半島)、ミャンマー、ラオス[3]。ベトナムでは絶滅したと考えられている[3]。アフガニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、大韓民国、タジキスタン、モンゴル国、ロシアでは絶滅[3]。
更新世や完新世初期の分布は現在よりも大幅に広く、ヨーロッパドールがヨーロッパ(イベリア半島やイタリア半島やドイツやチェコやコーカサスなど)に[8]、その他にもスリランカ[9]、ボルネオ島[10]、フィリピン[11]、海南島[12]、台湾[13]、日本列島(栃木県や北九州など)[14]、北米大陸(アラスカからメキシコ)[15]からも確認されている。
形態
[編集]頭胴長(体長)75 - 113センチメートル[5]。尾長28 - 50センチメートル[5]。肩高42 - 55センチメートル[5][7]。体重オス15 - 20キログラム、メス10 - 17キログラム[7]。背面は主に赤褐色、腹面・四肢の内側は淡褐色や黄白色[5]。尾の先端は黒い個体が多いが、先端が白い個体もいる[5]。
鼻面は短い[5]。門歯が上下6本ずつ、犬歯が上下2本ずつ、小臼歯が上下8本ずつ、大臼歯が上下4本ずつの計40本の歯を持つ[5]。上顎第4小臼歯および下顎第1大臼歯(裂肉歯)には、歯尖が1つしかない[16]。指趾は4本[7]。乳頭の数は12 - 16個(6 - 8対)[5][7]。
分類
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Lindblad-Toh et al. (2005)より核DNAの12のエクソンと4のイントロンの塩基配列を決定し最大節約法によって推定した系統樹からイヌ属を含む範囲を抜粋[17] |
歯尖が1つしかないことから、ヤブイヌ・リカオンと共にシモキオン亜科 Simocyoninae に分類する説もあった[16]。近年の分子系統解析では、本種やリカオンよりもイヌ属のセグロジャッカルやヨコスジジャッカルが初期に分岐したという解析結果が得られている[17]。
以下の亜種の分類は、Wozencraft (2005) に従う[4]。
- Cuon alpinus alpinus Pallas, 1811
- Cuon alpinus adustus Pocock, 1941
- Cuon alpinus fumosus Pocock, 1936
- Cuon alpinus laniger Pocock, 1936
- Cuon alpinus lepturus Heudes, 1892
- Cuon alpinus sumatrensis Hardwicke, 1821
生態
[編集]一次林や二次林、乾燥林から湿潤林、常緑樹林から広葉落葉樹林・針葉樹林など様々な森林に生息し、草原や森林がパッチ状に点在する環境やステップにも生息する[3]。朝や夕方に活発に活動するが[5]、夜間に活動する事もある[7]。5 - 12頭からなるメスが多い家族群を基にした群れを形成し生活するが[6]、20 - 40頭の群れを形成する事もある[5]。狩りを始める前や狩りが失敗した時には互いに鳴き声をあげ、群れを集結させる[6]。群れは排泄場所を共有し、これにより他の群れに対して縄張りを主張する効果があり嗅覚が重要なコミュニケーション手段だと考えられている[6]。
シカ類・レイヨウ類も含むウシ類・イノシシなどを食べる[5]。齧歯類や爬虫類、昆虫、果実などを食べることもある[5][6]。自分たちで狩った獲物や、他の動物が狩った動物の死骸も食べる[6]。獲物は臭いで追跡し[5]、丈の長い草などで目視できない場合は後肢で直立したり跳躍して獲物を探す事もある[6]。茂みの中で横一列に隊列を組んで獲物を探しつつ追い立て、他の個体が開けた場所で待ち伏せる[6]。大型の獲物は背後から腹や尻のような柔らかい場所に噛みつき、内臓を引き裂いて倒す[6]。群れでトラやヒョウなどから獲物を奪う事もある[5][7]。
繁殖様式は胎生。インドでは9 - 11月に交尾を行う[7]。妊娠期間は60 - 70日[5]。11月から翌4月に出産する[6]。1回に2 - 9頭の幼獣を産む[5]。繁殖は群れ内で1頭のメスのみが行う[5]。授乳期間は2か月[7]。群れの他の個体が母親や幼獣を手助けし[6]、獲物を吐き戻して与える[5]。幼獣は生後14日で開眼する[5]。生後70 - 80日で巣穴の外に出て、生後5か月で群れの後を追うようになる[6]。生後7 - 8か月で狩りに加わる[7]。生後1年で性成熟する[5][6]。
人間との関係
[編集]生息地では狩りが残忍とみなされたり狩猟の競合相手となることから、報奨金をかけられたり毒餌で駆除される事もある[6]。
道路建設・ダム建設・農地開発・放牧などによる生息地の破壊、狩猟による獲物の減少、害獣としての駆除などにより、生息数は減少している。狂犬病やジステンパーなどのイヌからの伝染病による影響も懸念されている[3][7]。1975年のワシントン条約発効時から、ワシントン条約附属書IIに掲載されている[2]。
2013年時点で、少なくとも38施設で223頭が飼育されている[3]。日本では2020年の時点でクオン・アルピヌスとして、特定動物に指定されている[18]。
出典
[編集]- ^ Appendices I, II and III (valid from 26 November 2019)<https://cites.org/eng> (downroad 27/04/2020)
- ^ a b UNEP (2020). Cuon alpinus. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. (downroad 27/04/2020)
- ^ a b c d e f g h i j k l Kamler, J.F., Songsasen, N., Jenks, K., Srivathsa, A., Sheng, L. & Kunkel, K. 2015. Cuon alpinus. The IUCN Red List of Threatened Species 2015: e.T5953A72477893. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2015-4.RLTS.T5953A72477893.en. Downloaded on 27 April 2020.
- ^ a b W. Christopher Wozencraft, "Order Carnivora," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Johns Hopkins University Press, 2005, Pages 532-636.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z 増井光子 「イヌ科の分類」『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』今泉吉典監修、東京動物園協会、1991年、124-149頁。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q A. J. T. Johnsignh 「ドール」山本伊津子訳『動物大百科1 食肉類』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、92-93頁。
- ^ a b c d e f g h i j k l m 小原秀雄 「ドール(アカオオカミ)」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ4 インド、インドシナ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、141-142頁。
- ^ Ripoll, M.P.R.; Morales Pérez, J.V.; Sanchis Serra, A. et al. (2010). “Presence of the genus Cuon in upper Pleistocene and initial Holocene sites of the Iberian Peninsula: New remains identified in archaeological contexts of the Mediterranean region”. Journal of Archaeological Science 37 (3): 437–450. Bibcode: 2010JArSc..37..437R. doi:10.1016/j.jas.2009.10.008.
- ^ Nowak, R. M. (2005). “Cuon”. Walker's Carnivores of the World. Baltimore, Maryland: Johns Hopkins University Press. pp. 110–111. ISBN 9780801880322
- ^ Cranbrook, E. (1988). “The contribution of archaeology to the zoogeography of Borneo : with the first record of a wild canid of Early Holocene Age ; a contribution in celebration of the distinguished scholarship of Robert F. Inger on the occasion of his sixty-fifth birthday”. Fieldiana Zoology. 42: 6–24 .
- ^ Piper, P.J.; Ochoa, J.B.; Robles, E.C. et al. (2011). “Palaeozoology of Palawan Island, Philippines”. Quaternary International 233 (2): 142–158. Bibcode: 2011QuInt.233..142P. doi:10.1016/j.quaint.2010.07.009 .
- ^ Turvey, S.T.; Walsh, C.; Hansford, J.P. et al. (2019). “Complementarity, completeness and quality of long-term faunal archives in an Asian biodiversity hotspot”. Philosophical Transactions of the Royal Society B: Biological Sciences 374 (1788): 20190217. doi:10.1098/rstb.2019.0217. PMC 6863502. PMID 31679488 .
- ^ “疑豺、狼化石 大甲溪床現蹤” (中国語). Taiwan Geoscience Portal (October 2009). 2024年1月23日閲覧。
- ^ Ogino, S.; Otsuka, H.; Harunari, H. (December 2009). “The Middle Pleistocene Matsugae Fauna, Northern Kyushu, West Japan”. Paleontological Research 13 (4): 367–384. doi:10.2517/1342-8144-13.4.367.
- ^ Kurtén, B. (1980). Pleistocene mammals of North America. Columbia University Press. p. 172. ISBN 0231516967
- ^ a b David W. Macdonald 「イヌ科」山本伊津子訳『動物大百科 1 食肉類』今泉吉典監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、66-67頁。
- ^ a b Kerstin Lindblad-Toh, et al., "Genome sequence, comparative analysis and haplotype structure of the domestic dog," Nature, Volume 438, Number 7069, 2005, pp. 803-819.
- ^ 特定動物リスト (動物の愛護と適切な管理) (環境省・2020年4月27日に利用)