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チュクチ=カムチャツカ祖語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

チュクチ=カムチャッカ祖語は、チュクチ=カムチャツカ諸語の言語学的に再建された共通祖先である。チュクチ=カムチャッカ祖語は、西方のトナカイ遊牧民がチュクチ=カムチャッカ語族の故地に移住し、もともといた人々が新しい生活様式を採用した紀元前2000年頃に、北部(チュクチ語派)と南部(イテリメン語派)に分岐したとされている[1]


マイケル・フォーテスキューは、その著書Comparative Chukotko-Kamchatkan Dictionary(2005年)の中で、再建を発表している。

音韻

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フォーテスキューによれば、チュクチ=カムチャツカ祖語には次の音素があった(国際音声記号で示す)。

唇音 歯茎音 硬口蓋音 軟口蓋音 口蓋垂音
閉鎖音 [*p] [*t] [*c] [*k] [*q]
摩擦音 [*v] [*ð] [*ɣ] [*ʁ]
鼻音 [*m] [*n] [*ŋ]
接近音 [*w] [*l] [*j]
R音 [*r]


母音

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前母音 中母音 後母音
狭母音 [i] [u]
中央母音 [e] [ə] [o]
広母音 [æ] [a]

文法

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チュクチ=カムチャツカ祖語には名詞に11個の格からなる体系があったと一般に認められているが、 Dibella Wdzenczny は、これらは先チュクチ=カムチャツカ祖語の6個の格から進化したという仮説を立てている[1]。以下は、チュクチ=カムチャツカ祖語に再建された格体系である。[2]

曲用1[定訳なし](単数) 曲用2[定訳なし](単数) 曲用1(複数) 曲用2(複数)
絶対格 [-∅/-(ə)n/-ŋæ/-lŋǝn] [-(ǝ)n] [-t] [-(ǝ)nti]
与格 [-(ǝ)ŋ] [-(ǝ)naŋ] [-(ǝ)ðɣǝnaŋ]
処格 [-(ǝ)k] [-(ǝ)næk] [-(ǝ)ðǝk]
具格 [-tæ] [-(ǝ)næk] [-(ǝ)ðǝk]
共格 [kæ- -tæ] - -
結合格英語版 [ka- -ma] - -
指示格[定訳なし]英語: referential [-kjit] [-(ǝ)nækjit] [-(ǝ)ðǝkækjit]
奪格 [-ŋqo(rǝŋ)] [-(ǝ)naŋqo(rǝŋ)] [-(ǝ)ðǝkaŋqo(rǝŋ)]
通格英語版 [-jǝpǝŋ] [-(ǝ)najpǝŋ] [-(ǝ)ðǝkajpǝŋ]
向格 [-jǝtǝŋ] [-(ǝ)najtǝŋ] [-(ǝ)ðǝkajtǝŋ]
限定格[定訳なし]英語: attributive [-nu] [-(ǝ)nu] [-(ǝ)ðɣǝnu]

※曲用1の名詞(ほとんどが無生)は絶対格でのみ複数形を標示する。

チュクチ=カムチャツカ祖語は対格言語であったと考えられており、現在のチュクチ=カムチャッカ諸語の能格的側面は、おそらく近隣のエスキモー=アレウト語族との接触を通じて、(北部)チュクチ語派で後からもたらされた。これは、エスキモー・アレウト語族が到達した地域よりも南で話されているイテリメン語に能格性がない理由を説明できる。しかし、一部の研究者は、チュクチ・カムチャッカ語祖語は能格性を有しており、時とともにその特徴を喪失していったと主張している。

関連項目

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出典

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  1. ^ a b Dibella Wdzenczny. “The Case for Fewer Cases in Pre-ChukotkoKamchatkan: Grammaticalization and Semantics in Internal Reconstruction”. Commons.emich.edu. 2016年4月3日閲覧。
  2. ^ Cultural Studies (22 December 2011). Proto-CK (and Proto-C) inflections : Comparative Chukotko-Kamchatkan Dictionary. De Gruyter Mouton. ISBN 9783110925388. http://www.degruyter.com/view/books/9783110925388/9783110925388.426/9783110925388.426.xml?format=EBOK 2016年4月3日閲覧。