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セイヨウキヅタ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
セイヨウキヅタ
成葉と果実
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
階級なし : キク類 asterids
階級なし : 真正キク類II euasterids II
: セリ目 Apiales
: ウコギ科 Araliaceae
: キヅタ属 Hedera
: セイヨウキヅタ H. helix
学名
Hedera helix (L.)
英名
ivy
common ivy
English ivy
European ivy

セイヨウキヅタ (学名:Hedera helix) は、ヨーロッパ西アジアのほとんどの地域で自生しているウコギ科被子植物である。別名アイビー。

語源

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学名のヘデラ(Hedera)はツタの総称である。小名のヘリックス(helix) は古代ギリシャ語の「ねじれ」を意味する言葉から派生した[1]

概要

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セイヨウキヅタは、 常緑つる植物であり、高さ20-30メートルに成長し、細根を利用して、崖や壁などによじ登って成長する。また、垂直面以外の場所でも地面を覆うようにして成長する。

葉は互生で、長さ50-100mm、葉柄は15-20mmである。葉は若葉のときは掌状で5裂であるが、成葉になると切れ込みが見られず心臓のような形となる。花は、それぞれ直径3-5センチであり、小さな緑がかった黄色をしている。そして蜜が豊富にあり、晩夏から晩秋までのミツバチや他の昆虫のための重要な食料源となる。 果実は直径6-8 mmで、冬の終わり頃に橙黄色から紫黒色に成熟する[2]。人間にとっては有毒であるが、多くの鳥にとっては重要な食料である。

果実には種子が5個あり、鳥に食べられることにより、広範囲に種子が散布される[3][4][5]

自生範囲

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セイヨウキヅタは、アイルランドスカンジナビア半島南部、ポルトガル南部、ウクライナ東部、イランおよびトルコ北部にかけて自生している。 北限地あるいは東限地は冬になると約-2℃になるが、西限地と南西限地では、他種のキヅタに遷移している[3][4][5][6][7][8]

栽培と用途

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セイヨウキヅタは、観葉植物として広く栽培されている。葉形や葉色(斑)などがバラエティに富み、多数の園芸品種がある。増やし方は、挿し木、水挿し、伏せ芽といった手法で、春か秋に増やすと成功しやすい[9]。また、壁面緑化の定番植物として利用されている[10]

自生地では、他の生物を数多く集めている。花には、70種以上の昆虫が蜜を求めて集まり、少なくとも16種の鳥が実を食べている。葉は密集した状態になることから緑の避難所としての役割を提供し、また、シカの餌となる[3][11]

人との関わり

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ギリシャでは、婚礼の祭壇に必ずキヅタが飾られる。この祭壇は、結婚を司る神ヒュメナイオスを祀っており[12]、キヅタは結婚を象徴する植物として愛されている[13]

アメリカでは、東部の名門私立大学8校グループをアイビー・リーグと呼ぶが、名前の由来は諸説あるが、蔦 (Ivy) が絡まる由緒ある古いレンガ造りの校舎を持っていることから命名されたとされている。

ギャラリー

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管理上の注意

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セイヨウキヅタは、地植えすると成長速度が速くなる。極端に伸びたつるが隣家に侵入するなど、場合によっては近隣とのトラブルに発展しうる厄介な植物になる[14]

侵入生物種

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セイヨウキヅタは、他の外来種のように主に人の手によって世界中に広がった。侵入種として指定されている地域もあり、アメリカオレゴン州では、2010年2月にセイヨウキヅタの輸送、販売、繁殖が禁止された[15]

現在より湿度の高かった第三紀には温帯雨林地中海沿岸の地域を覆っており、その名残としてゲッケイジュセイヨウヒイラギが広く自生している。氷河作用により、セイヨウキヅタはいったん姿を消したが、温暖な気候に戻った時、鳥により再び大陸に広がったと考えられている[16]。 セイヨウキヅタの適用能力により、原産地であるヨーロッパと似た気候であればどの地域でも生育することができ、いくつかの種への分化も見られている。

建物への被害

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古い建物の壁を覆うアイビーの姿は、多くの場合魅力的な光景である。断熱効果の利点があるが、管理されていなければ問題が生じる。特にセイヨウキヅタは、非常に急速に成長し、茎全体に沿って生えてくる細根によってしがみつく。これらは、壁に見苦しい「あしあと」を残すことになる。除去するのが困難であり、場合によっては高価な再舗装作業を行う必要が出てくることもある。さらに、溝や屋根裏に侵入し、タイルを持ち上げて、排水路を塞ぐこともある。そのことが、ネズミなどの厄介生物の住処となる場合もある。再び生えてこなくするには、根元で切断し、切り株を掘り上げて根絶やしにする必要がある[17]

脚注

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  1. ^ Harrison, Lorraine (2012). RHS Latin for gardeners. United Kingdom: Mitchell Beazley. p. 224. ISBN 978-1-84533-731-5 
  2. ^ RHS A-Z encyclopedia of garden plants. United Kingdom: Dorling Kindersley. (2008). p. 1136. ISBN 1-4053-3296-4 
  3. ^ a b c Metcalfe, D. J. (2005). Biological Flora of the British Isles no. 268 Hedera helix L. Journal of Ecology 93: 632?648.
  4. ^ a b McAllister, H. (1982). New work on ivies. Int. Dendrol. Soc. Yearbook 1981: 106-109.
  5. ^ a b Flora of NW Europe
  6. ^ Ackerfield, J. & Wen, J. (2002). A morphometric analysis of Hedera L. (the ivy genus, Araliaceae) and its taxonomic implications. Archived 2011年8月8日, at the Wayback Machine. Adansonia ser. 3, 24 (2): 197-212.
  7. ^ Flora Europaea: Hedera helix
  8. ^ Stace, C. A. & Thompson, H. (1997). New Flora of the British Isles. Cambridge University Press ISBN 0-521-58935-5
  9. ^ アイビーの増やし方と育て方!人気の水栽培やインテリアもご紹介”. HitoHabaNote. 株式会社Beer and Tech (2018年11月2日). 2025年1月22日閲覧。
  10. ^ 外壁で植物を育てる壁面緑化|緑豊かな壁をつくるポイントとは?”. 株式会社コージーライフ (2022年6月1日). 2025年1月22日閲覧。
  11. ^ Plant for Wildlife: Common Ivy (Hedera helix)
  12. ^ 瀧井康勝『366日 誕生花の本』日本ヴォーグ社、1990年11月30日、24頁。 
  13. ^ ちょっと怖いアイビーの花言葉知ってる? 贈る時、育てる時のポイントを解説”. Oggi.jp. 小学館 (2021年1月29日). 2025年1月22日閲覧。
  14. ^ 愛らしくて恐ろしいつる植物「アイビー」を育てた体験談。育て方やトラブルを避けるための注意点”. 株式会社LIFULL (2023年1月3日). 2025年1月22日閲覧。
  15. ^ Oregon bans sale of English ivy, butterfly bushes” (英語). oregonlive (2010年2月10日). 2025年1月22日閲覧。
  16. ^ English ivy (Hedera helix L.)”. INVASIVE.ORG. 2025年1月22日閲覧。
  17. ^ Ivy on buildings”. Royal Horticultural Society. 21 June 2013閲覧。[リンク切れ]

外部リンク

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