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スカシガイ科

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
スカシガイ科
生息年代: 三畳紀現世
Keyhole limpet 01
Diodora cayensisアメリカ東岸産
分類
: 動物Animalia
: 軟体動物Mollusca
: 腹足綱 Gastropoda
亜綱 : 古腹足類 Vetigastropoda[1]
:  深海白笠目 Lepetellida
: スカシガイ科 Fissurellidae
学名
Fissurellidae
J. Fleming, 1822[2]

スカシガイ科(スカシガイか、Fissurellidae)は古腹足類に属する巻貝の一群で、笠形の貝殻を持つ軟体動物。笠形の殻頂に孔が開いた種や貝殻の裾に切れ込みがある種が多く、一見カサガイと似ているが異なるグループである[3]。世界中の海の岩礁に付着して生きている。日本産は約60種[4]。英語では"keyhole limpet"と呼ばれる。

外観

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成貝は笠形の貝殻を持つ。裾に切れ込みがある種(スソキレガイなど)、殻頂に孔が開いた種(テンガイガイなど)、両者の中間で笠形の斜面の中ほどに孔をもつ種(ヤブレガサなど)のほか、貝殻に孔も切れ込みもない種もある(オトメガサなど)。軟体部は貝殻の下にほぼおさまる種(コウダカスカシガイなど)のほか、殻長の約2倍の長さに広がる軟体部に貝殻を帽子のように被る種(スカシガサなど)や、軟体部を広げて薄くて小さい貝殻をほぼ完全に覆い隠す種もある(オトメガサなど) [4]テンガイ属の一種が詳細に解剖調査されている。口(鼻)は丸く、左右に短めの触角と眼がある。頭の後ろから体の中ほどにかけて左右両側に長い鰓がある。貝殻を固定する筋肉は前方が開いた深いC字形である[注釈 1]。歯舌は扇舌型(Rhipidoglossan)[5]。古腹足類に特徴的な触角器官として上足突起を持つが、イシダタミ等のように長くは発達しない[6]。足の上にあって鰓を覆う外套膜の外周にも突起が並ぶ[5]

生態

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潮間帯から水深数百mの海底の岩礁に付着して扇舌型の歯舌藻類などを削り取って食べる。雌雄の別があり、放精・放卵により体外受精する。幼生はプランクトン栄養型。幼貝は切れ込みがある巻貝を持ち、成長するにつれて種によっては孔が殻頂へと移動する[7]。外套膜下から海水を取り込んで鰓でろ過した後、孔や切れ込みから排水する。切れ込みや孔のすぐそばに肛門があって、岩礁に固着しながら排泄物を排出するのに役立っている[8][注釈 2]フエフキダイ科の魚に食われることがある[9]テンガイ属の貝はヒトデに襲われそうになると外套膜で貝殻を覆って身を守る[10]

分布

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種や属によって限定される場合があるが、南極グリーンランドも含む世界中の海に生息する[11]

系統発生

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スカシガイ科の系統分岐図の一部と種・分布域の例を下に示す[12][4][13]
殻の特徴について略号を付した。(0):孔あり、(Π):切れ込みあり、(-):両方なし[注釈 3]

スカシガイ科
チドリガサ亜科

Hemitoma ハッポウスソカケガイ、熱帯アメリカ東岸 (-)

Puncturella コウダカスカシガイ (0:中ほどに孔)、常磐以北水深50m   

Zeidorinae
スソキレガイ亜科

Montfortula スソカケガイ (-) 房総以南、潮間帯

Sukutus オトメガサ (-) 北海道南部以南、潮間帯以下    

Emarginula スソキレガイ (Π) 房総以南、潮間帯下    

クズヤガイ亜科

Lucapina フジイロテンガイガイ (O) 熱帯アメリカ東岸

Diodora クズヤガイ (O) 房総以南、潮間帯下

Diodorinae
スカシガイ亜科

Fissurella スカシガイ (0) 房総以南、潮間帯下

Amblychilepas タテガタスカシガイ (0) 南アフリカ潮間帯、オーストラリア

Fissurellinae
Emarginulinae

その他の古腹足類 🐚

Cunha, Reimer & Giribet (2022)によるスカシガイ科の系統分岐図の一部[12]
(0):孔あり、(Π):切れ込みあり、(-):両方なし

種類

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現生の主な亜科と属および種と産地の例を以下に示す[2]

クズヤガイ亜科 Diodorinae Odhner, 1932 (6属)

  • Cosmetalepas Iredale, 1924 (o)
  • Diodora Gray, 1821 テンガイ(天蓋)、クズヤガイ(葛屋貝) (o)[14], 小柴鮮新世[15]
  • Fissurellidea d'Orbigny, 1839 = Megatabennus オオアナテンガイガイ (O) 南アフリカ、アラスカ[16]
  • Lucapina Gray in G. B. Sowerby I, 1835 (o) フジイロテンガイガイ 熱帯アメリカ東岸[16]
  • Megathura Pilsbry, 1890 ダイオウテンガイガイ (O)、カリフォルニア産[16]
  • Monodilepas H. J. Finlay, 1926 (o)
オトメガサとクズヤガイの貝殻


スソキレガイ亜科 Emarginulinae Children, 1834 (22属)

Emerginula striatula, ニュージーランド産、内面


スカシガイ亜科 Fissurellinae J. Fleming, 1822 (7属)

Fissurella volcano, カリフォルニア産


亜科 Rimulinae Anton, 1838


Hemitomaの一種

亜科 Zeidorinae Naef, 1913 (Hemitominae[7]) “フネスソキレガイ亜科” (10属)

人との関係

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江戸時代末期の武蔵石壽服部雪斎による『目八譜』十一巻『對無』編に本科の貝が紹介されている(26 葛屋介、27 天蓋[32]、49 乙女笠、50 透介[33])。食用になるのか、本科のなかでは大型のサルアワビで試された結果、苦みと酸味があってまずかった[34]チリ産のダイオウスカシガイは食用となる。

脚注

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注釈

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  1. ^ 本科のうちスソカケガイ等と外観が似たカラマツガイ科は鰓呼吸ではなく肺呼吸を行うため、左側に通気口を持ち、左側が開いたC字型の筋肉をもつ。
  2. ^ 貝殻の切れ込みはオキナエビスガイ科の殻口の切れ込みに相当する。
  3. ^ 貝殻に小孔が並ぶミミガイ科が本科の前に分化したか、後で分化したかはまだ確定していない。

出典

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  1. ^ 佐々木 2010, p. 62.
  2. ^ a b Fissurelidae”. WoRMS Gary Rosenberg. 2023年12月31日閲覧。
  3. ^ 佐々木 2010, p. 62-63.
  4. ^ a b c d e f g h 奥谷 2004, p. 34-35.
  5. ^ a b Simone 2008, p. 295-297.
  6. ^ 佐々木 2010, p. 249.
  7. ^ a b 奥谷 2004, p. 34.
  8. ^ 佐々木 2010, p. 156-158.
  9. ^ 小菅丈治 2006.
  10. ^ Rough Keyhole Limpet”. JungleDragon. 2024年1月1日閲覧。
  11. ^ Fissurellidae”. gbif. 2023年12月31日閲覧。
  12. ^ a b Cunha, Reimer & Giribet 2022, p. 1015.
  13. ^ アボット & ダンス 1989, p. 28-32.
  14. ^ a b c d 奥谷 2004, p. 35.
  15. ^ 佐々木 et al. 2009, p. 37-39.
  16. ^ a b c アボット & ダンス 1989, p. 30.
  17. ^ a b アボット & ダンス 1989, p. 29.
  18. ^ a b 波部 1953, p. 43, 51.
  19. ^ 佐々木 et al. 2009, p. 32, 40-41.
  20. ^ 佐々木 et al. 2009, p. 31.
  21. ^ 波部 1953, p. 45, 51.
  22. ^ 波部 1953, p. 47, 51.
  23. ^ McLean & Kilburn 1986, p. 9-10.
  24. ^ McLean & Kilburn 1986, p. 6-9.
  25. ^ アボット & ダンス 1989, p. 31-32.
  26. ^ 佐々木 et al. 2009, p. 30.
  27. ^ McLean & Kilburn 1986, p. 3-6, 11.
  28. ^ 知野 2009.
  29. ^ アボット & ダンス 1989, p. 28.
  30. ^ 波部 1953, p. 47.
  31. ^ a b 吉良 & 波部 1949.
  32. ^ 二十六 葛屋介”. 武蔵石壽. 2023年12月31日閲覧。
  33. ^ 五十 透介”. 武蔵石壽. 2023年12月31日閲覧。
  34. ^ サルアワビ”. 藤原昌高. 2023年12月31日閲覧。

参考文献

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  • 武蔵石壽服部雪斎『目八譜』 第十一巻 對無、1843年。NDLJP:1287306 
  • 吉良哲明、波部忠重「カフダカスカシガヒ屬の日本産の種類に就いて」『貝類學雜誌』第15巻第5-8号、日本貝類学会、1949年、84-89頁。 
  • T. Habe (1953). “Fissurellidae in Japan (2)”. Publication of the Seto Marine Biological Laboratory (Kyoto University Research Information Reepository) 3 (1): 33-50. 
  • McLean; Kilburn (1986). Propodial Elaboration in Southern African and Indian Ocean Fissurellidae (Mollusca: Prosobranchia) with Descriptions of Two New Genera and One New Species. Natural History Museum of Los Angels Country. pp. 1-12. 
  • 奥谷喬司『世界文化生物大図鑑貝類』(改訂新版)世界文化社、2004年。ISBN 9784418049042全国書誌番号:20617488https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000007382848-00 
  • 小菅丈治「ヨコシマクロダイ類の消化管内容物として得られたヒノデサルアワビ」『日本貝類学研究連絡誌ちりぼたん』第37巻第2号、日本貝類学会、2006年、54-56頁。 
  • Simone (2008). “A New Species of Fissurella from São Pedro e São Paulo Archipelago, Brazil (Vetigastropoda, Fissurellidae)”. The Veliger (CMS, Inc.) 50 (4): 292-304. 
  • 知野光雄「New Species of the Genus Cornisepta McLean, 1988 (Gastropoda: Fissurellidae) from Japan」『貝類学雑誌Venus』第68巻第1-2号、日本貝類学会、2009年、63-66頁。 
  • 佐々木猛智、松原尚志、伊藤康弘、天野和孝「東京大学総合研究博物館所蔵の新生代軟体動物タイプ標本図説5.スカシガイ科」『日本貝類学研究連絡誌ちりぼたん』第40巻第1号、日本貝類学会、2009年、29-44頁。 
  • 佐々木猛智『貝類学』東京大学出版会、2010年。ISBN 9784130601900全国書誌番号:21846371https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000010979473-00 
  • Cunha; Reimer; Giribet (2022). “Investigating Sources of Conflict in Deep Phylogenomics of Vetigastropod Snails”. Systematic Biology 71 (4): 1009-1022. doi:10.1093/sysbio/syab071. 

関連項目

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外部リンク

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