ジェモー
『ジェモー』(Gémeaux )は武満徹による「オーボエ、トロンボーン、2つのオーケストラ、2人の指揮者のための」音楽作品。作曲に15年の歳月が費やされた。
作曲の経緯
[編集]1971年に、翌年のロワイヤン音楽祭のために委嘱されて作曲が始められた[1]。同音楽祭で、現在の第1楽章に相当する部分が初演される予定だったが、出演料を巡って主催者と対立したオーケストラの団員がストライキを起こし[2]、更に、出演料でもめている間に曲の委嘱者が降りたり、演奏者により演奏がキャンセルされたため、初演のめどが立たなくなった[1]。その後、演奏される可能性もないまま15年に渡って少しずつスケッチを書き進めたが、1986年10月に全曲がサントリーホール開館記念のための委嘱作品 (サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ) として初演された[3]。当初、独奏者として、オーボエにはハインツ・ホリガーが、トロンボーンにはヴィンコ・グロボカールがそれぞれ想定されていた[1][注 1]。
曲の構成
[編集]「ジェモー」はフランス語でふたご座を意味する。武満の解説によれば、『ジェモー』は「音楽による恋愛劇であり、ふたつのもの、時に相反するものが、愛により帰一する態を描いている。」[1]また、つねに“2”という数が支配的であり、瀧口修造の『手づくり諺』からの
きみの眼、きみの手、きみの乳房
きみはひとりの雙子だ
に大きな影響を受けた、とも述べている[1]。ステージに向かって左側のオーケストラはマンドリンとチェレスタ、右側はギターとピアノが使われるという若干の違いはあるが、オーケストラは左右とも2管編成を基本とした同じ編成で、舞台上では左右対称に配置される[1]。管弦楽作品というより、大規模な室内楽曲の集合体の観をなしており、演奏者にも高度な技術が要求される[1]。曲は4楽章からなり
- strophe
- genesis
- traces
- antistrophe
と題されている[1]。
初演
[編集]1986年10月15日、サントリーホールにおいて、ブルクハルト・グレッツナー(オーボエ)、ヴィンコ・グロボカール(トロンボーン)、尾高忠明指揮・東京フィルハーモニー交響楽団、井上道義指揮・新日本フィルハーモニー交響楽団によって世界初演された[3]。
2人のソリスト、2群のオーケストラと2人の指揮者が必要なために費用がかさむことが祟って、以後、滅多に演奏されず、武満の存命中、初演を含めて3回[注 2] しか演奏されなかった[1][2]。武満没後もほとんど演奏されていない。例外的に、武満徹没後10年を記念した企画「武満徹|Visions in Time」の中で、2006年5月28日に、クリスティアン・リンドベルイ(トロンボーン)、古部賢一(オーボエ)、若杉弘[注 3]、高関健指揮、東京フィルハーモニー交響楽団によって演奏され[5]、NHK-FMの「現代の音楽」で放送された。
編成
[編集]- 第1オーケストラ
- フルート 2 (1番はピッコロ持ち替え、2番はピッコロとアルト・フルート持ち替え)
- オーボエ 1 (コール・アングレ持ち替え)
- クラリネット 2 (1番は小クラリネットとバスクラリネット持ち替え、2番はコントラバスクラリネット持ち替え)
- ファゴット 2 (2番はコントラファゴット持ち替え)
- ホルン 3
- トランペット 2
- トロンボーン 2
- 打楽器 3 (グロッケンシュピール、ヴィブラフォン、マリンバ、チューブラーベル、ゴング 2、タムタム 3、Almgl 2、ペダル・ティンパニ上に置いた
鏧子 4、マラカス、大太鼓、吊りシンバル 3、アンティーク・シンバル - ハープ 1
- チェレスタ 1
- マンドリン 1
- 弦5部 (第1ヴァイオリン 12、第2ヴァイオリン 0、ヴィオラ 6、チェロ 5、コントラバス 4)
- 第2オーケストラ
- フルート 2 (2番はピッコロとアルト・フルート持ち替え)
- オーボエ 1 (コール・アングレ持ち替え)
- クラリネット 2 (1番は小クラリネット持ち替え、2番はバスクラリネット持ち替え)
- ファゴット 2 (2番はコントラファゴット持ち替え)
- ホルン 3
- トランペット 2
- トロンボーン 2
- 打楽器 3 (グロッケンシュピール、ヴィブラフォン、マリンバ、チューブラーベル、ゴング 3、タンバリン、タムタム 3、Almgl 2、ペダル・ティンパニ上に置いた
鏧子 4、マラカス、吊りシンバル 3、アンティーク・シンバル - ハープ 1
- ピアノ 1
- ギター 1
- 弦5部 (第1ヴァイオリン 12、第2ヴァイオリン 0、ヴィオラ 6、チェロ 5、コントラバス 4)
- 独奏オーボエ
- 独奏トロンボーン
演奏時間
[編集]演奏時間は約30分と、武満の曲にしては異例の長さである。
出版
[編集]録音
[編集]上記の通り、多くの演奏が望めなかったため、武満自身この録音を非常に喜んだ。
- 「武満徹の宇宙 Cosmos of Toru Takemitsu」財団法人東京オペラシティ文化財団・タワーレコード TOCCF-10、古部賢一(オーボエ)、クリスティアン・リンドベルイ(トロンボーン)、若杉弘(第1オーケストラ)、高関健(第2オーケストラ)指揮、東京フィルハーモニー交響楽団(2006年5月28日、東京オペラシティ・コンサートホール〈タケミツメモリアル〉、ライブ録音)
脚注
[編集]注
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e f g h i j 武満徹 ジェモー、日本コロンビア COCO-78944、ライナーノーツ
- ^ a b 立花隆『武満徹・音楽創造への旅』文藝春秋、2016年2月20日、570-571頁。ISBN 978-4-16-390409-2。
- ^ a b “ショット・ミュージック社 武満徹作品情報「ジェモー」”. 2024年8月22日閲覧。
- ^ ピーター・バート『武満徹の音楽』音楽之友社、2006年2月10日、179頁。ISBN 4-276-13274-6。
- ^ a b c 武満徹の宇宙 Cosmos of Toru Takemitsu、フォンテックTOCCF-10、ライナーノーツ
外部リンク
[編集]- 「武満徹のエラボレーション」 - 2001年2月22日〈夢窓〉(夢の記憶・未来への窓)武満徹没後5年特別企画「音と言葉」(東京オペラシティー文化財団) における大江健三郎の講演
- 追悼 武満徹