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サマリア語

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
サマリア語
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話される国 イスラエル
地域 主にサマリア地方及びホロン
話者数 1,000人以下(宗教行事でのみ使用される)
言語系統
表記体系 サマリア文字
言語コード
ISO 639-3 smp
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サマリア語(サマリアご、Samaritan Hebrew language)とは、サマリア人が、サマリア五書を朗読する際に使用する 聖書ヘブライ語から発展した言語。ヘブライ語の一種と見なされることが多い。

書記体系

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現在、ヘブライ語で使用されているヘブライ文字は、アラム文字から発展したものだが、サマリア語では、それより古くに使用されていた古ヘブライ文字(Paleo – Hebrew alphabet)から直接発展した サマリア文字(Samaritan alphabet)を用いる(古ヘブライ文字自体はフェニキア文字の一種である)。

発音

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サマリア語の発音は、他のヘブライ語とはいくつかの点で差異が大きい。咽頭音ヘー及びヘットの音は母音に変化するか、消滅している。 ベートヴァヴは共に 'b' で発音され(字母の名称はそれぞれ Bît および Ba である)、ヴァヴ倒置法(聖書ヘブライ語で、文頭にヴァヴが置かれた場合、動詞の時制(完了態と未完了態)が逆になる現象。この場合、完了態の動詞が表す時制は未完了態になり、未完了態の動詞の時制は完了態を表す)の時だけ 'u' と発音される。シンの文字の音値は、ヘブライ語と異なり 'sh' 1つのみである。ダゲッシュの付いた文字は長子音として発音される。アクセントは通常最終から2番目の音節に置かれる。

文法

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代名詞

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人称代名詞

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anáki
あなた(男性単数) átta
あなた(女性単数) átti (語尾に 'ヨッド' の文字が付加される)
û
彼女 î
我々 anánu
あなたがた(男性複数) attímma
あなたがた(女性複数) éttên
彼ら(男性) ímma
彼女ら(女性) ínna

指示代名詞

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これ: 男性形 ze, 女性形 zéot, 複数 ílla

あれ: alaz(語頭に 'ヘー' の文字が付く)

関係代名詞

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éšar(人、物とも共通)

疑問代名詞

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誰 = mi  何 = ma

名詞

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名詞に接尾辞が付く場合、最終音節の母音 ê は î に、ô は û に変化する。例:bôr "穴(単数)" > búrôt "同"(複数形を表す接尾辞が付いた形)。また、af "怒り" > éppa "彼女の怒り"(所有を表す人称接尾辞が付いた形)。

ミルエル形の名詞(ヘブライ語の名詞の分類で、最後から2番目の母音にアクセントのあるもの。母音記号セゴール(/e/)が最終母音になっているものが多いため、セゴリームともいう)の変化は、ヘブライ語と同様である。例:beţen "腹" > báţnek "あなたの腹", kesef "銀" > kesfánu "我々の銀", dérek "道" > dirkakimma "あなたがた(男性)の道" ただし áreş "土地" > árşak "あなたの土地"

冠詞

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定冠詞は、a- または e- で、定冠詞の付いた語の最初の子音は、咽頭音や声門破裂音でなければ長子音になる。サマリア文字では、'ヘー'(ヘブライ文字の 'ה' に相当)で表記されるが、'h' の音は発音されない。例: énnar / ánnar = "(その)若者the youth"; ellêm = "(その)肉"; a'émur = "(その)ロバ"

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複数形の語尾は -êm (男性名詞)、 -ôt (女性名詞)となる。

eyyamêm "その日々", elamôt "夢(複数)"

双数形は -ayem (šenatayem "2年")で表される場合もあるが、通常は複数形と同じ語尾で表される(yédêm "両手")。

動詞

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動詞の主語の人称を表す接辞は以下のとおり:

完了態 未完了態
私が -ti e-
あなた(男性)が -ta ti-
あなた(女性)が -ti ?
彼が - yi-
彼女が -a ti-
我々が ? ne-
あなたがたが(男性複数) -tímma te- -un
あなたがたが(女性複数) -tên ?
彼らが -u yi- -u
彼女らが ? ti- -inna

その他

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前置詞

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"~で・に(場所・時・手段)"を意味する前置詞は以下のとおり:

  • b- 母音(または、咽頭音の子音が母音に変化したもの)で始まる語の前
b-érbi = "剣で"; b-íštu "彼の妻と共に"
bá-bêt "家で", ba-mádbar "荒野で"
  • ev- その他の子音で始まる語の前
ev-lila "夜に", ev-dévar "その事で"
  • ba-/be- 定冠詞付きの語の前
barrášet "朝に"; béyyôm "その日に"

"~のように、~として"を意味する前置詞は以下のとおり:

  • ka 定冠詞のない語の前: ka-demútu "彼の姿のように(彼とそっくりで)"
  • ke 定冠詞付きの語の前: ké-yyôm "その日のように"

"~に(人・場所)、~のために"を意味する前置詞は以下のとおり:

  • l- 母音で始まる語の前: l-ávi "私の父に", l-évad "その奴隷に"
  • el-, al- 子音で始まる語の前: al-béni "(~の)子供たちに"
  • le- 子音 /l/ で始まる語の前: le-léket "行くために"
  • l- 定冠詞付きの語の前: lammúad "定められた時に"; la-şé'on "その群れに"

その他の前置詞:

  • al: ~に向かって
  • elfáni: ~の前に
  • bêd-u: 彼のため
  • elqérôt: ~に反して
  • balêd-i: 私以外は

接続詞

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"~と、そして(and)" を表す接続詞:

  • w- 子音で始まる語の前: wal-Šárra "そしてサラに"
  • u- 母音で始まる語の前: u-yeššeg "そして彼は追いついた"

その他

  • u: または
  • em: もし~ならば、~する時
  • avel: しかし

副詞

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  • la: ~ではない(否定)
  • kâ: ~もまた
  • afu: ~もまた
  • ín-ak: あなたは~でない
  • ífa (ípa): どこに?
  • méti: いつ?
  • fâ: ここに
  • šémma: そこに
  • mittét: 下に

参考文献

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  • J. Rosenberg, Lehrbuch der samaritanischen Sprache und Literatur, A. Hartleben's Verlag: Wien, Pest, Leipzig.
  • Ben-Hayyim, Ze'ev, and Tal, Abraham, A Grammar of Samaritan Hebrew Based on the Recitation of the Law in Comparison with the Tiberian and Other Jewish Traditions: 2000 ISBN 1-57506-047-7

関連項目

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外部リンク

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