コールソン=フィッシャー理論
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理論化学および分子物理学におけるコールソン=フィッシャー理論(コールソン=フィッシャーりろん、英: Coulson–Fischer theory)は、分子の電子構造の量子力学的描写を与える。コールソンとフィッシャーの1949年の独創性に富んだ研究[1]は、量子化学の出現の直後に生まれた2つの対抗理論、原子価結合理論と分子軌道理論の長所を結び付け、それらの弱点の多くを回避した、分子の電子構造の理論を構築した。例えば、広く用いられているハートリー=フォック分子軌道法とは異なり、コールソン=フィッシャー理論は分子の解離過程の定性的に正しい描写を与える[2]。コールソン=フィッシャー波動関数は、量子化学における「第三の道」を提供すると言われている[3]。現代原子価結合理論はしばしば、コールソン=フィッシャー法の拡張として見られている。
水素分子
[編集]基底状態
[編集]分子軌道理論における水素分子の結合性分子軌道は、LCAO近似によって
である(およびはそれぞれ水素原子aおよび水素原子b上の原子軌道)。コールソン=フィッシャー法ではこれを非対称波動関数
で置き換える()[1]。
スピン座標を含めて適切に反対称化した系の波動関数は
である[1]。この式の軌道部分は
と書き直すことができる[1]。
上の式の前半部分は単純なハイトラー=ロンドン(原子価結合)共有結合性波動関数、後半部分はどちらか一方の原子に2つの電子が入った純粋なイオン性波動関数である[1]。またこれは、Weinbaumによって使われた波動関数[4]
と等価である。
核間距離が大きくなると、λは0に近づいていく。イオン性構造の寄与は0となり、水素分子の個々の水素原子への解離を正しく再現できる。
脚注
[編集]- ^ a b c d e C.A. Coulson and I. Fischer (1949). “Notes on the Molecular Orbital Treatment of the Hydrogen Molecule”. Philos. Mag. 40 (203): 386-393. doi:10.1080/14786444908521726.
- ^ S. Wilson and J. Gerratt (1975). “Calculation of potential energy curves for the ground state of the hydrogen molecule”. Molec. Phys. 30 (3): 777-787. doi:10.1080/00268977500102331.
- ^ S. Wilson (2009). “On the Wave Function of Coulson and Fischer: A Third Way in Quantum Chemistry”. In P. Piecuch, J. Maruani, G. Delgado-Barrio and S. Wilson. Advances in the Theory of Atomic and Molecular Systems. Progress in Theoretical Chemistry and Physics 19. Springer. doi:10.1007/978-90-481-2596-8. ISBN 978-90-481-2596-8
- ^ Weinbaum, Sidney (1933). “The Normal State of the Hydrogen Molecule”. J. Chem. Phys. 1 (8): 593–596. doi:10.1063/1.1749333.
外部リンク
[編集]- Stephen Wilson. “The Coulson-Fischer theory of molecular electronic structure”. 2020年11月20日閲覧。[リンク切れ]