コキーコヤスガエル
コキーコヤスガエル | ||||||||||||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
LEAST CONCERN (IUCN Red List Ver.3.1 (2001)) | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
| ||||||||||||||||||||||||||||||
学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Eleutherodactylus coqui Thomas, 1966[3] | ||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Common Coquí |
コキーコヤスガエル (学名:Eleutherodactylus coqui) は、コヤスガエル科に属するカエルの1種。プエルトリコ固有種。
夜間に "COQUI" と表記される声で大音量で鳴く[4]。オタマジャクシを経由せずに卵からカエルの形態で孵化するため、繁殖に水辺を必要としない。ハワイなどで外来種として分布を拡大しており、世界の侵略的外来種ワースト100の一覧に挙げられている。
プエルトリコの文化において重要な動物で、国獣として扱われる。
形態
[編集]雄成体は全長30-37 mm(平均34 mm)、雌は全長36-52 mm(平均41 mm)。この差は、雄が繁殖行動により多くのエネルギーを投資するためだと考えられる[5]。
体色は灰色から灰褐色。指の間に水掻きはなく、泳ぎは不得意である。指の先端には吸盤があり、滑りやすい表面に張り付くことができる。
分布
[編集]プエルトリコ固有種であり、ビエケス島・クレブラ島に広く豊富に分布する。例外的に、プエルトリコ乾燥森には稀である。ヴァージン諸島・イスパニョーラ島[6]・フロリダ・ハワイ[7]に侵入している。ハワイには1980年代に観葉植物に紛れて持ち込まれたとみられ、主要な4島に侵入した。本種は世界の侵略的外来種ワースト100に選定されている[8]。
小アンティル諸島(セント・トーマス島、セント・ジョン島、セント・クロイ島)、ガラパゴス諸島にも移入分布する[9]。
プエルトリコでは最も個体数の多いカエルで、その密度は1haあたり20,000個体と推定されている[10]。外来種としては、ハワイで1haあたり91,000個体に達している[11]。侵入先でこれほど高い個体密度となる原因として、天敵や種間競争の欠如、豊富な食物などが挙げられる。個体密度は季節や環境に応じて変動するが、一般的には雨季の終わりに最も高くなり、乾季には減少する[12]。
生息環境を選ばず、中湿性環境から広葉樹林、山岳、都市部などでも見られる。アナナスの葉の付け根や樹洞、岩・倒木などの下に潜む[13]。繁殖に水溜りを必要としないため、適度に湿度があれば、標高の高い場所にも生息できる。プエルトリコでは海抜1200 m、ハワイでも海抜1170 mまで見られる[14]。成体は幼体より標高の高い場所に住む傾向がある。
生態
[編集]夜行性である。餌は主に節足動物である。待ち伏せ型の捕食者で、幼体はアリなどの小型の獲物を食べるが、成体になるとクモ・ガ・コオロギ・カタツムリ・小型のカエルなど様々なものを餌とするようになる[10]。巣を守っている雄は、栄養補給のために自身が守る卵の一部を食べることがある。
本種を対象に行われた調査では、夜間に鳴いている雄は、鳴かない雄に比べて18%の食物しか摂取できないことが示された[15]。
一年中繁殖可能だが、特に雨季に活発になる。1回の産卵数は16-40で、8週おきに年6回の産卵が可能である。雄は卵を他個体やオカクチキレガイ属のカタツムリから保護する[5]。体内受精を行い、17–26日後に産卵する。卵から成体になるまでは約8か月かかる。
卵は植物上に産み付けられる。マミジロミツドリ・オオクロアカウソ・プエルトリココビトドリなどの鳥の巣を利用することもある[14]。オタマジャクシにはならず、卵から小さなカエルとして孵化する。孵化の時点では短い尻尾があるが、これはすぐに消失する。
鳴き声
[編集]音楽・音声外部リンク | |
---|---|
The coqui's distinct calls may be heard here, and here. |
雄の鳴き声は "COQUI" と表記されるが、"CO" は他の雄に対して縄張りを主張するためのもので、"QUI" は雌を呼ぶためのものだと考えられている。本種の聴覚器官は、最も鋭敏な周波数が雌雄で異なるため、これに合わせて2種類の音を使い分けていると考えられる[16]。
鳴き声は雌を引き寄せるほか、縄張りを主張する目的もある。他の雄が縄張りに侵入すると、唄による争いが始まる。一定のリズムで歌い続けることができなくなった方が敗者となり、肉体的な争いなしに縄張りから追い出される。
外来種問題
[編集]在来種の無脊椎動物を大量に捕食することで、生態系を脅かしている。また、他の外来種(クマネズミやジャワマングース、ミナミオオガシラ)の餌資源となっていることも指摘されている。鳴き声による騒音被害も発生している[17]。
日本には定着していないものの、外来生物法により特定外来生物に指定されており、基本的に飼育はできない。
脚注
[編集]- ^ Hedges, B., Joglar, R., Thomas, R., Powell, R. & Rios-López, N. (2009). "Eleutherodactylus coqui". IUCN Red List of Threatened Species. Version 2012.2. International Union for Conservation of Nature.
- ^ Heinicke, M.P., W.E. Duellman & S.B. Hedges (2007). “Major Caribbean and Central American frog faunas originated by ancient oceanic dispersal”. Proc. Nat. Acad. Sci. 104 (24): 10092–7. doi:10.1073/pnas.0611051104. PMC 1891260. PMID 17548823 .
- ^ Thomas, R. (1966). “New species of antillean Eleutherodactylus”. Quart. J. Florida Acad. Sci. 28: 375–391.
- ^ Listen to this species's mating call here.
- ^ a b Henderson and Schwartz, p. 42.
- ^ Joglar, R.L. and Rios, N. (1998). “Eleutherodactylus coqui (Puerto Rican Coqui, Coquí Común) in Dominican Republic”. Herpetological Review 29: 107.
- ^ Campbell III, Earl W. Kraus, Fred (2002) (PDF). Neotropical Frogs in Hawaii: Status and Management Options for an Unusual Introduced Pest. Wildlife Damage Management, Internet Center for USDA national Wildlife Research Center. University of Nebraska–Lincoln 2007年12月13日閲覧。.
- ^ S. Lowe, M. Browne, S. Boudjelas, M. De Poorter (2000). 100 of the World's Worst Invasive Alien Species: A selection from the Global Invasive Species Database. The Invasive Species Specialist Group (ISSG), a specialist group of the Species Survival Commission (SSC) of the World Conservation Union (IUCN). p. 12.
- ^ コキーコヤスガエル 国立環境研究所 侵入生物DB
- ^ a b Douglas P. Reagan and Robert B. Waide, ed (1996). The Food Web of a Tropical Rain Forest. University Of Chicago Press. ISBN 0-226-70600-1
- ^ Karen H. Beard, Robert Al-Chokhachy, Nathania C. Tuttle, and Eric O'Neill (2008). “Population density estimates and growth rates of Eleutherodactylus coqui in Hawaii”. Journal of Herpetology 42 (4): 626–636. doi:10.1670/07-314R1.1.
- ^ Jarrod H. Fogarty and Francisco J. Vilella (2002). “Population dynamic of Eleutherodactylus coqui in Cordillera Forest reserves of Puerto Rico”. Journal of Herpetology 36 (2): 193–201. doi:10.1670/0022-1511(2002)036[0193:PDOECI]2.0.CO;2. JSTOR 1565991.
- ^ Henderson and Schwartz, p. 41.
- ^ a b “The Ecology of Eleutherodactylus coqui”. issg Database. October 15, 2006閲覧。
- ^ Woolbright, Lawrence L.; Stewart, Margaret M. (1987). “Foraging Success of the Tropical Frog, Eleutherodactylus Coqui: The Cost of Calling”. Copeia 1987 (1): 69–75. doi:10.2307/1446039.
- ^ Narins, Peter M. and Robert R. Capranica (1976). “Sexual Differences in the Auditory System of the Tree Frog Eleutherodactylus coqui”. Science 192 (4237): 378–380. doi:10.1126/science.1257772. PMID 1257772.
- ^ 多紀保彦(監修) 財団法人自然環境研究センター(編著)『決定版 日本の外来生物』平凡社、2008年4月21日。ISBN 978-4-582-54241-7。
参考文献
[編集]- Robert W. Henderson and A. Schwartz (1991). Amphibians and Reptiles of the West Indies: Descriptions, Distributions, and Natural History. University Press of Florida. ISBN 0-8130-1049-7