ゲートウェイドラッグ
ゲートウェイドラッグ(英語: Gateway drug)とは、オピオイドやコカイン、ヘロイン、覚せい剤など他の更に強い副作用や依存性のある薬物の使用の入り口となる薬物である。この考え方のもとで、ニコチン、アルコール、カフェイン、MDMA、有機溶剤(シンナーなど)、危険ドラッグ、大麻(マリファナ)などの向精神薬、乱用薬物を指す際に用いられる[1][2][3][4][5][6]。
理論
[編集]ゲートウェイドラッグの使用は、より副作用や依存性の強いドラッグ(ハードドラッグ)の使用の契機になる。未成年者の視点から見たゲートウェイドラッグとして、タバコや酒なども指摘されている。この場合、ニコチン、アルコールがハードドラッグ乱用の入り口(ゲートウェイ)となる。日本では2013年の危険ドラッグ規制から、大麻を代用して検挙されるケースが増加している[1][3][4][5][7][8][9]。
また、アルコールや有機溶剤から、大麻、錠剤を経て覚せい剤、コカイン、ヘロインに至る階段のような関係もある[10]。エナジードリンクの消費量がアルコール依存症の危険性の増加につながることは立証されてきており、こうした他の薬物における論文などで、エナジードリンクがアルコールのゲートウェイドラッグとなるというように用いられることもある[11][12]。
これらの理論において、ゲートウェイドラッグの使用がドラッグ乱用につながる理由として以下の効果がある[10]。
- 依存効果:ゲートウェイドラッグの使用により、使用者が心理的または生理的により強い快楽を求めるようになる。
- アクセス効果:ゲートウェイドラッグが違法薬物であった場合、ゲートウェイドラッグの使用により、使用者は犯罪組織によるドラッグ売買コミュニティーとの繋がりを持つ。
- 信用効果:短期的に悪影響が表れないゲートウェイドラッグの使用経験により、違法薬物に対する否定的な情報を矛盾していると思い込み、違法薬物を信用してしまう。
- 抵抗調整効果:ゲートウェイドラッグの使用により、使用者が違法薬物を含むドラッグ全般への抵抗感をなくす。
大麻のゲートウェイドラッグ性
[編集]大麻は、統合失調症、自殺、自殺未遂、自殺念慮、うつ病、社交不安障害、認知症、知能指数低下などの、取り返しがつかない長期的悪影響が表れるのが年単位、10年単位と遅く、否定的な情報を矛盾していると思い込む「信用効果」が出やすい薬物である[13][9][14][15]。
2020年、国連麻薬委員会(CND)が大麻をあへん、コカイン、ヘロインと同じ「乱用のおそれがあり、悪影響を及ぼす麻薬」へと「特に危険で医療用途もない麻薬」から変更した。この変更があたかも大麻に関する国際的な規制を国連が解除したかのような印象を与え、大麻の嗜好的使用を容認するような報道が出るに至った[8]。
日本においても、大麻に有害性はない、健康に良いなどといった誤った情報が氾濫し、大麻依存症患者の治療拒否や、依存症医療業界であっても医学的エビデンスに疑義を挟み、冷静かつ理性的な議論を進めることが難しい現状がある[16][17][18][19]。
大麻のゲートウェイドラッグ性についても、一般的な発見による経験的根拠から、ヒトでの研究でも、実験動物においても多数確認されているが、議論が続いている[10][20][21]。
1999年、全米科学アカデミー(National Academy of Sciences)の医学研究所(Institute of Medicine)が発表した報告書では「マリファナが、その特有の生理的作用により(他の薬物への)飛び石となっていることを示すデータは存在しない」としている[22]。
2000年の『精神障害の診断と統計マニュアル』第4版改定版(DSM-IV-TR)においては、大麻が実際に他の物質にすすませるかは判明しておらず、社会的、心理的、神経化学的な基礎の詳細は不明であるとしている[23]。
2014年、ニューヨーク・タイムズ誌では、大麻使用経験のある1億1100万人のうち、その後にハードドラッグへ発展したのはわずか4%であるとの調査結果を発表し、根拠のないゲートウェイドラッグ理論を否定した意見を報道した[24]。
2021年、アメリカ民主党政権下では、ジョー・バイデン大統領の「マリファナがゲートウェイドラッグであるかどうかについては、十分な証拠がほとんどありません。」とカマラ・ハリス副大統領の「はっきりさせておきたいのは、マリファナはゲートウェイドラッグではなく、合法化されるべきだということです。」とのモチベーションに基づき、カリフォルニア州、サンディエゴ大学の保健経済センター政策センターの報告が行われた。娯楽目的での大麻使用は、ゲートウェイドラッグ性を肯定しつつも、人種によりゲートウェイドラッグ性は異なり、社会経済的な環境や政策実施にかかる影響が強く、マリファナの使用からより強化された薬物使用への波及効果は間接的なものであるとしている[25][8]。
2023年、Stephanie M Zellersほかの研究では、軽度の麻薬使用と心理社会的機能不全がある成人サンプルにおいては、娯楽用大麻の使用は、個人レベルでは大麻使用障害の増加は見られず、アルコールや違法薬物摂取の変化も検出されなかったと報告している[26][8]。
しかし、
2007年、イギリス、ヨーク大学の報告では、「問題を抱えている集団」では、統計的に優位なゲートウェイ効果があり、危険性を倍増させると報告している。特に、依存効果について、ソフトドラッグの使用がより強い麻薬体験に対する心理的または生物学的欲求が生じる可能性が高いとしている。特に幼少期のトラウマ体験を有するグループでは強い影響を及ぼすことを混合比例ハザードモデルで検証している[10][8]。
大麻には確かにゲートウェイ効果があり、全体に表れるゲートウェイ性としては「問題を抱えている集団」という小さなグループにおける大きな効果と、「ほとんどの人々」という大きなグループにおける小さな効果によって生み出されている[10]。
「問題を抱えている集団」とは、警察、親、友人、学校との子供時代の問題(トラウマ)、悪い仲間の影響、目先の満足を追い求める傾向(時間選好)、有害な遺伝的素質、その他、何らかの要因を抱えた者たちである。ゲートウェイ効果の高い集団は、違法薬物をより若い年齢で消費し始めただけでなく、覚せい剤やヘロインのような、より副作用や依存症が強い薬物をより集中的に使用する割合も大幅に高かった[10]。
これは日本においても同様で、
2020年の国立精神・神経医療研究センターの中学生における大麻使用の実態によると、若年期の大麻使用は薬物依存を発症するリスクを5倍から7倍も高め、大麻の使用経験のある中学生は、使用経験のない中学生に比べ、親しく遊べる友人や相談ができる友人がいない場合が多く、学校生活が楽しくない、と報告されている[27][8]。
さらに、法務省が国立精神・神経医療研究センターと共同で行った調査によると覚せい剤事犯の受刑者が最初に乱用した薬物が大麻である者が多いとの結果が出ている。日本の場合、覚醒剤取締法違反の初犯者は全部執行猶予となる者がほとんどであるため、刑事施設に収容されている覚せい剤の受刑者は、薬物の再乱用に至った薬物依存が相当深刻な者であり、その多くが覚せい剤の乱用を始める前に大麻を乱用していた[28][16]。
大麻の検挙者数は年々増加しており、最多の覚せい剤の検挙者数を上回る勢いで急増している。また検挙者の年齢も、昔乱用を始めた人がそのまま高齢化している覚せい剤の検挙者とは対照的に、大麻の検挙者は30歳未満の若年が約7割を占めている[28][16]。
若年層に対する大麻の「信用効果」は強く、危険性に対する認識は極めて低い。海外でも合法化している国があるから健康に害がない、日本では大麻の使用は禁止されていないといった誤った情報がSNSなどインターネット上で流布されていることが背景にある。また、大麻は覚せい剤の注射やあぶりに比べて喫煙という心理的にハードルが低い形態をとるため、タバコを吸う行為が大麻を吸うことへと変わっただけと思い、大麻に対する抵抗感が低くなる傾向にある。有機溶剤や危険ドラッグに代わり大麻が主要なゲートウェイドラッグとなっている[16][29][21][30]。
また、ニュージーランドでも同様の報告がされている。
2020年、オタゴ大学のダニーデン研究(DMHDS)とクライストチャーチ研究(CHDS)、二つの縦断的研究のレビュー論文では、大麻と他の違法薬物両方を試したほぼ全ての個人が最初に大麻を試し、さらに、17歳未満での毎日の使用では30歳までに他の違法薬物を使用する可能性が8倍高くなるとしている[31][8]。
大麻使用者は、他の薬物を使用するクスリ仲間との関係や、薬物の売人との接触を通して他の薬物を試す可能性が高い。または、大麻からの神経生物学的影響が、他の違法薬物使用につながる可能性もあるとしている[31]。
また、アメリカでも同様の報告がされている。
2012年、Lynn E Fiellinほかの研究では、18歳から25歳のサンプルにおいて、以前の大麻使用は、使用のない場合に比べ、その後の処方オピオイド乱用の可能性が2.5倍高くなると報告している[20]。
大麻、アルコール、タバコの中で、大麻のみが男性、女性両方の間で現在の処方オピオイド乱用と最も密接に関連していたことからゲートウェイ理論についても言及しており、ほとんどの大麻使用者はコカインやヘロインの使用に進むことはなかったが、コカイン使用者の90%が以前に大麻を使用していたとの研究報告を引用している[20]。
2025年現在、アメリカ国立薬物乱用研究所(NIDA)は大麻のゲートウェイドラッグ説を肯定しており、大麻製品はアルコールやタバコと並んで、人が人生で最初に出会う可能性の高い薬物の一つであり、他の薬物を試す前にこれらを使用することが一般的であるとしている[9][8]。
大麻使用のリスク要因は、依存の可能性がある他の薬物使用のリスク要因と似ており、研究は大麻の使用を大麻使用障害の発展と関連付けている。特に若い年齢で大麻製品を使用することは、後に大麻使用障害を発展させる可能性を高める。また、大麻使用は脳の変化も引き起こし、他の薬物に対する依存を発展させる可能性があると指摘している[9][8]。
さらに2025年現在、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)も、大麻を使用し他の薬物を使用する人々は、特に若い年齢で大麻を使用し始め頻繁に使用する場合、それらの薬物への依存または依存症のリスクが高くなる可能性があること、さらに、大麻使用障害を持つ人々の一部は、より強い快感を求めて、より多くの大麻やより高濃度の大麻を必要とする可能性があることを指摘している[32][33][8]。
また、大麻の合法化についても「大麻が一部の州で医療または非医療の成人使用のために合法であるという事実は、それが安全であることを意味していない」と大麻の危険性を明言している[34]。
どの年齢であっても大麻を使用することは健康に悪影響を及ぼす可能性があり、一目で分かる事実として、
- 大麻は、アメリカ合衆国で最も一般的に使用されている連邦違法薬物であり、2021年には5250万人、つまりアメリカ人の約19%が少なくとも一度は使用した。
- 大麻は、アルコールの次に運転能力を損なうことと最も頻繁に関連付けられる物質である。
- 最近の研究では、大麻を使用する人の約3人に1人が大麻使用障害を抱えていると推定されている。
- 大麻使用障害を発症するリスクは、18歳未満で使用を始める人にとってさらに高くなる。
- 大麻の使用は、記憶、学習、注意、意思決定、協調、感情、反応時間を担当する脳の部分に直接影響を与える。
- 乳児、子供、そして脳が発達中の10代は、大麻の悪影響に特に敏感である。
- 長期または頻繁な大麻使用は、一部の使用者において精神障害や統合失調症のリスク増加と関連している。
- 妊娠中の大麻使用は、妊娠合併症のリスクを高める可能性がある。妊娠中および授乳中の人は大麻を避けるべき。
と、明言している[35]。
その他に、大麻のゲートウェイ性を示すものとして、
2024年、欧州薬物および薬物中毒監視センター:EMCDDA(現 欧州連合薬物機関:EUDA)によるヨーロッパの廃水分析と薬剤調査がある。廃水サンプル中の大麻代謝産物が減少傾向であるのに対して、覚せい剤代謝産物等が増加傾向にあるとの調査結果を報告している。このことは、大麻から他の薬物へ使用薬剤が変遷していることを示している[36][8]。
廃水分析とは、廃水に基づく疫学で、違法薬物使用の地理的および時間的傾向を監視する重要な補完ツールとして確立されている。1990年代に家庭用液体廃棄物の環境影響を監視するために使用されて以来、様々な都市での違法薬物消費の推定に使用されている。廃水分析は、下水やフェスの野外トイレなどから、尿で排出される違法薬物とその代謝物のレベルを特定することができ、その地域、その場所における違法薬物の使用量、週末か平日かといった違法薬物使用日のパターン、大都市と地方の違法薬物消費量の違い、大学、ナイトクラブ、音楽フェスといった特定の場所で現在使用されている違法薬物、など様々なことを明らかにすることができる。また、薬物使用者の記憶や認識に頼ることなく、消費されている薬物の真の成分、分布の特定や、危険ドラッグのような新規薬物の発見をすることができる。また、廃水中の薬物が消費からきた物か、薬物生産現場からの廃棄からきた物かを判断することができ、廃水集水域における薬物の違法製造や、製造の合成プロセスを特定することもできる[36]。
また、その他に大麻のゲートウェイ性を示すものとして、大麻草自体のTHC(依存性、幻覚作用成分)の強化がある。
2006年の国連薬物犯罪事務所(UNODC)の報告によると、大麻草の新種のTHC含有率は、旧来種の2.5%程度から約10.5%へと強化されたものであった[8]。
さらにアメリカ疾病予防管理センターも、平均的な大麻草のTHCの濃度は増加しており、2008年の9%から2017年には17%にまで達していると指摘している[33]。
大麻の大量消費国では、THCの含有率が強化された新種の大麻草への移行が早い段階から行われており、大麻のゲートウェイ性が証明された形となっている[8]。
また2025年現在、アメリカ国立薬物乱用研究所も、大麻草から作られたオイル、濃縮物、食品など大麻製品の強化も挙げており、1995年から2022の間に法執行機関によって押収された違法大麻製品のTHCの強度は3.96%から16.14%へと約4倍になり、大麻販売店では40%以上のTHC濃度を持つ大麻製品が売られていることもあると指摘している[9]。
高濃度の大麻草、大麻製品や、ラベルと異なる含有量、ラベルと異なりTHCが含まれている製品は、体への深刻な悪影響だけでなく過剰摂取のリスクもあり、中毒や重症を引き起こす可能性がある。特に大麻グミなどの食用大麻製品は、効果を感じるまでに時間がかかること、摂取量、空腹、同時に摂取するアルコールや薬、その他の要因によって予想以上の効果を引き起こすことがある。また、成人の大麻使用が合法化された地域では、子供の意図しない大麻中毒の増加や救急搬送が起こっている[37][38]。
大麻草、大麻製品の強力化により、以前はリスクが低いとみられていた大麻の過剰摂取、中毒、重症化の危険が生じている。同様にオピオイドも、2014年にわずか2mgで人を死に至らしめる違法フェンタニルが急増し、アメリカでは2021年、フェンタニルなど合成オピオイドの死亡者数は約7万1000人、2022年にはアメリカ麻薬取締局(DEA)が「押収された量はすべてのアメリカ人を死に至らしめるのに十分な量だった」と発表するなど、近年のオピオイド流行の主要な要因となっている[39]。
アメリカにおけるオピオイドの流行は国家的な公衆衛生の危機であり、大麻の合法化はオピオイドの流行を抑制する政策介入として州政府に採用されてきた。上述の2021年の民主党政権の政策に則ったサンディエゴ大学の報告のように、大麻のゲートウェイ仮説を証明するエビデンスはほとんど見つからなかったとし、ハームリダクションにより大麻が合法化されれば、使用者は合法的なシステムを通して大麻を購入できるため、より強力な薬物に導かれることなく落ち着く。そのため合法化によりゲートウェイドラッグではなくなる可能性があるとする。そして、大麻の合法化はオピオイド関連の死亡率の低下に役立つ可能性があるというエビデンスはあるとしている[40][25][8]。
2014年、アメリカで違法フェンタニルおよびその類似物質による過剰摂取死が急増し始めた年に、Bachhuberほかが発見した「1999年から2010年の間に、医療用大麻法(MML)を持つ州でオピオイド鎮痛剤の過剰摂取による死亡率の増加が予想よりも低かった」という研究結果が科学文献や一般メディアで大きな話題となりセンセーションを巻き起こした。上述の、ニューヨーク・タイムズ誌のゲートウェイドラッグ理論を否定した意見もこの年に報道されている[41]。
この研究について論文著者たちは、生態学的相関から確固たる結論を引き出すことに対する注意を促しており、他の科学者たちからも同様の警告が発せられているが、2019年までに350以上の科学論文に引用され、アメリカのメディアおよび国際的なメディアの注目を集め、医療用大麻の拡大がオピオイド過剰摂取危機の解決策として宣伝されてきた[41]。
また、大麻の使用がオピオイド(モルヒネやヘロインなど)の乱用や依存のリスクを55%低下させているとの2008年から2013年までの統計もある[42]。
しかし、
2019年、Chelsea L Shoverほかが、前述のBachhuberほかの分析を、同じ方法を用いて2017年まで延長し再検討した研究では、医療用大麻法がオピオイド過剰摂取死亡率を低下させるという関連性は成立しなかった。さらに、分析の終了地点が2008年から2012年の間であったなら比較可能であったが、2013年にはその関連性が曖昧になり、以降は逆転、2017年には医療用大麻法を通過させた州ではオピオイド過剰摂取死亡率が22.7%増加した結果となった[41]。
これは、医療用大麻が10年前に命を救い、今日人々を殺しているという反映ではなく、測定されていない、州の投獄率と慣行や拮抗薬の入手可能性、保険とサービスの範囲などの変数が両方の関連性を説明している可能性があるとしている。また、以前の研究結果の非堅牢性は、物議を醸す政策分野における科学的メッセージの制御の課題を浮き彫りにしていると指摘している[41]。
また2019年、Stanford Chihuriほかが、医療用大麻法がオピオイド過剰摂取死亡率やその他のオピオイド関連の健康結果に与える影響に関する実証的証拠を統合するために行った系統的レビューでも、医療用大麻法が処方オピオイド過剰摂取死亡率の低下と関連しているという決定的な証拠は見つからなかった。前述のBachhuberほかの研究についても、その後の研究の中で減少が報告されたのは一つのみであり、重要ではあるもののはるかに小さい減少率であったと指摘している[40]。
オピオイドの処方については、医療用大麻法の実施により7%のわずかな減少と関連していると報告している。しかし、その影響の大きさはかなり控えめであり、大麻が処方オピオイドの主要な代替品である可能性は低いとしている[40]。
さらに、オピオイド関連の害を減らすために大麻を合法化することによる影響として、大麻を使用する慢性疼痛患者はより激しい痛みを持ち、処方オピオイドをより多く使用し高用量を使用する傾向があること、大麻使用者はオピオイド使用障害を発症する可能性がはるかに高いこと、青少年の大麻使用の有病率は医療用大麻法のある州では、そうでない州よりも高いこと、青少年の違法な大麻の使用はオピオイド乱用のリスクが高いこと、若年成人男性の大麻による逮捕とリハビリテーション施設への治療入院は、医療用大麻法がない州と比較して医療用大麻法がある州で高くなっていること、また、医療用大麻は特定の医療条件に対して認可されているにも関わらず、大麻入手の可能性が全体的に増加すること、医療用大麻法の実施によって大麻の危険性に対する認識が低下すること、それによって薬物運転、認知障害、急性中毒、依存症、精神障害、肺疾患などの他の公衆衛生問題を引き起こす可能性があることを指摘している[40]。
また、2014年の違法フェンタニル急増が、近年のオピオイド流行の主要な要因であるので、2013年以前のデータを使用して医療用大麻法とオピオイド過剰摂取死亡率の関連性を評価する研究は、深刻に混乱する可能性があると指摘している[40]。
2025年現在、アメリカ疾病予防管理センターは、一部の研究では、医療目的で大麻の使用を合法化した州ではオピオイドの処方とオピオイド関連の死亡が減少することが示唆されているが、しかし、他の研究では医療大麻政策の影響を長期間に渡って調査した結果、大麻の合法化はオピオイドの過剰摂取死の減少と関連しておらず、以前の研究結果は偶然となる可能性があるとしている[43]。
重要なことは、大麻を単独で使用する場合でもオピオイドと組み合わせて使用する場合でも、オピオイドの誤用リスクが増加することが示されていることであり、大麻がオピオイド使用障害の治療に効果があるという証拠はないと明言している[43]。
また、癌治療についても、大麻に含まれる化学物質が癌の化学療法によって起きる、吐き気や嘔吐の副作用を和らげるのに役立つ可能性があると示唆されているが、大麻や大麻の成分が癌を治すことはできないと明言している[44]。
脚注
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参考文献
[編集]- D. J. Hanson, Gateway and Steppingstone Substances, bitglyph.