カルフィルゾミブ
IUPAC命名法による物質名 | |
---|---|
| |
臨床データ | |
販売名 | Kyprolis |
ライセンス | US FDA:リンク |
胎児危険度分類 |
|
法的規制 |
|
薬物動態データ | |
血漿タンパク結合 | 97%[1] |
代謝 | Extensive; CYP plays a minor role |
データベースID | |
CAS番号 | 868540-17-4 |
ATCコード | L01XX45 (WHO) |
PubChem | CID: 11556711 |
IUPHAR/BPS | 7420 |
ChemSpider | 9731489 |
UNII | 72X6E3J5AR |
KEGG | D08880 |
ChEBI | CHEBI:65347 |
ChEMBL | CHEMBL451887 |
別名 | PX-171-007 |
化学的データ | |
化学式 | C40H57N5O7 |
分子量 | 719.91 g/mol |
| |
|
カルフィルゾミブ (英語: Carfilzomib) は選択的プロテアソーム阻害薬の一つである。化学的には、テトラペプチドエポキシケトンであり、エポキソマイシン誘導体である[2]。商品名カイプロリス。
米国では米国食品医薬品局 (FDA) が2012年7月に、ボルテゾミブおよび免疫調節療法(レナリドミドなど)を含む前治療を完了後60日以内に進行した多発性骨髄腫に対する使用を承認した。審査は生存期間ではなく奏効率に基づいて承認された。同時点では、生存期間や症状の消退などの臨床的利益については不透明な点があった[3]。
欧州では2015年1月に承認申請された[4]。
日本では2015年8月に承認申請され[4]、2016年7月に「再発または難治性の多発性骨髄腫」治療薬として承認された[5]。
副作用
[編集]国内治験での副作用発現率は100%、海外第III相臨床試験での発現率は84.7%であり、主な副作用は、好中球減少、貧血、血小板減少、リンパ球減少、高血糖、ALT(GPT)増加、発疹などであった。
重大な副作用とされているものは、
- 鬱血性心不全(0.8%)、QT間隔延長(0.3%)、心筋梗塞、心嚢液貯留、心膜炎などの心障害、
- 間質性肺炎(0.3%)、肺臓炎(0.5%)、急性呼吸窮迫症候群、急性呼吸不全などの間質性肺疾患(1.0%)、
- 肺高血圧症、肝不全、肝機能障害(5.6%)、急性腎不全(1.0%)、腫瘍崩壊症候群(0.8%)、インフュージョンリアクション、
- 好中球減少(36.2%)、貧血(26.5%)、血小板減少(25.3%)、白血球減少(5.6%)、リンパ球減少(2.8%)、発熱性好中球減少(2.8%)などの骨髄抑制、
- 血栓性血小板減少性紫斑病、溶血性尿毒症症候群などの血栓性微小血管症、
- 深部静脈血栓症(5.6%)、肺塞栓症(2.8%)などの静脈血栓塞栓症、
- 頭蓋内出血(0.3%)、胃腸出血(0.3%)などの出血、
- 肺炎(8.9%)、敗血症(2.0%)などの重篤な感染症、
- 可逆性後白質脳症症候群、脳症、高血圧(6.6%)、高血圧クリーゼ、消化管穿孔(0.3%)
である[6]。(海外治験での発現率。頻度未記載は頻度不明)
開発の経緯
[編集]カルフィルゾミブは天然物質のエポキソマイシンからプロテアソーム阻害薬として合成された[7]。重要な意義を持つ第II相臨床試験を含む第I相/第II相臨床試験が実施され、迅速承認の対象となった[8]。2011年1月、FDAはカルフィルゾミブを優先審査・承認対象に指定し[9]、非盲検の比較群無しの第IIb相臨床試験の結果に基づいて承認した[10][11]。
審査対象の臨床試験では266名の複数の治療歴のある再発性・難治性多発性骨髄腫が登録された。治療歴には、ボルテゾミブのほか、サリドマイドまたはレナリドミドが含まれていた[12]。
日本では2015年8月の申請の後、日本骨髄腫患者の会から早期承認の要望書が提出され[13]、審査期間11か月で承認された。
作用機序
[編集]カルフィルゾミブは20Sプロテアソームに不可逆的に結合してキモトリプシン様活性を阻害し、細胞内でプロテアソームが介在する様々なタンパク質の分解を阻害する。この結果、プロテアソームの基質であるポリユビキチン化されたタンパク質が蓄積し、細胞周期の停止やアポトーシスが誘導され、 腫瘍の成長が抑えられる[2][14]。
臨床試験
[編集]第II相臨床試験
[編集]カルフィルゾミブの単群第II相臨床試験(003-A1)は再発性・難治性多発性骨髄腫患者266名を対象として実施され、カルフィルゾミブ単剤で36%の臨床的利益があり、奏効率は22.9%で、奏効期間は7.8か月であった。FDAは003-A1試験の結果に基づいてカルフィルゾミブを承認した[15]。
別の第II相臨床試験(004)では、ボルテゾミブの投与歴のない再発性および/または難治性多発性骨髄腫患者が対象となり、カルフィルゾミブの奏効率は53%であった。 004試験では別にボルテゾミブ投与群が設定されていた[16]。この試験ではカルフィルゾミブの投与期間延長の忍容性が高く、約22%の患者で1年以上カルフィルゾミブが投与された。004試験は元来は前治療が多くない(1から3)患者でのカルフィルゾミブ治療の効果をボルテゾミブとの関係を見ながら確認することを目的とした小規模試験であった[17]。
第II相臨床試験(005)は、半数はボルテゾミブとレナリドミドの両薬で再燃した患者を入れて様々な程度の腎障害を持つ患者を対象として、カルフィルゾミブの安全性、薬物動態、有効性などを確認する目的で実施された。その結果、腎障害の程度はカルフィルゾミブの安全性に影響を与えないことが明らかとなり、忍容性と有効性が確認された[18]。
さらに別の第II相臨床試験(006)では、再発性および/または難治性多発性骨髄腫患者を対象とした、カルフィルゾミブ・レナリドミド・デキサメタゾン併用療法が試験され、奏効率69%を記録した[19]。
第II相臨床試験(007)では、多発性骨髄腫と固形癌について良好な結果がもたらされた[20][21]。
これらのカルフィルゾミブ第II相臨床試験で多かったGrade3の副作用は、血小板減少、貧血、リンパ球減少、好中球減少、疲労、低ナトリウム血症であった[22]。
最新の第I/II相臨床試験では、カルフィルゾミブ、レナリドミド、低用量デキサメタゾンの併用療法が試験され、忍容性が高く、未治療の多発性骨髄腫患者に減量なく投与でき、用量調整も最低限であった。奏効までの期間が早く、奏効率は100%に到達した[23]。
ASPIRE試験
[編集]第III相の検証的臨床試験(ASPIRE試験)では、再発性多発性骨髄腫患者を対象としてカルフィルゾミブ・レナリドミド・デキサメタゾン3剤併用療法とレナリドミド・デキサメタゾン2剤併用療法とが比較されている[24]。米国血液学会議の2014年総会で結果が発表された。3剤併用群では2剤併用群よりも奏効率が有意に良好であった[25][26]。ASPIRE試験の中間結果はNew England Journal of Medicine に掲載された[27]。
出典
[編集]- ^ “Kyprolis (carfilzomib) for Injection, for Intravenous Use. U.S. Full Prescribing Information” (PDF). Onyx Pharmaceuticals, Inc.. 2016年7月7日閲覧。
- ^ a b Carfilzomib, NCI Drug Dictionary
- ^ “FDA Approves Kyprolis for Some Patients with Multiple Myeloma”. FDA. (2012年7月20日) 2013年7月23日閲覧。
- ^ a b “プロテアソーム阻害剤「カルフィルゾミブ(ONO-7057)」再発または難治性の多発性骨髄腫に対する国内製造販売承認申請” (PDF). 小野薬品工業 (2015年8月26日). 2016年7月7日閲覧。
- ^ “プロテアソーム阻害剤「カイプロリス点滴静注用10mg、40mg」再発または難治性の多発性骨髄腫に対する国内製造販売承認取得” (PDF). 小野薬品工業 (2016年7月4日). 2016年7月7日閲覧。
- ^ “カイプロリス点滴静注用10mg/カイプロリス点滴静注用40mg 添付文書” (2016年8月). 2016年11月4日閲覧。
- ^ Meng, L; Mohan, R.; Kwok, B.H.; Elofsson, M.; Sin, N.; Crews, C.M. (1999). “Epoxomicin, a potent and selective proteasome inhibitor, exhibits in vivo antiinflammatory activity”. Proc Natl Acad Sci USA 96 (18): 10403–8. doi:10.1073/pnas.96.18.10403. PMC 17900. PMID 10468620 .
- ^ “Carfilzomib: From Discovery To Drug”. Chemical & Engineering News. (2012年8月27日) 2013年7月30日閲覧。
- ^ “Onyx multiple myeloma drug wins FDA fast-track status”. San Francisco Business Times. (2011年1月31日) 2011年9月1日閲覧。
- ^ “Beacon Breaking News – Carfilzomib to Get Standard, Not Priority, FDA Review”. The Myeloma Beacon. 2012年2月27日閲覧。
- ^ “Fast Track, Accelerated Approval and Priority Review; Accelerating Availability of New Drugs for Patients with Serious Diseases”. FDA. 2012年2月27日閲覧。
- ^ “PX-171-003-A1, an open-label, single-arm, phase (Ph) II study of carfilzomib (CFZ) in patients (pts) with relapsed and refractory multiple myeloma (R/R MM): Long-term follow-up and subgroup analysis”. ASCO 2011; Abstract 8027 (2011年). 2011年9月1日閲覧。
- ^ “要望 カルフィルゾミブおよびエロツズマブ、イキサゾミブの早期承認” (PDF). 日本骨髄腫患者の会 (2015年9月29日). 2016年7月7日閲覧。
- ^ Suraweera A, Münch C, Hanssum A, Bertolotti A (2012). “Failure of amino acid homeostasis causes cell death following proteasome inhibition.”. Mol Cell. 48 (2): 242-53. doi:10.1016/j.molcel.2012.08.003. PMC 3482661. PMID 22959274 .
- ^ “Carfilzomib Prescribing Information”. NCI Drug Dictionary 2013年7月23日閲覧。
- ^ Vij, R (2012). “An open-label, single-arm, phase 2 study of single-agent carfilzomib in patients with relapsed and/or refractory multiple myeloma who have been previously treated with bortezomib”. Br J Haematol 158 (6): 739–748. doi:10.1111/j.1365-2141.2012.09232.x. PMID 22845873.
- ^ Vij, R (2012). “An open-label, single-arm, phase ii (PX-171-004) study of single-agent carfilzomib in bortezomib-naive patients with relapsed and/or refractory multiple myeloma.”. Blood 119 (24): 5661–70. doi:10.1182/blood-2012-03-414359. PMID 22555973.
- ^ Badros, AZ (2013). “Carfilzomib in multiple myeloma patients with renal impairment: pharmacokinetics and safety.”. Leukemia 27 (8): 1707–14. doi:10.1038/leu.2013.29. PMID 23364621.
- ^ “European Hematology Association (EHA) 18th Congress. June 13-16, 2013.”. The Myeloma Beacon. (2013年) 2013年7月13日閲覧。
- ^ “Nikoletta Lendval, MD PhD et al. Phase II Study of Infusional Carfilzomib in Patients with Relapsed or Refractory Multiple Myeloma.”. Presented at: 54th ASH Annual Meeting and Exposition: December 2012. 2013年7月23日閲覧。
- ^ "Phase II results of Study PX-171-007: A phase Ib/II study of carfilzomib (CFZ), a selective proteasome inhibitor, in patients with selected advanced metastatic solid tumors" - ASCO 2009; Abstract 3515.
- ^ “Siegel DS, Martin T, Wang, M, et al. Results of PX-171- 003-A1, an open-label, single-arm, phase 2 study of carfilzomib in patients with relapsed and refractory multiple myeloma. Presented at: 52nd ASH Annual Meeting and Exposition; December 4-7, 2010; Orlando, Florida.”. OncLive.com (2011年3月9日). 2011年9月1日閲覧。
- ^ “Final Results of a Frontline Phase 1/2 Study of Carfilzomib Lenalidomide, and Low-Dose Dexamethasone (CRd) in Multiple Myeloma (MM)”. ASH 20111; Abstract 631. 2012年2月27日閲覧。
- ^ “Phase 3 Study Comparing Carfilzomib, Lenalidomide, and Dexamethasone (CRd) Versus Lenalidomide and Dexamethasone (Rd) in Subjects With Relapsed Multiple Myeloma”. ClinicalTrials.gov (2011年8月4日). 2011年9月1日閲覧。
- ^ Berkrot, Bill (6 December 2014). “Addition of Amgen drug boosts benefits in relapsed myeloma: study”. Reuters. 6 December 2014閲覧。
- ^ “Dr. Stewart Discusses the Efficacy of Carfilzomib in the ASPIRE Trial”. onclive (December 6, 2014). 2016年7月7日閲覧。
- ^ “Carfilzomib, Lenalidomide, and Dexamethosone for Relapsed Multiple Myeloma” (PDF). New England Journal of Medicine (December 6, 2014). 2016年7月7日閲覧。
外部リンク
[編集]- “Carfilzomib Prescribing Information”. NCI Drug Dictionary