カエルの楽園
カエルの楽園 (かえるのらくえん) | ||
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著者 | 百田尚樹 | |
イラスト |
ギュスターヴ・ドレ(表紙絵) 百田尚樹(挿絵) | |
発行日 | 2016年2月23日 | |
発行元 | 新潮社 | |
ジャンル | 小説 | |
国 | 日本 | |
言語 | 日本語 | |
形態 | 四六判 | |
ページ数 | 248 | |
次作 | 『「カエルの楽園」が地獄と化す日』(2016年) | |
公式サイト |
www | |
コード | ISBN 978-4-10-336412-2 | |
ウィキポータル 文学 | ||
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『カエルの楽園』(カエルのらくえん、英:The paradise of frogs [1])は、百田尚樹の小説。
概要
[編集]百田尚樹が自身の最高傑作と断言し、ジョージ・オーウェル以来の寓話的「警世の書」と称する小説[2]。元は自身のメールマガジンに連載していたものを単行本としてまとめ、2016年(平成28年)2月23日に出版したものである。表紙の装画はラ・フォンテーヌ寓話の「王さまを求める蛙」のギュスターヴ・ドレ作画によるもの、本文の挿画は百田尚樹自身による作画。舞台となるカエルの国「ナパージュ」は "JAPAN(ジャパン)" の倒語と推定されるが、本文の後に「この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは関係ない」旨が記載されている。
日本全体がコロナ疫禍による活動自粛の最中にあった2020年(令和2年)5月初頭、百田は続編を執筆してインターネット上に無料提供することを思い付き、数日で『カエルの楽園2020』[3]を書き下ろした[4]。5月6日、小説投稿サイトである「小説家になろう」に百田自身の手で投稿され、5月10日まで期間限定で無料公開された[4]。当サイトは事実上のアマチュア向けのなろう系の投稿先であったため、著名なプロの投稿があった時点で反響が大きかったが、内容も評判を呼ぶことになった[5]。百田は「ファンは既に印刷するなどしているだろうから書籍化は不要」という姿勢であったが、書籍の形で手にしたいというファンの声が大きく[5]、出版社も積極的であったことから 要望に応える形で6月12日に書籍化された。
ストーリー
[編集]カエルの楽園
[編集]この節の加筆が望まれています。 |
凶悪なダルマガエルの襲来により、地獄と化した故郷の国を出たアマガエルのソクラテスが、苦難の道のりの果てに友達のロベルトとたどり着いたのは、岸壁の頂上にある平和で豊かなツチガエルの国ナパージュ。ついに新天地を見つけたと安堵するソクラテスとロベルトであったが、ツチガエル達のほとんどが奇妙な考えを持っていることに気付く。カエルの楽園のナパージュの平和は、「三戒」(カエルを信じろ、カエルと争うな、争うための力を持つな)によって守られているのだという。平和なナパージュでの暮らしの中で「三戒」に心酔するロベルトに対し、今一つ「三戒」を信じきれないソクラテス。彼はナパージュで一番の物知りと言われるデイブレイクや毒舌な嫌われ者のハンドレッド、北の山に棲むワシのスチームボート、ヌマガエルのピエール、ウシガエルと戦えるほどの強さを持つがゆえに嫌われているハンニバル三兄弟などに会い、「三戒」の起源やナパージュ周辺の状態を知ると共に三戒に対する疑念を募らせる。
そのナパージュに、南のウシガエル達が迫ってきていた。ツチガエル達は元老会議でウシガエルにどう対処するかで活発な議論を展開し、プロメテウスという若手の元老が自分達の手でウシガエルを追い払い、ナパージュを守ろうと提案する。しかし、元老のガルディアンやデイブレイクはウシガエルは友好的で無害だと主張し、プロメテウスを非難する。妥協案としてスチームボートに南の崖を飛んでもらうことになったがスチームボートはその条件として自分がウシガエルと戦いになった時はツチガエルたちも共に戦うよう要求する。当然それは三戒違反となり、元老のみならず、フラワーズという若者を始めとしたナパージュ国民も激しく反対する。結局スチームボートとの約定は御破算になり、スチームボートは「お前たちがそう決めたのなら仕方ない」と言い残し、ナパージュを離れる。デイブレイクはそれをナパージュの真の独立だと讃える。
スチームボートがいなくなって以来ウシガエルはより頻繁に現れるようになり、状況を見かねたプロメテウスは「三戒」の破棄を提案、その可否を国民投票で決めることになる。投票の前日、デイブレイクは国中の有名なカエルを広場に集め、「三戒」の素晴らしさを語らせる。そして迎えた投票日、僅差で「三戒」破棄は否決される。しかし、状況は好転するどころか悪化し、遂にウシガエル達の侵攻が始まる。
カエルの楽園2020
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登場生物
[編集]- ソクラテス
- 主人公。安住の地を探して故郷の国を捨てたアマガエル。仲間の大半を失った果てに、ナパージュにたどり着いた。世界の残酷さを知っているため、ナパージュの平和が「三戒」で守られていることを今ひとつ信じられない。
- ロベルト
- ソクラテスとともに、ナパージュにたどり着いたアマガエル。ナパージュを守っているという「三戒」に心酔する。
- クンクタトル
- アマガエルの長老。諦観と共に故郷に残り、ソクラテス達を送り出した。
- ダルマガエル達
- ソクラテス達が住むアマガエルの国にやってきて、池を奪い、毎日アマガエル達を食べた。
- クセルクセス
- ヒキガエルの王様。国に住むアマガエルを毎日5匹食べる恐ろしい権力者。
- ローラ
- ナパージュの雌のツチガエル。「三戒」を無邪気に信じている。卵を産みたがっていない。のちに南の崖にスチームボートの巣を作らせることに反対した。
- マイク
- ツチガエルの青年。
- ハインツ
- ツチガエルの青年。
- ピエール
- ナパージュに住むヌマガエル。祖先はヌマガエルの国エンエンからやってきた。ツチガエルに似ていると言われると怒る。彼によるとナパージュのツチガエル達はかつてエンエンで様々な残虐行為を行ったという。
- デイブレイク
- でっぷりと太ったツチガエル。ナパージュの血塗られた歴史を憂いて、「三戒」を守り、「正しく生きる道」を説いている。ナパージュで一番の物知りとして絶大な信頼を寄せられているが、ハンドレッドからは危険視されている。
- 某・大手新聞社がモデルであると、新潮社公式ウェブサイトの広告ページ上の動画で作者が明かしている[6]。
- ハンドレッド
- ナパージュの嫌われ者のツチガエル。毒舌でだらしない性格。彼によるとナパージュが平和なのはスチームボートがいるお陰だという。
- スチームボート
- ナパージュの東の岩山の頂上に棲む年老いた巨大なワシ。昔、ナパージュのツチガエル達と争ったことがあり、その際にツチガエル達を多数殺害して勝利、一時期ナパージュを支配していた。彼によると「三戒」はもともと自分が作らせたのだという。
- ハンニバル三兄弟
- ツチガエルの三兄弟で、その名をハンニバル、ワグルラ、ゴヤスレイという。ウシガエルにも対抗できる力持ちであるが、「三戒」を破るかもしれないというデイブレイクの言葉で国中から嫌われている。
- ガルディアン
- ナパージュの7匹の元老の一人で最年長。「三戒」を守ることを主張している。ハンドレッドによると先祖がヌマガエルらしい。
- プロメテウス
- ナパージュの7匹の元老の一人で、最も若く、言動が過激と言われている。「三戒」の意義とウシガエル達への対処を巡ってガルディアンと対立し、「三戒」を破棄すべきか否か国民全員の多数決で決めようと提案する。
- フラワーズ
- 尻にしっぽがついている若いツチガエル。ナパージュの危機に平和を訴え、争いは嫌だと公言する。デイブレイクから目をかけられている。
- ウシガエル達
- ナパージュの南の崖の下の黒い沼に住むウシガエルの集団。毎日ほかのカエルを食べており、風のない日には食べられるカエルの悲鳴がナパージュまで届くらしい。中盤からしょっちゅう南の崖を登ってナパージュに侵入するようになる。デイブレイクなど一部のツチガエルと言葉が通じる模様。
書誌情報
[編集]- 百田尚樹『カエルの楽園 2020』新潮社〈新潮文庫 ひ-39-3〉、2020年6月12日、216頁。OCLC 1159312419 。
評価
[編集]『佐賀新聞』は、平和安全法制を巡る憲法議論を彷彿させるものであり、演じられる悲劇は身につまされるところがあるとしたうえで、「悲劇は物語の中だけで願わざるにいられない」との論評を掲載した[7]。
『産経新聞』は、同書は平和ボケした日本の将来を暗示しているとして、安保法制に賛成する人も反対する人も読むべき書籍であると評した[8]。
同書を出版した新潮社の傘下にある『デイリー新潮』編集部は、言論上で百田と激しく対立する朝日新聞社が、世間の注目が集まっては困ると思ってか[9]完全に黙殺したことをはじめとして[9]、日本国内のマスメディアが大して論評しなかったことを批判した[9]。しかしながら、『週刊新潮』を筆頭に『新潮』『小説新潮』『新潮45』『yom yom』『波』などの新潮社が発行する雑誌は全て一度も『カエルの楽園』の書評を掲載していない[10]。 また韓国では『朝鮮日報』が百田の小説が発売されるたびにベストセラーとなる現状を『カエルの楽園』の内容ともども冷静に分析しているとし、日本よりも韓国のほうが感情的ではない評価を下していると評した[9]。
『図書新聞』は、本書は新潮社のサイトで「大衆社会の本質を衝いた、G・オーウェル以来の寓話的『警世の書』」と紹介されているが、オーウェルの『動物農場』や『一九八四年』と比べればかなり安易に寓話化されており、寓意があまりに単純で平板であると批判した[11]。
書評家の豊崎由美は、「げんなりするほど一方的な寓意しかないこんな低レベルな読み物は、とても寓話とは呼べず、たんなるプロパガンダ」と述べた[10]。
サイン会爆破予告
[編集]2015年(平成27年)3月12日の正午ごろ、兵庫県西宮市の「ブックファースト 阪急西宮ガーデンズ店」で開催される予定にあった『カエルの楽園』発売記念サイン会に対して、爆破を予告する脅迫電話が同書店に掛かってきた[12]。しかし書店内に不審物は発見されず、サイン会は場所を阪急西宮ガーデンズ内の会議室に移したうえで予定どおりの時刻に開催された[12]。当事者となった店舗は一時営業停止を余儀なくされるなど対応に追われた[13]。犯行動機は明かされなかったが、小説の内容もしくはかねてからの百田の政治的発言への反発が原因と推定された[13]。百田はこれを受けて、“憲法”や“平和”を護るためとして“人殺し”も厭わないような人がいることに言及しつつ[13]、「(覚悟して意見を表明している)私への嫌がらせなら我慢できるが、一般の方に迷惑を掛けるような行為は許すことはできない。」とコメントした[12][13]。『デイリー新潮』(新潮社)は、このような嫌がらせを行う人々を強く刺激できたとすれば作品としては成功と言えなくもないとしながらも、このような明らかな言論弾圧行為は決して許されないと抗議した[13]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ 百田 (2016).
- ^ 新潮社 2017 [リンク切れ]
- ^ 百田 (2020).
- ^ a b 「百田尚樹氏、ネットで無料公開の「カエルの楽園2020」わずか2日で削除 読者数が想像下回る?「今すぐに読んでもらいたかった」」『東京中日スポーツ』中日新聞東京本社、2020年5月8日。2020年7月4日閲覧。
- ^ a b 「百田尚樹氏、ネット無料公開の「カエルの楽園2020」書籍化迷う?ファンの熱気と冷静な指摘に揺れる心境」『東京中日スポーツ』中日新聞東京本社、2020年5月9日。2020年7月4日閲覧。
- ^ 新潮社 (2020), 2020年7月4日閲覧.
- ^ 有明抄「カエルの楽園」『佐賀新聞LiVE』佐賀新聞社、2016年3月31日。2020年7月4日閲覧。
- ^ 高橋昌之「小説「カエルの楽園」は日本の未来を暗示しているのか? 「三戒」守る平和ボケ国家の行方は…」『産経ニュース』産業経済新聞社、2016年5月3日。2020年7月4日閲覧。
- ^ a b c d 「朝日新聞が黙殺し、韓国紙が評価した百田尚樹の問題作」『デイリー新潮』新潮社、2016年4月11日。2020年7月4日閲覧。
- ^ a b “LITERA 百田尚樹と週刊新潮が『カエルの楽園』の書評を載せない新聞を批判! でも新潮社の雑誌でも書評はゼロだった(笑)(2)”. 2020年12月31日閲覧。
- ^ “図書新聞 『カエルの楽園』と『幼年時代』――百田尚樹の安易さ、江藤淳の「本当らしさ」”. 2020年12月31日閲覧。
- ^ a b c 「「百田尚樹氏のサイン会を爆破する」 会場変更し厳重警備の中、実施 兵庫県警が捜査」『産経WEST』産業経済新聞社、2016年3月12日。2017年2月12日閲覧。
- ^ a b c d e 「百田尚樹サイン会に爆破予告 「日本の平和主義者ほど好戦的な人たちはいない」」『デイリー新潮』新潮社、2016年3月14日。2017年2月12日閲覧。
参考文献
[編集]- 清滝仁志「社会 立憲・反知性・失楽園 : 百田尚樹『カエルの楽園』を読む」『改革者』第57巻第7号、政策研究フォーラム、2016年7月、48-51頁。NCID AN00288187。
- 出版部担当N「百田尚樹『カエルの楽園』サイン会 爆破予告顛末記」『新潮45』第35巻第409号、新潮社、2016年5月、ISSN 0488-7484。
- デイリー新潮編集部「百田尚樹氏最新作が物議を醸す 『永遠の0』を超えた最高の問題作」『デイリー新潮』、新潮社、2016年3月4日。
- デイリー新潮編集部「百田尚樹氏が民主・維新新党の名前を「カエルの楽園党」はどうかと提案」『デイリー新潮』、新潮社、2016年3月9日。
- デイリー新潮編集部「百田尚樹サイン会に爆破予告 「日本の平和主義者ほど好戦的な人たちはいない」」『デイリー新潮』、新潮社、2016年3月14日。
- デイリー新潮編集部「百田尚樹氏「サイン会脅迫事件」を矮小報道する新聞の了見」『デイリー新潮』、新潮社、2016年3月18日。
- 百田尚樹「『カエルの楽園』刊行記念インタビュー 現代を俯瞰する物語」『波』第50巻第3号、新潮社、2016年3月、2-5頁。
- 百田尚樹「トランプ大統領誕生で『カエルの楽園』が予言の書になる日」『週刊新潮』第61巻第20号、新潮社、2016年5月26日、42-45頁、ISSN 0488-7484。
- 百田尚樹「日本は中国の楽園になる ウシガエルと「無暗にことを荒立ててはいけない」「いたずらに彼らを刺激してはいけない」そしてナパージュ国は侵略された」『Voice』第464号、PHP研究所、2016年8月、41頁、ISSN 0387-3552。
- 百田尚樹「言論封殺の恐ろしさ 韓国や中国を批判する発言はすべてレイシズムなのか」『Voice』第476号、PHP研究所、2017年8月、18-25頁。
- 「歴史通 2017年4月春号」『歴史通』4月春号第47号、ワック、2017年3月6日、ASIN B01MZDJ4GU。
- 百田尚樹、井沢元彦「百田尚樹『カエルの楽園』vs.井沢元彦『「日本」人民共和国』 ビッグ対談 ゆでガエル楽園国家 日本が植民地にされる日」132-147頁。
関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- “カエルの楽園”. 新潮社. 2017年2月11日閲覧。[リンク切れ]
- 内容更新後:“カエルの楽園”. 新潮社. 2020年7月4日閲覧。
- “カエルの楽園2020”. 新潮社. 2020年7月4日閲覧。