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エゾセラス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
エゾセラス
エゾセラス(右)
地質時代
後期白亜紀コニアシアン
Coniacian
分類
: 動物界 Animalia
: 軟体動物門 Mollusca
: 頭足綱 Cephalopoda
亜綱 : アンモナイト亜綱 Ammonoidea
: アンモナイト目 Ammonitida
: ノストセラス科 Nostoceratidae
: エゾセラス Yezoceras
学名
Yezoceras Matsumoto, 1977
  • Y. nodosum
  • Y. miotuberculatum
  • Y. elegans

エゾセラス(学名:Yezoceras)は、日本北海道で産出しているノストセラス科アンモナイトの属。一般に異常巻きと呼ばれるアンモナイトのグループである。エゾセラス・ノドサム、エゾエラス・ミオチュバキュラータム、エゾセラス・エレガンスの3種が発見されており、いずれも後期白亜紀コニアシアン期の種である。

発見と命名

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エゾセラス・ノドサムとエゾセラス・ミオチュバキュラータムの2種は北海道三笠市に分布するコニアシアン階から発見され、1977年に松本達郎が新属新種として記載・発表した[1][2]。属名は "Yezo"(「蝦夷」[注 1])と "ceras"(「角」[注 2])に由来する[3]

その後2015年から2017年にかけた北海道羽幌町での発掘調査にて、横浜国立大学大学院の修士課程学生であった岩崎哲郎が異常巻きアンモナイトの標本を2点採集した。2018年初頭に三笠市立博物館相場大佑は標本が新種のアンモナイトである可能性を指摘し、標本は三笠市立博物館に寄贈されることになった。同年夏に相場は同館の唐沢與希と共に発掘調査を行って5点の新標本を採集。また、同館に別種として常設展示されていた標本も新種のものである可能性が浮上した。国立科学博物館九州大学総合研究博物館に所蔵された標本との比較の結果、これら計8点の標本は新種であると結論付けられ、上記2種の命名から44年後の2021年1月1日に新種エゾセラス・エレガンスが発表された[3]

特徴

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異常巻きアンモナイトの1つ。種によって細かい特徴は異なれど、ドリルにも似た螺旋状の尖った殻が特徴的である。成長末期の住房からは襟状に肋が飛び出し、突起が膨らんでこぶになっている。また、現生のカタツムリサザエなどの巻貝の殻の巻き方が種ごとに共通しているのに対し、異常巻きアンモナイトは同一種内でも右巻きの個体と左巻きの個体が確認されている。それはエゾセラスも例外ではない[2]

3種とも産地が北海道内に限られていることから、北西太平洋の固有の属であった可能性が高い。また、コニアシアン期の間に種分化を遂げたと考えられている[3]

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エゾセラス・ノドサム
模式種。奔別川支流の五の沢で発掘された[1]。1977年記載。斜めに走る細肋と、周期的な4列の突起が特徴的である。螺環の断面は楕円形をなし、また螺旋はそれぞれ互いに接している[2]。前期 - 中期コニアシアンから産出しており、後期コニアシアンからも産出している可能性がある。従って3種の中では最も古い時代の地層から産出しており、ミオチュバキュラータム種とエレガンス種の祖先である可能性が高い[3]
エゾセラス・エレガンス
2021年記載。螺旋は大回りで、それぞれに空隙が存在していて互いに接していない。また突起はノドサム種よりも少ない2列で、殻の下側に偏る。ホロタイプ標本MCM-K0044は成長末期部位の幅が約4センチメートル、高さ10センチメートル強。後期コニアシアンの前半のみから産出しており、エゾセラス属では2番目に古い種であることから、ノドサム種から派生したことが強く示唆される[3]
九州大学総合研究博物館に所蔵されていたエゾセラスの抜け痕化石はノドサム種のパラタイプ標本に指定されていたが、エレガンス種に近い特徴を持っていたためエレガンス種に再分類された[4]
エゾセラス・ミオチュバキュラータム
1977年記載。前者2種よりも細い螺旋をなしており、また各螺旋は互いに接していない[3]。ただし巻き方にはやや変異が見られる。後期コニアシアンの後半の地層から産出しており、ノドサム種よりも後の時代の種であることからノドサム種から派生したと考えられていた[5]。しかし、両種の間の時代からエレガンス種が発見されたことにより、本種がノドサム種とエレガンス種のどちらに起源を持つかは不明となった[3]

展示や利用

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日本古生物学会はアンモナイトのCTスキャンデータを一般公開しており、エゾセラス・ノドサムとエゾセラス・ミオチュバキュラータムも三笠市立博物館が所蔵する標本MCM-A1135とMCM-A1395のデータをオンライン上で無料でダウンロードできる[5][6]

所蔵する博物館

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三笠市立博物館(北海道三笠市)
エレガンス種の標本8点(MCM-A2051、MCM-A2052、MCM-K0044、MCM-M0264、MCM-M0265、MCM-M0266、MCM-M0267、MCM-M0268)所蔵されている。これらの実物化石は2021年2月2日から3月28日までのミニ企画展「新種発見!エゾセラス・エレガンスと異常巻きアンモナイトの最新研究」で展示が予定されている[3]
栃木県立博物館(栃木県宇都宮市)
ノドサム種と未同定のエゾセラス属[7][8]
千葉県立中央博物館(千葉県千葉市)
ミオチュバキュラータム種の標本PS-0001530[9]
国立科学博物館(東京都台東区)
1977年に松本が記載の際に使用した三笠市産ノドサム種の標本PM-7254[10]とPM-7255[11]のほか、夕張市産ノドサム種標本PM-16659とPM-16660、芦別市産ノドサム種標本PM-17065の計5点が所蔵されている[12][13][14]

脚注

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注釈

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  1. ^ 北海道の旧名称。
  2. ^ 爬虫類でいう「サウルス」、哺乳類でいう「テリウム」のように、アンモナイトの属名に一般的に付けられる。

出典

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  1. ^ a b MATSUMOTO, T. 1977"Some heteromorph ammonites from the Cretaceous of Hokkaido. Studies of the Cretaceous ammonites from Hokkaido and Saghalien 31." Memoirs of the Faculty of Science, Kyushu University, Series D, Geology, vol.23, no.3, pp.303-366, pls.43-61.
  2. ^ a b c 森伸一『北海道羽幌地域のアンモナイト』羽幌古生物研究会(編)(2版)、北海道新聞社事業局出版センター、2012年、80-81頁。ISBN 978-4-86368-029-6 
  3. ^ a b c d e f g h 北海道羽幌町から白亜紀の新種アンモナイトを発見 Yezoceras elegans (エゾセラス・エレガンス) と命名』(プレスリリース)三笠市立博物館、2021年1月13日、1-6頁https://www.city.mikasa.hokkaido.jp/hotnews/files/00010100/00010197/20210110105847.pdf2021年1月18日閲覧 
  4. ^ Daisuke Aiba; Tomoki Karasawa; Tetsuro Iwasaki (2020-12-30). “A New Species of Yezoceras (Ammonoidea, Nostoceratidae) from the Coniacian in the Northwestern Pacific Realm”. Paleontological Research 25 (1): 1-10. doi:10.2517/2020PR008. https://doi.org/10.2517/2020PR008. 
  5. ^ a b Yezoceras miotuberculatum 三笠市立博物館 MCM-A1395”. 日本古生物学会. 2021年1月18日閲覧。
  6. ^ Yezoceras nodosum 三笠市立博物館 MCM-A1135”. 日本古生物学会. 2021年1月18日閲覧。
  7. ^ 収蔵品一覧 古生物”. 栃木県立博物館. 2021年1月19日閲覧。
  8. ^ 収蔵品一覧 古生物”. 栃木県立博物館. 2021年1月19日閲覧。
  9. ^ エゾセラス・マイオテュバーキュラータム”. Chiba Prefectural Museum. 2021年1月19日閲覧。
  10. ^ 詳細(無脊椎動物化石)”. 国立科学博物館. 2021年1月18日閲覧。
  11. ^ 詳細(無脊椎動物化石)”. 国立科学博物館. 2021年1月18日閲覧。
  12. ^ 詳細(無脊椎動物化石)”. 国立科学博物館. 2021年1月18日閲覧。
  13. ^ 詳細(無脊椎動物化石)”. 国立科学博物館. 2021年1月18日閲覧。
  14. ^ 詳細(無脊椎動物化石)”. 国立科学博物館. 2021年1月18日閲覧。