エイダ・コールマン
エイダ・コールマン(Ada Coleman、1875年 – 1966年)は、女性のバーテンダー。ロンドンのサヴォイ・ホテルでチーフ・バーテンダーを務めており、カクテル史上において、最も優れた女性バーテンダーの1人に挙げられる[1]。通称はコリー(Coley)[2][3]。
概要
[編集]1903年にサヴォイ・ホテル内の「アメリカン・バー」のチーフ・バーテンダーに就任し、右腕ともいえるローラ・バージェスとともに1926年まで務めた[2]。
アメリカン・バーを訪れる客に様々なカクテルを作り、中でも喜劇役者チャールズ・ホートリーのために創作したとされるカクテル「ハンキー・パンキー」で知られる[2][3][4]。ハンキー・パンキーは21世紀でも、世界のバーでよく飲まれているカクテルベスト50の常連である[4]。
経歴
[編集]コールマンは、サヴォイ・グループが運営していたゴルフクラブで働く父親の下、1875年に生まれ、父親から「手に職を持つように」と教えらえて育つ[3]。
1898年にサヴォイ・グループのあるホテルのフラワー・ショップで働き始める[4]。1900年頃には同じくサヴォイ系列のクラリッジ・ホテル(ロンドン・メイフェア)のバーで勤務を始め、酒類やカクテルの知識をはじめとしたバーテンディングの基礎を学ぶ[3][4]。20世紀初頭のロンドンでは、ホテルバーで働く人間の半分弱は女性であり、「バーテンダー」ではなく「バーメイド」と呼ばれてた[4]。商人や工場労働者階級の若い子女にとっては、バーメイドの仕事は長時間労働にも関わらず「他の仕事と比べると、仕事の内容も単調でなく、収入も良い」職業であった[4]。一方で、女性の職業としては「バーの仕事は肉体的、道徳的によくない」という考えもあり、女性を排除する動きもあった[4]。しかし、当時のサヴォイ・ホテルグループのオーナー・ルパート・ドイリー・カートは1903年にサヴォイ・ホテルの「アメリカン・バー」のチーフ・バーテンダーにいきなりコールマンを抜擢した[4]。
マーク・トウェイン、マレーネ・ディートリヒ、チャーリー・チャップリンといったセレブな顧客たちから厚い信頼を得たコールマンは、「コーリー」という愛称で呼ばれるようになる[3][4]。
1925年にサヴォイ・ホテルはコールマンとバージェス両名のアメリカン・バーからの引退を突然発表する[4]。この引退は、コールマンやバージェス本人からの申し出ではなく、顧客からのクレームが遠因となっている[4]。1920年にアメリカ合衆国で施行された禁酒法により、サヴォイ・ホテルにもアルコールを求まるアメリカ人客が増えていたが、アメリカ人は女性の社会進出に保守的であり、「バーは女性が働くにはふさわしくない」と女性であるコールマンとバージェスの作るカクテルや存在そのものを敬遠するようになり、そうしたクレームに屈する形でホテル・オーナーがコールマンとバージェスを排除してしまった[4]。コールマンの後任には1921年からアメリカン・バーで働いていたハリー・クラドックがチーフ・バーテンダーに就任することになる[4]。
クラドックのコールマンに対する評価や思いは記録に残っていないが、後年クラドックが編纂したカクテルブック『サヴォイ・カクテルブック』には「ハンキー・パンキー」が収録されている[4]。
アメリカン・バーを去った後のコールマンについては、詳しくは伝わっていない[4]。サヴォイ・ホテルのフラワー・ショップで再び働いていたという話もあるが、これを否定する説もある[4]。晩年は別のホテルのクローク・スタッフとして働いていたが、1966年に死亡した[4]。
関連するカクテル
[編集]- ハンキー・パンキー - 上述のようにコールマンの創作カクテル。
- マンハッタン - コールマン自身がデイリー・エクスプレスに語ったところに依れば、クラリッジ・ホテル時代に初めて作ったカクテル[5]。
- ホワイト・レディ - 創作者には複数の説があるが。コールマン創作という説もある[6]。
出典
[編集]- ^ 「ハンキー・パンキー」『カクテルをたしなむ人のレッスン&400レシピ』日本文芸社、267頁。ISBN 978-4537218695。
- ^ a b c “130年の歴史あるサヴォイの名バー、時代を作る女性たち。”. madame FIGARO.jp (2021年9月23日). 2024年11月10日閲覧。
- ^ a b c d e 石倉一雄 (2012年5月9日). “VI 女性バーテンダーのさきがけ(1)欧米編”. FoodWatchJapan. 2024年11月10日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 荒川英二 (2022年6月28日). “カクテル・ヒストリア第22回『エイダからシャノンへ、受け継がれる魂』”. LIQUL. 2024年11月10日閲覧。
- ^ EMILY BELL (2016年3月17日). “Ada Coleman: One Of History’s Most Famous Female Mixologists”. VinePair. 2024年11月11日閲覧。
- ^ “White Lady Cocktail” (英語) (2023年2月26日). 2024年11月11日閲覧。