インバウン丼
インバウン丼(インバウンどん)は、訪日外国人観光客をターゲットにした高額な海鮮丼の俗称。「インバウンド」と「海鮮丼」のかばん語である。
概要
[編集]2024年2月にオープンした商業施設「豊洲 千客万来」では、1杯5000円以上の海鮮丼や、大トロや中トロがのった6980円の海鮮丼が提供され、SNS上で「インバウン丼」と揶揄された[1]。北海道のニセコでも同様に高額な飲食店が立ち並ぶ[2]。
「インバウン丼」は、2024年の「新語・流行語大賞」にもノミネートされた[3]。
評価・反応
[編集]「インバウン丼」や高額な飲食店に対し、ある外国人観光客は「安くはないが、日本のレストランはサービスがいい」[4]などと評価している。
ある専門家は「オーバーツーリズムの弊害ばかりに注目が集まり、外国人観光客が“お客様”ではなく“迷惑客”とみる論調も一部で見られるようになっている」「日本より物価水準の低いところから訪れる外国人観光客、決して裕福ではない学生もいることを忘れてはならない」といった評価を行っている[5]。
円安の日本の状況を鑑みて「これが世界基準だ」「日本人の賃金が上昇すれば…」といったインバウンド価格への理解を示す声もあがった[6]。
株式会社ビヨンドのマーケティングソリューション事業部の社員は、日本人に向けた「インバウン丼」について、特別感の演出や品質の高さのアピール、新たな食体験の提供といったメリットの一方で、高価格帯のメニューに対して抵抗感を持つ日本人の存在や、日常的な利用には不向きであるというデメリットを指摘している[6]。
タレントの梅沢富美男は、TOKYO MXの『バラいろダンディ』で函館のなじみの飲食店で、3000円だった海鮮丼が8000円に値上がりしており、食事後「お前ら、いい加減にしろよ」「2度と来ないよ」「そのうちにしっぺ返しがくるからな」と言い放ったことを語り、「もっと言ってくれ!」「一度離れた客は値段を下げても戻ってこないもんだよ。他にも店あるしね」といった声の一方で、「需給バランスだけで価格決めたらこうなる。それでも金払う客だけで生きていくなら問題ない」「その値段で食べてくれる人が居るなら別に良い」などの批判の声が上がった[7]。
大阪府大阪市道頓堀のあるすき焼き専門店では、従来日本人向けに1万円台までのコース料理を提供していたが、単価は上がるが単品を注文するより安い2万円を超える特別コースを提供したところ、インバウンド売り上げは14倍に増えた[8]。
ニセコで札幌から出店の弁当やスイーツを扱うあるキッチンカーでは3000円のチキンカレーとカツ丼が人気で出店者は「安くしたことがあったが、品質が悪いと思われて売れなくなり、値段を戻した」という[2]。別店舗では、アルバイトの時給・出店料が高額であることもあり、「ニセコはぼったくりと言われるが、やっていくにはこの値段しかない」という[2]。
記事冒頭で述べた「6980円の海鮮丼」を提供する店舗の店長は、6980円の海鮮丼はぼったくりではないかという意見に対し「誹謗中傷だとも思わないし、逆にチャンスだと思っています。話題になって、お客さんに食べに来てもらって、それで『やっぱり価値があるね』と思ってもらえればそれでいい。その上で、お客さんが“ボッタクリ”だと思うのであれば、それはお客さんの価値観でしょう。今は円安だし、外国人にとってはこの値段でも安いんですよ」とし、「うちは愛媛県の宇和島で養殖された本マグロを、冷凍ではなく、生で仕入れて使っています。それにかかる経費や人件費、場所代などもろもろ考えてもらえればわかると思いますが、完全に適正価格ですよ」[1]と語っている。
「豊洲 千客万来」では、オープン当時、日本人客の間では比較的に手頃な価格なメニューが多い店に長蛇の列ができていた。第一生命経済研究所の首席エコノミストである永濱利廣は、「商品・サービスの中身が伴った値段が高い物については、財布のヒモが固い日本人よりも、インバウンド(訪日客)をターゲットにして、販売していくのが大きなポイントになってくる」と指摘した[9]。
その他
[編集]名代富士そばの限定メニュー「DX柔らかポークの薬味たっぷり玉子丼」が、2300円と富士そばの中では高額であったことから「インバウン丼」として一部で炎上した[10]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ a b “18000円のうに丼も…豊洲の「インバウン丼」は適正価格なのか 店員は「ボッタクリ丼だと思うなら、そう思えばいい」〈見逃し記事配信〉”. AERA dot. (アエラドット) (2024年5月10日). 2024年11月30日閲覧。
- ^ a b c “ニセコが物価も時給も全部高騰!キッチンカーのカレー3000円「ぼったくりと言われるけれど」 | SASARU [ささる]”. SASARU. 2024年11月30日閲覧。
- ^ “「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞”. 「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン 新語・流行語大賞. 2024年11月30日閲覧。
- ^ “「日本人にはムリ!」「いくらなんでも高すぎる」…海鮮丼1食約7000円、豊洲で話題の「インバウン丼」は中国人の“爆食い”で日本の観光新境地を切り拓けるか | 集英社オンライン | ニュースを本気で噛み砕け”. 集英社オンライン (2024年2月10日). 2024年11月30日閲覧。
- ^ 日本放送協会 (2024年7月4日). ““おもてなし”の価格は? インバウンドで価格設定に変化”. NHKニュース. 2024年11月30日閲覧。
- ^ a b “〈インバウン丼のその後〉1食約7000円なのに日本人にもウケていた!? 流行語にもなったあの商品は今…「インバウン丼は決して高くない」”. 集英社オンライン (2024年11月29日). 2024年11月30日閲覧。
- ^ “「海鮮丼8000円」梅沢富美男がなじみの店のインバウンド価格を痛烈批判も「もっと言ってくれ」「店にも事情」賛否渦巻く”. Smart FLASH (2024年3月5日). 2024年11月30日閲覧。
- ^ “飛ぶように売れる「インバウン丼」、強気価格が映す安いニッポン”. ブルームバーグ (2024年2月20日). 2024年11月30日閲覧。
- ^ “「インバウン丼だ」海鮮丼が1万5000円! 豊洲市場にオープンの新スポット 外国人観光客らでにぎわう”. FNNプライムオンライン (2024年2月1日). 2024年11月30日閲覧。
- ^ “富士そばの2300円の丼ものが「インバウン丼と呼ばれて炎上…」広報直撃! 店舗限定に高額メニューが並ぶ意外すぎる理由”. 集英社オンライン (2024年6月10日). 2024年11月30日閲覧。