アドメートス
アドメートス(古希: ῎Αδμητος, Admētos, ラテン語: Admetus)は、ギリシア神話に登場するテッサリアー地方の都市ペライの王である。長母音を省略してアドメトスとも表記する。ペライを建設したペレースの子であり、ネメアーの王となったリュクールゴスとは兄弟。カール・ケレーニイによれば、「アドメートス」とは「征服されない男」の意。
父ペレースの兄弟にアイソーンがあり、したがって、アイソーンの子イアーソーンとアドメートスは従兄弟の関係である。アドメートスはイアーソーン率いるアルゴナウタイの冒険に参加し、また、カリュドーンの猪狩りにも加わった。
神話
[編集]アポローンの息子アスクレーピオスは、死者を生き返らせるほどの名医だった。だが冥府の主であるハーデースが「死者を生き返らせるのは世界の秩序を乱す」としてゼウスに抗議する。そこでゼウスは雷霆をもってアスクレーピオスを撃ち殺した。これに怒ったアポローンは、ゼウスのために雷霆を作っていたキュクロープスたちを殺した。ゼウスはアポローンをタルタロスに落とそうとしたが、レートーの乞いによって罪を減じ、1年の間人間に仕えるよう命じた[1]。そしてアポローンが仕えた人間がアドメートスである。アポローンはアドメートスの牛飼い(羊飼いとも)となり、アドメートスの牛に双生児を産ませて増やした。
アドメートスはイオールコス王ペリアースの娘アルケースティスを愛していたが、ペリアースは戦車に獅子と猪を繋ぐことのできた者に娘を与えると約束していた。アポローンはアドメートスのために戦車に獅子と猪を繋ぎ、アドメートスはこの戦車を駆って競技場を一周して、アルケースティスを妻とすることに成功した。アルケースティスとの結婚式のとき、なぜかアドメートスはアルテミスに生け贄を捧げることを忘れた。このため、閨房の扉を開くと、部屋にはとぐろを巻いた蛇が満ちていた。アポローンはアドメートスに、女神を宥めるようにいった。
さらにアポローンは、モイライに乞うて、アドメートスの死期がきたときに彼の父母か妻のうち、彼のために喜んで死のうとする者があった場合には、その死期を延ばせるように計らった。このとき、アポローンはモイライを酔わせてこのような取り決めを勝ち得たともいう。
アドメートスが死ぬ日が来たとき、父も母も彼のために死のうとはしなかったが、アルケースティスが身代わりになって死んだ。このとき、ペルセポネーはアルケースティスを冥府から地上に送り返してやった[2]。別の説では、ヘーラクレースがタナトスと闘ってアルケースティスを連れ戻したともいう[2]。
アドメートスとアルケースティスの子エウメーロスは、スパルタのヘレネーの求婚者の一人となり、後のトロイア戦争には11隻の軍船を仕立て、ペライの兵を率いて参戦した。
系図
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脚注
[編集]- ^ ケレーニイによれば、アポローンが人間に仕えたのは、彼が生まれた直後に雌の龍デルピュネーを殺した償いのためだったともいう。
- ^ a b 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店1960年、ISBN 4-00-080013-2、22頁。
参考文献
[編集]- アポロドーロス『ギリシア神話』(高津春繁訳、岩波文庫)
- カール・ケレーニイ『ギリシアの神話』(「神々の時代」・「英雄の時代」、高橋英夫訳、中央公論社)
- ロバート・グレーヴス『ギリシア神話』(上・下、高杉一郎訳、紀伊國屋書店)
- B.エヴスリン『ギリシア神話小事典』(小林稔訳、現代教養文庫)(ISBN 4-390-11000-4)
- 創元社編集部編『ギリシア神話ろまねすく』(ISBN 4-422-02202-4)