アコウ (植物)
アコウ | ||||||||||||||||||||||||
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国営明石海峡公園にて
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分類(APG III) | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Ficus superba (Miq.) Miq. var. japonica Miq. (1866)[1] | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
アコウ、アコギ、アコミズキ |
アコウ(赤榕[4]・赤秀[4]・雀榕[4]、学名: Ficus superba var. japonica)は、クワ科イチジク属の半常緑高木。F. superba の変種 var. japonica とされているが[5][6][7]、Ficus subpisocarpa とする説もある[2]。葉を乾かして焼くとよい香りを発するので、沈香木(じんこうぼく)とよばれる[8]。
分布と生育環境
[編集]日本では、紀伊半島(和歌山県南部)および山口県、四国南部、九州、南西諸島などの温暖な地方に分布する[8][9]。日本国外ではアジア南東部[9]の台湾や中国南部沿岸、東南アジアなどに分布している[8]。
暖地の海岸など、沿岸地に自生する[9][4]。主な低地に生育し、琉球諸島では石灰岩地にも生育する。
特徴
[編集]常緑広葉樹の高木で[9]、樹高は約10 - 20メートル (m) 、幹径は1 mほどに達する[8]。高さに対して樹幹が横にも大きく広がる[8]。樹皮は褐色で皮目が多い[4]。若い枝はやや太く無毛で、托葉痕が一周する[4]。幹は分岐が多く、幹や枝から多数の気根を垂らし、岩や露頭などに張り付く[9]。幹や根際から気根を下ろすが、ベンガルボダイジュのように枝からは真っ直ぐ下ろすことはなく、幹を這うように下垂して地上に達する[8]。気根は枝を支える支柱根にはならないが[4]、岩の隙間にも根を下ろし、多数伸ばした気根が樹木を支えるために役立っている[9]。
春の新芽は成長につれ色が赤などに変化し美しい[8]。葉は互生し、やや細長い楕円形でなめらかでつやはあまりなく、やや大ぶりで約10 - 15センチメートル (cm) ほどである。葉質は革質で全縁[8][4]。葉柄は長い[4]。一年のうち、3 - 4月ごろに新葉を出す前に一度落葉する[9]。ただし、その時期は一定ではなく、同じ個体でも枝ごとに時期が異なる場合もある。葉は年2回落葉して新葉に変わるという記述も見られる[4]。
5月頃、イチジクに似た形状の小型の隠頭花序を、幹や枝から直接出た短い柄に付ける(幹生花)。果実はイチジク状果で[4]、赤色に熟すと食用になる。
アコウの種子は鳥類によって散布されるが、その種子がアカギやヤシなどの樹木の上に運ばれ発芽して着生し、成長すると気根で親樹を覆い尽くし、枯らしてしまうこともある。そのため絞め殺しの木とも呼ばれる。これは樹高の高い熱帯雨林などで素早く光の当たる環境(樹冠)を獲得するための特性である。琉球諸島では、他の植物が生育しにくい石灰岩地の岩場や露頭に、気根を利用して着生し生育している[10]。
冬芽は鱗芽で互生し、2枚の芽鱗に包まれる[4]。頂芽は丸みのある円錐形で、側芽は卵形で葉腋につく[4]。葉痕は半円形や楕円形で、維管束痕が弧状に並ぶ[4]。
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全体
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樹幹を這うように下りた多数の気根
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ひこばえ
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葉
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隠頭花序がたくさんついた枝
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隠頭花序とイチジク状果
利用
[編集]防風樹、防潮樹、街路樹として利用される。沖縄県や鹿児島県奄美群島では、防風のために人家のまわりに植えて屋敷林にも利用される[9]。日本では国の天然記念物に指定されている巨樹、古木も多い。また、ガジュマルに比べると耐寒性が高いという特性を活かし、観葉植物としても用いられる。
保護上の位置づけ
[編集]日本
[編集]- 国の天然記念物 - 本州及び九州の巨樹、分布北限地及びその付近が指定されている。
- 地方自治体指定の天然記念物
- 龍王神社のアコウ(和歌山県日高郡美浜町三尾) - 和歌山県指定天然記念物。幹周8.8 m、樹高6 m、樹齢300 - 350年。龍王神社にあるアコウの古木で2幹に分かれ、それぞれがビャクシンとウバメガシを乗っ取って生育している。[12]
- 室戸のアコウ(高知県室戸市) - 室戸市の天然記念物
- 垂水のアコウ(鹿児島県垂水市)-海沿いの宮脇公園に、樹齢100年のアコウ並木がある。
- 指宿報国神社のアコウ(信楽寺のアコウ)(鹿児島県指宿市西方) - 指宿市指定天然記念物としての名称は「宮ヶ浜のアコウ」。幹周13.7 m、樹高15 m、樹齢300年。信楽寺の境内に建てられている指宿報国神社の墓地の近くにある2本のアコウのうちの1本。日本最大のアコウとしても知られている。[13][14]
- 重要文化的景観および世界遺産
- その他
- 五人番のアコウ(鹿児島県指宿市湊) - 幹周6.4 m、樹高15 m、樹齢300年。かつては山川湾の海岸に自生していたが2004年の台風で倒れてしまい、保護活動団体「縄文の森をつくろう会」によってクレーン船で運搬されて指宿港の太平次公園に移植された。[15]
脚注
[編集]- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ficus superba (Miq.) Miq. var. japonica Miq. アコウ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月10日閲覧。
- ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ficus subpisocarpa Gagnep. アコウ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月10日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Ficus wightiana auct. non Wall. ex Maxim. アコウ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年12月10日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 187
- ^ 佐竹義輔ら編集 『日本の野生植物 木本 I』 平凡社、1989、90頁、ISBN 978-4-582-53504-4。
- ^ 初島住彦・天野鉄夫 『増補訂正 琉球植物目録』 沖縄生物学会、1994年、36頁、ISBN 4-900804-02-9。
- ^ 島袋敬一編著 『琉球列島維管束植物集覧【改訂版】』 九州大学出版会、1997年、128頁、ISBN 4-87378-522-7。
- ^ a b c d e f g h 辻井達一 1995, p. 140.
- ^ a b c d e f g h i 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 236.
- ^ 土屋誠・宮城康一 共編 1991, pp. 100–101.
- ^ 高橋弘 2014, pp. 114–115.
- ^ 小山洋二 2024, p. 179.
- ^ 高橋弘 2008, p. 107.
- ^ 小山洋二 2024, p. 265.
- ^ 高橋弘 2008, pp. 108–109.
参考文献
[編集]- 小山洋二『巨樹・巨木図鑑:一度は訪れたい、全国の大樹たち』日本文芸社、2024年3月1日。ISBN 978-4-537-22193-0。
- 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、187頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
- 高橋弘『巨樹・巨木をたずねて』新日本出版社、2008年10月25日。ISBN 978-4-406-05175-0。
- 高橋弘『日本の巨樹:1000年を生きる神秘』宝島社、2014年8月21日。ISBN 978-4-8002-2942-7。
- 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、140 - 142頁。ISBN 4-12-101238-0。
- 土屋誠・宮城康一 共編『南の島の自然観察 : 沖縄の身近な生き物と友だちになろう』東海大学出版会、1991年7月、100-101頁。ISBN 4-486-01159-7。。
- 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、236頁。ISBN 4-522-21557-6。
- 多和田真淳監修・池原直樹著 『沖縄植物野外活用図鑑 第6巻 山地の植物』 新星図書出版、1979年、29頁。
- 山口県『レッドデータブックやまぐち 山口県の絶滅のおそれのある野生生物』2002年。
- 佐賀県『絶滅のおそれのある野生動植物レッドデータブックさが』2003年。
- 加藤陸奥雄・沼田眞・渡部景隆・畑正憲監修『日本の天然記念物』講談社、1995年3月20日、1101頁、ISBN 4-06-180589-4。