「熊本型」ヘリ救急搬送体制
「熊本型」ヘリ救急搬送体制(くまもとがたヘリきゅうきゅうはんそうたいせい)とは、熊本県が導入した、ドクターヘリ出動要請窓口を一本化することにより、ドクターヘリと消防防災ヘリコプターのうち出動可能な機が出動することを可能にした体制のこと。このような体制は他県にも例がない[1]。搬送先となる4つの基幹病院も連携して救急医療を行う体制が構築されている。
体制
[編集]以下の2機が運用されている[2]。
- ドクターヘリ 川崎BK117 C-2
- 防災消防ヘリコプター AS365N3ドーファンⅡ「ひばり」
導入
[編集]2001年、熊本県は防災ヘリコプターとしてAS365N3を購入、4月には運航基地となる防災消防航空センターを熊本空港内に開所した[3][4]。県内消防本部から要員を集めて運航を担当する防災消防航空隊も発足し[5]、7月に運航を開始した。「ひばり」は防災ヘリであり、救急搬送専用ではなかったが、最初の年は出動27件のうち19件が救急搬送であった[6]。しかしヘリは年2箇月の運休期間を設ける必要がある、防災対応が重なった場合は対応できない、病院に立ち寄って医師を乗せる必要があり、余分な時間がかかる、といった課題があり、「ひばり」のみで救急用途に対応するのは問題があった[7][8]。
2008年1月、東京大学教授の蒲島郁夫は3月に実施される熊本県知事選挙に出馬する意向を表明し[9]、2月には「くまもと再生四カ年計画」と題するマニフェストを発表した[10]。蒲島は高齢化社会への対応の一環としてドクターヘリ導入を目指すとし[11]、マニフェストにも導入を盛り込んだ。3月の選挙で蒲島が当選すると、県内の病院が集まって発足した県ドクターヘリ導入推進協議会が知事宛てにドクターヘリ導入の嘆願書を提出した[12]。県はこの年ヘリ導入の検討を開始した[13][14]。
しかし2009年には大きな動きはなかった。5月にはドクターヘリ導入推進協議会が再度嘆願書を出し、蒲島知事がマニフェストで公約したドクターヘリ導入を早期に実現するよう迫った[15]。乳児期に天草から熊本まで陸路で救急搬送され、手に障害の残る結果となった養護学校の生徒が、8月にポスターを制作してドクターヘリ導入を求める一幕もあったが[16]、県側の対応は蒲島知事が9月定例議会で「2011年度の運用開始に向け準備を進める」と述べるにとどまった[17]。一方防災消防ヘリ「ひばり」は、2007年時点で全239回中205件が救急搬送で、1機あたりの救急出動件数としては全国2位の頻度であり、運航回数は限界に近づいていた[18]。
蒲島知事は2010年8月、熊本赤十字病院が事業主体となるドクターヘリの運用開始に先行し、出動回数の8割以上が救急活動と、それまでドクターヘリの役割を果たしてきた防災消防ヘリ「ひばり」と、近々導入されるドクターヘリ、搬送先となる熊本市の4総合病院が連携する体制を2011年末までに構築すると発表した。これが「熊本型・ヘリ救急搬送体制」である[19][20]。2011年3月、県はヘリの出動要請の受付は熊本空港の防災消防航空センターに一元化、ドクターヘリは熊本赤十字病院から出動し、ドクターヘリが稼働中の場合は「ひばり」が国立病院機構熊本医療センターで医師を乗せて現場へ向かう、という運用案をまとめた[21]。熊本県のドクターヘリの運航は2012年1月から開始され、熊本赤十字病院で記念式典が行われた[22][23]。
脚注
[編集]- ^ 『九州圏広域地方計画中間評価』九州圏広域地方計画協議会、2014年9月、99ページ。
- ^ 柿谷哲也「「熊本型」ドクターヘリ 2機4病院体制を確立!」『Jレスキュー』第58号、2012年7月、イカロス出版。76-81ページ。
- ^ 「熊本県 県防災航空センター開設 新型ヘリも公開 益城町」『西日本新聞』2001年4月4日付朝刊30面。
- ^ 「消防ヘリの基地 熊本空港に開所」『読売新聞』2001年4月22日付西部本社朝刊37面。
- ^ 梅野智博「県防災消防航空隊、ただ今猛訓練中! 来月実働 遭難救助、高層ビル消火、急患搬送… 県民の安全任せて」『熊本日日新聞』平成13年(2001年)6月2日付朝刊24面。
- ^ 高嶺千史「どこが違う? ルポ 行政クリニック 病院と連携で救急医療 熊本県の防災消防ヘリ 搬送時間が大幅短縮 機材も充実 鹿県 00年度の急患搬送53件」『南日本新聞』2002年(平成14年)1月15日付2面。
- ^ 井清司「熊本県ドクターヘリの導入―「熊本型救急ヘリ運航体制」の開始まで―」『日赤医学』第64巻第1号、日本赤十字社医学会、2012年、161ページ。
- ^ 井清司「熊本型救急ヘリ搬送体制について ドクターヘリと防災消防ヘリとの2機連携体制」『HEM-Net シンポジウム報告書 ドクターヘリの広域運用』救急ヘリ病院ネットワーク、2012年10月、34-35ページ。
- ^ 毛利聖一「託す 08知事選 蒲島氏が出馬表明 「理想選挙実現したい」」『熊本日日新聞』平成20年(2008年)1月11日付夕刊1面。
- ^ 「託す 08知事選 「稼げる熊本」目指す 蒲島氏がマニフェスト」『熊本日日新聞』平成20年(2008年)2月29日付朝刊5面。
- ^ 「知事選 候補者に聞く(中)」『読売新聞』2008年3月12日付西部本社朝刊31面。
- ^ 田端美華「ドクターヘリ導入を 県推進協 知事に嘆願書」『熊本日日新聞』2008年9月17日付朝刊4面。
- ^ マニフェスト(くまもと再生4カ年計画)の進捗状況について
- ^ 「93のマニフェスト、完了4、実施中73 蒲島知事、進み具合を公表」『朝日新聞』2008年12月28日付西部本社朝刊21面。
- ^ 熊本県にドクターヘリの導入を求める嘆願書
- ^ 原大祐「不自由な手で立体ポスター 救急車で2時間搬送の体験から」『熊本日日新聞』2009年10月9日付朝刊28面。
- ^ 亀井宏二、並松昭光「県内3ダム 方針変えず 川辺川、荒瀬、路木 蒲島知事が強調 県議会代表質問」『熊本日日新聞』2009年9月25日付朝刊4面。
- ^ 並松昭光「アングル'09 ドクターヘリ導入 知事表明 遠隔地は期待 受け入れ側 負担懸念も 「医師不足解消を」」『熊本日日新聞』2009年10月31日付朝刊5面。
- ^ <県民の安心・安全の確保のために!>熊本県ヘリ救急搬送体制の構築に向けて
- ^ 岡恭子「熊本型救急搬送体制を構築へ ドクターヘリ導入…防災ヘリ、4病院と連携」『熊本日日新聞』2010年8月19日付4面。
- ^ 東寛明「「ドクターヘリ」と「ひばり」連携 熊本型救急搬送 県が運航要領案」『熊本日日新聞』2011年3月21日付4面。
- ^ 「ドクターヘリ、運航開始 出動要請受け付け 熊本赤十字病院で式典」『熊本日日新聞』2012年1月16日付夕刊。
- ^ 1月16日(月曜日)熊本県ドクターヘリ運航開始式(熊本市)
外部リンク
[編集]- 「熊本型」のヘリ救急搬送体制 - 熊本赤十字病院
- 「熊本型」ヘリ救急搬送体制 - 国立病院機構 熊本医療センター