デービッド・アトキンソン
デービッド・アトキンソン David Atkinson | |
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生誕 | 1965年5月10日(59歳) |
国籍 | イギリス |
出身校 | オックスフォード大学 |
職業 | 実業家 |
肩書き |
小西美術工藝社社長 |
受賞 |
第24回山本七平賞(2015年) 不動産協会主催・不動産協会賞(2016年) 総合ビジネス誌『財界』主催・経営者賞(2016年) |
デービッド・アトキンソン(英語: David Atkinson, 1965年5月10日[1] - )は、在日イギリス人の経営者。小西美術工藝社社長[2][3][4]、一般社団法人社寺建造物美術保存技術協会代表理事[5][6]。京都国際観光大使、二条城特別顧問、迎賓館アドバイザー[7]。ゴールドマン・サックス元マネージング・ディレクター。三田証券株式会社元社外取締役[8]。金融アナリストの経歴を持つ日本の観光政策・文化財政策・経済政策の専門家。
経歴
[編集]オックスフォード大学で日本学を学ぶ[2][3]。
アンダーセン・コンサルティング(アクセンチュアの前身)やソロモン・ブラザーズに勤務し[3]、1990年に渡日[4][9]。1992年にゴールドマン・サックスに移ってアナリストとして活動した[9]。1998年に同社マネージング・ディレクターを経て[7][9]、2006年10月にパートナー(共同出資者)に選出されたが[9]、2007年1月初旬に就任したその日に辞職[3][10]。私生活では1999年に裏千家に入門し、2006年に茶名「宗真」拝受する[9]。
アナリストを引退して茶道に打ち込む時期を経て[4]、長野県軽井沢町に所有する別荘の隣家が日本の国宝や重要文化財などを補修している小西美術工藝社社長の家だった縁で経営に誘われて2009年に同社に入社し、2010年5月に会長就任。2011年4月に社長兼務となって、高齢・高給職人に対する賃金カットと若年職人に対する正規雇用化と体系的な教育の導入などの経営の近代化と建て直しにあたった[2][3][4][11]。その後は日本の文化財政策・観光政策に関する提言などを積極的に行うようになり、東洋経済新報社の著書『新・観光立国論』で第24回山本七平賞を受賞した[12]。2015年5月より東洋経済ONLINEにて文化財・観光・経済政策に関する題材を中心とした連載を開始[13]。同年に京都国際観光大使に就任している[9]。2016年には三田証券株式会社の社外取締役に就任。2017年6月に日本政府観光局の特別顧問に就任[14]。
日本では明治以降、文化財の修理に中国産の漆が多く使われてきたが、これでは「偽物の復元」であり、また日本産の漆を使わないと日本国内の漆製造技術が廃れる虞があるとして、2012年から2014年当時に文部科学大臣であった下村博文に陳情し、2018年4月以降、国指定文化財(国宝・重要文化財など)の修理においては原則として100%日本産の漆を使うように制度を改めさせたとしている[15][16][17]。
一般社団法人社寺建造物美術保存技術協会代表理事として改革を進め、2017年から、それまでは経営者のためのものであった協会を、雇用されている技能者(職人)を準会員として登録することで技能者の育成を基軸とした体制に改めた[18]。また2020年から人材育成と業界の透明性向上のために研修制度を改めて部門別のカリキュラムを作成し、2022年から職人の技能レベルに応じた4段階の技能者認定制度の本格的な運用を開始する[19]。アトキンソンは、この研修と認定制度を小西美術工藝社の会長に就任した頃から主張し、反対意見を抑えて12年間かけて本格運用にこぎつけたとしている[20]。
菅義偉のブレーンの一人として、菅が内閣官房長官時代から観光政策や経済政策に関して助言を行い、菅が内閣総理大臣に就任した2020年には政府の成長戦略会議の議員に起用された[21]。
主張
[編集]日本の国宝や重要文化財に指定された建造物文化財の年間修復予算が80億円で、一例として経済規模が半分のイギリスの500億円と比べても低予算すぎると指摘し(2011年時点)、建造物文化財の保存に支障をきたし、観光などの経済効果の面でも機会損失をしていると主張している[22]。また日本の観光業界・行政が売り物にする「おもてなし」が外国人旅行者から見ると優先度が実は低いと指摘。長期滞在してもらえる仕組みづくりやガイドの配置、公衆トイレといった環境整備を積極的に行うべきであると主張している[23]。
文化財の修理・保存について、国が事業社に発注する際の入札制度が最も重要であると訴えており、伝統技術を特殊技術として明確に位置付けて、応札する事業社の資格として選定保存団体や実績がある団体に限定し、それらの団体には職人の技能認定制度を義務付けるようにして、施工はそれらの技能を保有する技能者に限定するように制度を改めるよう文化庁の審議会で訴えている[5][6]。
日本経済と社会保障に関して、人口減少社会と少子高齢化社会における将来の社会保障の持続困難性を指摘したうえで、企業の生産性向上が絶対に必要であると繰り返し主張している。特に技術革新や海外展開に対応できる人材が乏しく、最新設備の導入にも限界がある、日本に過剰な数がある中小企業が生産性低下の大きな要因だとし、そのために最低賃金を引き上げて経営力と競争力がない中小企業を淘汰・統合するなどの政策を行うべきであると提言している[13][24]。
さらに、最低賃金の全国一律に収斂すること、最低賃金をビッグデータに基づいて毎年引き上げることを主張し、商工会議所と対立をしている[要出典]。商工会議所は、「最低賃金を引き上げると、倒産は増えて、失業者も増える」と主張するが、第二次安倍政権以降は、最低賃金を引き上げても、企業数は純増して、就業社員数も最高水準を更新しているため、商工会議所の主張は事実に反すると指摘している[要出典]。
中小企業の統廃合の必要性については、2020年5月29日号のプレジデント・オンラインのインタビューで、「非効率的な働き方を引き起こしている」原因は「企業の規模そのもの」にあるとし、次のように語っていた[25]。
「中小企業は、小さいがゆえにさまざまな問題を引き起こし、低生産性を招いています。(中略)現実問題としては、器が小さいままでは業務にICTを導入することもできません。生産性のボトルネックは、企業規模なのです。(中略)人のリソースの問題だけではありません。お金だってそうです。仮に同じ粗利益でも、売り上げが小さい中小企業では研究開発に注ぎ込める額が小さくなります。研究開発費をかけずにイノベーションを起こせるのでしょうか。日本からイノベーションが生まれないのはクリエーティビティに欠けているからだとよく言われますが、別に日本人の資質のせいではありません。企業という器の大きさのせいです。(中略)
規模の問題を考慮せずに、中小企業の労働生産性を高めようとする試みにあまり意味はないと私は考えています。中小企業は、小さいこと自体が問題。ですから、中小企業を成長させたり再編したりして、器を大きくすることをまず考えるべきです。それができない中小企業は、どうすべきか。誤解を恐れずに言うと、消えてもらうしかありません。とくに数を減らすべきは小規模事業者でしょう。統計上、小規模事業者の多くは実効税率ゼロです。なかには追加の課税から逃れるために小規模事業者のままでいる会社もあるくらいです。小規模事業者は、せめて中堅企業にならないといけません。 人口減少の観点からして、小規模事業者の中でも中堅企業にはならない、なろうとしない、慢性的な赤字企業はただの寄生虫ですから、退場してもらったほうがいい。新型コロナウイルスの補助金も小規模事業者にはいらないでしょう。起業してしばらくはどこも小規模なので、補助金があってもいい。しかし、設立10年を経過しても小規模のままで、これまで5期以上納税ゼロという会社に補助をする必要があるのでしょうか。無理に生き延びさせれば、日本がアフターコロナでふたたび立ち上がるときの足を引っ張るだけ。私は不要だと思います。[25][26]。 |
「弥助問題」を巡る騒動
[編集]2024年7月、弥助問題の中心人物であるトーマス・ロックリーの自著『信長と弥助---本能寺を生き延びた黒人侍』(2017年)の中で語られていた、戦国時代日本国内で(ポルトガルなどからの貿易港がある九州地方の)「地元の名士のあいだでは、キリスト教徒であろうとなかろうと、権威の象徴としてアフリカ人奴隷を使うという流行が始まった」とする記述に対し、SNS上で批判が沸き起こった時、X上で同年同月17日18:44に「それが嘘だったエビデンスは?」と問うことで『(戦国時代の日本で黒人奴隷を使うことが流行していたというトーマス・ロックリーの主張が)嘘だと証明せよ』と悪魔の証明を求めたと報道された[27][28][29] 。
著書
[編集]- 『銀行 不良債権からの脱却』(1994年10月11日、日本経済新聞社)ISBN 9784532143312
- 『イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る』(2014年10月22日、講談社+α新書)ISBN 9784062728706
- 『新・観光立国論 イギリス人アナリストが提言する21世紀の「所得倍増計画」』(2015年6月8日、東洋経済新報社)ISBN 9784492502754
- 『イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」』(2015年6月24日、講談社+α新書)ISBN 9784062728973
- 『国宝消滅 イギリス人アナリストが警告する「文化」と「経済」の危機』(2016年2月1日、東洋経済新報社)ISBN 9784492396292
- 『新・所得倍増論 潜在能力を活かせない「日本病」の正体と処方箋』(2016年12月22日、東洋経済新報社)ISBN 9784492396353
- 『日本再生は、生産性向上しかない!』(2017年5月1日、飛鳥新社)ISBN 9784864105484
- 『世界一訪れたい日本のつくりかた 新・観光立国論 実践編』(2017年7月7日、東洋経済新報社)ISBN 9784492502907
- 『新・生産性立国論 人口減少で「経済の常識」が根本から変わった』(2018年2月23日、東洋経済新報社)ISBN 9784492396407
- 『日本人の勝算: 人口減少×高齢化×資本主義』(2019年1月11日、東洋経済新報社)ISBN 9784492396469
- 『日本の生存戦略 デービッド・アトキンソンと考える』(2019年4月、東洋経済新報社 週刊東洋経済eビジネス新書)ISBN 9784492920954
- 『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』(2019年9月21日、講談社)ISBN 9784065175606
- 『日本企業の勝算: 人材確保×生産性×企業成長』(2020年3月27日、東洋経済新報社)ISBN 9784492396520
- 『新・日本構造改革論 デービッド・アトキンソン自伝』(2021年5月7日、飛鳥新社)ISBN 9784864108102
- 『「強い日本」をつくる論理思考 データを重視しない議論に喝!』(共著者:竹中平蔵)(2021年8月4日、ビジネス社)ISBN 9784828423159
- 『給料の上げ方 日本人みんなで豊かになる』(2023年4月20日、東洋経済新報社)ISBN 9784492558096
テレビ番組
[編集]- 日経スペシャル カンブリア宮殿 日本の国宝を守れ! 文化財修復会社トップは英国人アナリスト(2015年5月21日、テレビ東京)- 小西美術工藝社社長として出演[30]。
- ETV特集「日本の文化財を守れ~アトキンソン社長の大改革~」(2017年4月29日、NHK教育テレビ) [31]
脚注
[編集]- ^ “履歴書”. 2017年11月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年5月1日閲覧。
- ^ a b c “毎日フォーラム・あしたの日本へ 小西美術工藝社社長 デービッド・アトキンソン氏”. 毎日新聞社 (2015年4月10日). 2015年12月19日閲覧。
- ^ a b c d e 中村陽子 (2014年12月7日). “身勝手な日本人が、日本の国宝をダメにする 漆塗り老舗を率いる英国人社長が見た真実”. 東洋経済新報社. 2015年12月19日閲覧。
- ^ a b c d 竹内和佳子 (2015年8月29日). “顔 デービッド・アトキンソさん (50) David ATKINSON”. 『読売新聞』朝刊: p. 2
- ^ a b 伝統技術を守るには 文化庁 文化審議会文化財分科会企画調査会(第1回)2021年10月25日
- ^ a b 議事内容 文化庁 文化審議会文化財分科会企画調査会(第1回)2021年10月25日
- ^ a b c 文化庁、創造都市ネットワーク日本主催「創造都市政策セミナー in 京都. 文化財の活用から見る創造都市.
- ^ “三田証券,三田証券株式会社,金融,ローン,資金,About Us - 役員紹介”. 役員紹介 (2018年3月4日). 2018年3月4日閲覧。
- ^ a b c d e f 「首相官邸ホームページ・資料4――「新・観光立国論」株式会社小西美術工藝社 デービッド・アトキンソン
- ^ 『新・日本構造改革論 デービッド・アトキンソン自伝』 2021年5月13日
- ^ 「日本われぼめ症候群」の深層 ハーバービジネスレビュー 2015年6月25日
- ^ PHP研究所(第24回山本七平賞)
- ^ a b 東洋経済ONLINE デービッド・アトキンソン
- ^ “特別顧問の委嘱について”. 日本政府観光局 (2017年6月2日). 2017年11月11日閲覧。
- ^ 国宝に中国の漆を使うと、何が問題なのか (3/4) 東洋経済 2015年3月9日
- ^ 国宝に中国の漆を使うと、何が問題なのか (4/4) 東洋経済 2015年3月9日
- ^ atkindmの2022年5月19日のツイート- X(旧Twitter)
- ^ 第21回 国宝「歓喜院聖天堂」と民具資料の狭間を往来する。 くまがやねっと
- ^ 伝統建築工匠の技 第2回 コア東京Web 2021年10月号
- ^ atkindmの2022年6月23日のツイート- X(旧Twitter)
- ^ 「成長戦略会議」議員にアトキンソン氏 首相のブレーン 朝日新聞 2020年10月13日
- ^ 建築学部開設記念 レクチャーシリーズ 2 No.6 デービット・アトキンソン氏 講演会「歴史的建築物保存と経済学」工学院大学建築学部
- ^ デービッド・アトキンソン氏インタビュー「おもてなし」優先度低い/資源豊かな地方に投資■『日経MJ』1面【つかむインバウンド消費】「稼ぐ観光」潜在力生かせ(2015年9月7日)
- ^ 『日経産業新聞』2020年3月6日【編集長インタビュー】小西美術工芸社社長デービッド・アトキンソン氏「生産性上げないと共倒れ 中小の再編待ったなし 最低賃金引き上げは有効」
- ^ a b D・アトキンソン「慢性的な赤字企業は、ただの寄生虫」(livedoor News、2020年7月12日)
- ^ 慢性的な赤字企業は、ただの寄生虫 『プレジデントオンライン』2020年5月29日号
- ^ 「「日本に黒人奴隷制度があった」とする外国人学者トーマス・ロックリー氏による主張に対する批判に再...金子洋一(衆議院議員)」『選挙ドットコム』2024-7-19
- ^ 「アサクリ問題まとめ:弥助は黒人奴隷から侍に成り上がったのか(池田信夫)」『アゴラ言論プラットフォーム』2024-7-21
- ^ 岩田太郎 (2024年8月7日). “「戦国時代の日本で黒人奴隷が流行」は定説になりつつある…トンデモ説が欧米で"史実"扱いされる恐ろしい理由”. PRESIDENT Online. pp. 1-7. 2024年8月17日閲覧。
- ^ 日本の国宝を守れ! 文化財修復会社トップは英国人アナリスト - テレビ東京 2015年5月21日
- ^ 日本の文化財を守れ~アトキンソン社長の大改革~ - NHKアーカイヴス 2017年4月29日
外部リンク
[編集]- デービッド・アトキンソン (@atkindm) - X(旧Twitter)