きゅう適応症広告事件

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
最高裁判所判例
事件名 あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法違反
事件番号 昭和29(あ)2861
1961年(昭和36年)2月15日
判例集 刑集第15巻2号347頁
裁判要旨

一 きゆう業を営む被告人がその業に関しきゆうの適応症であるとした神経痛、リヨウマチ、血の道、胃腸病等の病名を記載したビラ約七〇三〇枚を判示各所に配布した所為は、あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法第七条に違反する。

二 あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復法第七条は、憲法第一一条ないし第一三条、第一九条、第二一条に違反しない。
大法廷
裁判長 田中耕太郎
陪席裁判官 小谷勝重島保斎藤悠輔藤田八郎河村又介池田克垂水克己河村大助下飯坂潤夫奥野健一高橋潔高木常七石坂修一
意見
多数意見 田中耕太郎、小谷勝重、島保、池田克、垂水克己、河村大助、下飯坂潤夫、高橋潔、高木常七、石坂修一
意見 河村大助
反対意見 斎藤悠輔、藤田八郎、河村大助、奥野健一
参照法条
あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法7条,あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法14条,あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復法7条,憲法11条,憲法12条,憲法13条,憲法19条,憲法21条
テンプレートを表示

きゅう適応症広告事件(きゅうてきおうしょうこうこくじけん)とは、きゅう業の広告規制に絡む事件[1]。あんま師、はり師、きゅう師および柔道整復師法(現:あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律)が規定する広告規制と日本国憲法第21条が規定する表現の自由との関係が注目された。

概要[編集]

1953年3月から5月にかけて滋賀県大津市のきゅう師Aは神経痛リューマチ血の道胃腸病などの病名をきゅうの適応症と書いた広告ビラ約7030枚をまいたが、これがあんま師、はり師、きゅう師および柔道整復師法第7条の広告規制規定に触れるとして起訴され、同年9月8日に大津簡裁で罰金2000円の判決を受けた[2][3]。Aは広告規制規定は表現の自由を規定した日本国憲法第21条に違反するとして控訴した[3]大阪高裁1954年8月に最高裁判所に移送した[3]

1961年2月15日に最高裁大法廷は「広告制限は、これを無制限に許すと虚偽誇大にながれ、一般大衆を惑わす恐れがあるから害を未然に防ぐため、一定の広告を禁止するのは公共の福祉を保つためやむを得ない」として上告を棄却し、Aの有罪判決が確定した[3]。なお、斎藤悠輔、藤田八郎、河村大助、奥野健一の4裁判官は「きゅうが神経痛等にきくことは明らかな事実で、広告することは虚偽でも、誇大でもない。従って本件は罪にはならない。」「正当な広告まで禁止するのは憲法違反である」との少数意見を述べた[3]

脚注[編集]

  1. ^ 伊藤塾 (2005), p. 214.
  2. ^ 憲法判例研究会 (2014), p. 111.
  3. ^ a b c d e 「「広告宣言は合憲」 最高裁言い渡し ハリ、きゅう裁判」『朝日新聞朝日新聞社、1961年2月15日。

参考文献[編集]

  • 伊藤塾『憲法』伊藤真(監修)、弘文堂〈伊藤真の判例シリーズ1〉、2005年12月。ASIN 4335304013ISBN 4-335-30401-3NCID BA75430581OCLC 170109590国立国会図書館書誌ID:000008032318 
  • 憲法判例研究会 編『憲法』(増補版)信山社〈判例プラクティス〉、2014年6月30日。ASIN 4797226366ISBN 978-4-7972-2636-2NCID BB15962761OCLC 1183152206国立国会図書館書誌ID:025522543 

関連項目[編集]