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静止エネルギー(せいしエネルギー、英: rest energy[1])は、アインシュタインの特殊相対性理論によって示された、質量が存在することにより生じるエネルギー。質量
の物体は、光速
を用いて、
![{\displaystyle E_{0}=mc^{2}\,}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/4ffd15697f84951ae199ef319645c6add13fcb8a)
で表される静止エネルギー
を持つ。運動エネルギーやポテンシャルエネルギーとは異なるもので、質量が存在するだけで生じる。
この式は、質量を持つ物体には膨大なエネルギーが内在していることを示している。そして、実際に質量をエネルギーに変換することは可能である。例えば、電子と陽電子を衝突させると、これらの粒子が対消滅し、元の質量に応じたエネルギーが発生する。また、原子核反応でエネルギーが発生する場合には、反応後の質量はわずかに減少するし(質量欠損)、一般の化学反応でも、非常にわずかではあるが質量が変化する。
特殊相対性理論によれば、運動する物体のエネルギーは次の式で表される。
![{\displaystyle E={\sqrt {m^{2}c^{4}+\left|{\boldsymbol {p}}\right|^{2}c^{2}}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/9f094eacfd799841c40d95d7aa71d5a1174ce4f7)
ここで、
はエネルギー、
は質量、
は運動量、
は光速である。また、運動量
と速度
の関係は次の式で表される。
![{\displaystyle {\boldsymbol {p}}={\frac {{\boldsymbol {v}}E}{c^{2}}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/11f1bbfe72cfd90c5271ffaa15418be973fb4590)
これらから、エネルギーと速度の関係は次の様になる。
…(式1)
この式をテイラー展開すると次の様になる。
![{\displaystyle E=mc^{2}\left\{1+{\frac {1}{2}}\left({\frac {\left|{\boldsymbol {v}}\right|}{c}}\right)^{2}+{\frac {3}{8}}\left({\frac {\left|{\boldsymbol {v}}\right|}{c}}\right)^{4}+{\frac {5}{16}}\left({\frac {\left|{\boldsymbol {v}}\right|}{c}}\right)^{6}+\cdots \right\}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/8ddc4802fbf6621ff4b8938a6ebe3779da1e6535)
この式は、速度
が光速に対して十分小さい (
) 場合は、次のようになる。
![{\displaystyle E=mc^{2}+{\frac {1}{2}}m\left|{\boldsymbol {v}}\right|^{2}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/198affded88b7837ccf962808557f5444a054001)
は最初に述べた静止エネルギーであるので、結局式は次のようになる。
![{\displaystyle E=E_{0}+{\frac {1}{2}}m\left|{\boldsymbol {v}}\right|^{2}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/857ebb8a082c6052a3cfb6a37ed59855ec4a6390)
つまり、速度が小さい場合は、質量
の物体が速度
で動いている場合の運動エネルギーが
になるというニュートン力学と同じ結論になる。
なお、式1を導出するのに、
の
に相対論的質量
![{\displaystyle m_{r}={\frac {m}{\sqrt {1-{\left|{\boldsymbol {v}}\right|^{2}/c^{2}}}}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/9b6d9df4bb66e65d1f1c9d41b58ee0bcfa6ad080)
を代入するという説明がなされることがあるが、正しい説明とは言えない。まず、相対論的質量という概念自体にあまり意味がない(相対論的質量を参照)。そして、
という式は、静止エネルギーと質量の関係を表している式であるから、相対論的質量という質量とは異なるものを代入して、運動している物体のエネルギーが得られるかどうかは定かではない。
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