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ヤチダモ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
谷地梻から転送)
ヤチダモ
明るい平地に生えるヤチダモ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
: シソ目 Lamiales
: モクセイ科 Oleaceae
: トネリコ属 Fraxinus
: ヤチダモ F. mandshurica
学名
Fraxinus mandshurica Rupr. (1857)[1]
シノニム
和名
ヤチダモ(谷地梻)
英名
Manchurian Ash

ヤチダモ(谷地梻[5]学名: Fraxinus mandshurica)は、モクセイ科トネリコ属の落葉広葉樹。単にタモともいう。「梻」は木偏に「佛」。トネリコアオダモの近縁種。

形態

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落葉広葉樹で樹高30メートル (m) 、胸高直径は2 m以上に達する高木[6]シオジと並び、日本産トネリコ属樹木では最も大きくなるものの一つである。樹形は通常は単幹で直立する[7]。枝下高は高く、枝は上部にまばらに出る[8]

樹皮は灰白色、平滑で横向きの皮目がある[6]。老木では縦に深い亀裂が増えてくる[8]。同属他種と比べても、小枝や一年生枝は全体的に太いことが特長の一つである。日陰の枝は短枝化しやすく、毎年少しずつ伸長しながら何年も生きている[9]

葉は枝に対して対生するが、しばしば亜対生、亜輪生に見える部分がある。葉は奇数羽状複葉で複葉の葉柄は長く全長40㎝前後になる。小葉は頂端のものがやや小さいことを除くと長さ5 - 15センチメートル (cm) の幅3 - 4 cm、形は長楕円形で先端は鋭く尖る。枚数は7枚から11枚(3対から5対)程度になる。小葉の根元はほぼ無柄で、その部分には褐色の毛が密生する[6]

花は円錐花序である。花冠の無い地味で黄色っぽい色の花で、雄花には雄蕊が2本ある。トネリコ属樹木は花の付く位置が種によって違い、属内での分類にも利用されているが、本種は前年枝に花を付けるタイプである[6][7]。雌雄異株で雄花だけを付ける雄株、雌花だけを付ける雌株に分かれる。北海道での観察によれば、集団内での雌雄の比率に大きな偏りはなくほぼ1:1で現れ、樹高や胸高直径の差が雌雄で現れることもないという[10]。果実は長さ4 cmほどで、かたまって着くので目立つ[11]。花期は早春、展葉前に開花し果実は同年秋に熟す[6]

根系は中大径の斜出根、垂下根型であるが、地下水位が高い場所では水平痕もよく伸ばす。このような場所では幹の地際のいわゆる根張りも大きくなる。細根は房状のもので密生し、特に地表付近に多い[12]

冬芽は頂芽タイプで、太い枝先に大きな頂芽を付け頂生側芽も伴う。頂性側芽以下の側芽は原則として枝に対生するが、互生のようになる「亜対生」、輪生のようになる「亜輪生」のものもしばしばみられる[9]。前述の通り、日陰の枝は長寿命の短枝化し毎年幾らかの葉を付けながら少しずつ伸長する。このような短枝化した枝では狭い範囲に多数の葉痕と芽鱗痕が見られ、非常にごつごつしたもの(芋虫状などと呼ばれる)になる[9]。冬芽は円錐型で暗褐色、4枚の芽鱗に包まれている[5]。葉痕は半円形や三日月形で、維管束痕が多数ある[5]

生態・分布

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春の芽吹きはかなり遅いほうであるが、これは寒冷な立地環境で気温が完全に高くなるまで芽を出すのを控え、晩霜の害を受ける危険を避けるための生存戦略のひとつである[11]。年によって果実のなり具合は異なり、あまり実が着かない年もある[11]

日本では北海道本州岐阜県以北に分布する[5]。特に北海道に多く産し、植林も盛んに行われている[5]。湿潤に強く、雪の多いところに生え、山地の湿地などに生える[5]本州では山間の沢沿いで見かける。根が冠水しても生きているため、たびたび水没するような人造湖の壁面にも生育する。シオジとは分布を分けている[5]ハンノキが生えるほどの水位の高いところ、あるいは長期間水位が高い状態の立地には耐えることはできない[13]。ヤチダモは、湿潤ではあるが一年中水位が高いところでは育たず、時に適潤状態が続くような場所でよく育つ[13]

人間との関係

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材はアオダモと並んで、優良なものとして知られている[13]。家具や装飾材、日常器具の材料として利用されるほか、合板の材料にも用いられる。また硬質で弾力性に富むため、野球バットの材として有名で[13]テニスラケットに使用される素材でもある。成長がよく、年輪幅が広いと重厚になり、成長が悪いと軽くなる。成長のよいものは運動用具材に。成長の悪いものは家具材として重宝される。しかし、現在では真っ直ぐに伸びた材の入手は困難で、建築材としては貴重になってしまっている[13]

北海道では昔から鉄道防風林や防雪林、耕地防風林の樹種として広く使われてきている[13]。ヤチダモが水に強い性質を買われて、北海道の泥炭地を鉄道が通るところに用いられた[13]

第二次世界大戦後、野球熱とともにバットの需要が高まると北海道のヤチダモが注目され、各地の広葉樹伐採跡地や旧軍馬放牧地にまとまって成立していたヤチダモの二次林から大量供給されるようになった。バット需要が一巡するころにはヤチダモの一斉林は姿を消し[14]、既にまとまった量のヤチダモ林を求めることは難しくなっている。

2019年天皇徳仁の即位行事の一環として執り行われた令和大嘗祭では、大嘗宮の神門(鳥居)に北海道産ヤチダモが用いられた[15]

名称

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和名「ヤチダモ」の「ヤチ」は、谷地あるいは野地と書いて湿地を意味し、湿地に生じることに由来する[16]。「タモ」の意味はよくわかっていないが、植物学者の辻井達一はモクセイ科のヒトツバタゴにも使われている「タゴ」が「タモ」に転じたのではないだろうか、と考察している[16]。トネリコの別名でも、タゴ、アオタゴ、タンゴなどがある[16]

英名のManchurian Ash(マンチュリアン・アッシュ)は「満州のトネリコ」の意味。厳密には本種のもとになったマンシュウトネリコF. mandshurica)を指す。

脚注

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  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Fraxinus mandshurica Rupr. ヤチダモ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月16日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Fraxinus mandshurica Rupr. var. japonica Maxim. ヤチダモ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月16日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Fraxinus nigra Marshall subsp. mandshurica (Rupr.) S.S.Sun ヤチダモ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月16日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Fraxinus excelsissima Koidz. ヤチダモ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月16日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 51
  6. ^ a b c d e 林弥栄 (1969) 有用樹木図説(林木編). 誠文堂新光社, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000001136796(デジタルコレクション有)
  7. ^ a b 邑田仁 監修 (2004) 新訂原色樹木大圖鑑. 北隆館, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000007340594
  8. ^ a b 辻井達一 1995, p. 277.
  9. ^ a b c 四手井綱英, 斎藤新一郎 (1978) 落葉広葉樹図譜 ―冬の樹木学―. 共立出版, 東京. 国立国会図書館書誌ID:000001394408(デジタルコレクション有)
  10. ^ 高橋康夫, 後藤晋, 笠原久臣, 犬飼雅子, 高田功一, 井口和信, 芝野伸策 (2001) 雌雄異株性高木ヤチダモの性表現とサイズ構造. 日本林学会誌 83(4), p.334-339. doi:10.11519/jjfs1953.83.4_334
  11. ^ a b c 辻井達一 1995, p. 278.
  12. ^ 苅住昇 (2010) 最新樹木根系図説 各論. 誠文堂新光社, 東京.国立国会図書館書誌ID:000011066224
  13. ^ a b c d e f g 辻井達一 1995, p. 279.
  14. ^ 岡田利夫 『戦中戦後20年 北海道木材・林業の変遷』 139-141頁 北海道林材新聞刊 全国書誌番号:90001781
  15. ^ 清水建設が“令和の大嘗宮”設営に着手、古代工法「黒木造り」で皮付き丸太110m3使用”. Built (2019年8月9日). 2019年12月3日閲覧。
  16. ^ a b c 辻井達一 1995, p. 276.

参考文献

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