コンテンツにスキップ

ハナミズキ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
花水木から転送)
ハナミズキ(アメリカヤマボウシ)
Benthamidia florida
Benthamidia florida
(2007年4月14日、大阪府
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 Core eudicots
階級なし : キク類 Asterids
: ミズキ目 Cornales
: ミズキ科 Cornaceae
: ミズキ属 Cornus
亜属 : ヤマボウシ亜属 C. subg. Benthamidia
: アメリカヤマボウシ
C. florida
学名
Cornus florida L. (1753)[1]
シノニム
英名
flowering dogwood
亜種
  • C. f. subsp. florida
  • C. f. subsp. urbiniana

ハナミズキ(花水木[4]学名: Cornus florida)は、ミズキ科ミズキ属ヤマボウシ亜属の落葉小高木ないし落葉高木。植物学における標準和名アメリカヤマボウシの別名[2][3]。北米原産で、日本へは1912年にワシントンD.C.に贈ったサクラの返礼として贈られた木として知られている。庭木や街路樹によく使われる。

リンネの『植物の種』(1753年) で記載された植物の一つである[5][6]

名称

[編集]

和名ハナミズキは、ミズキ属に属することとが日本のミズキよりも美しく目立つことから名付けられている[4]。また、アメリカヤマボウシの名は、アメリカ原産であることと日本の近縁種のヤマボウシに似ていることから。

英語では「犬の木」を意味する dogwood (ドッグウッド)と呼ばれる[7]。この語の語源には諸説あるが、一説には17世紀頃に樹皮の煮汁がイヌ皮膚病治療に使用されたためと言われ、他には、木製のを意味する英古語の「dag」「dog」を作る材料に使われる堅い木であったことからとも言われる。

分布・生育地

[編集]

北アメリカ原産。おもにアメリカ合衆国東海岸からミシシッピ川あたりまで自生しており、山岳部西海岸にはない。日本には植栽されて、北海道本州四国九州で見られる[4]。日本では都市部を中心に公園街路によく植えられている[8]

アパラチア山脈の南部のジョージア州などで初春に、北部のメイン州などで春の終わりに開花が移動する模様は、「ハナミズキ前線」が日本桜前線のように報道されることもあり、特に南部山岳のブルーリッジ山脈Blue Ridge Parkway)などで野生のハナミズキの花を見る行楽も行われる。通常白い花は、日本の大部分の桜のように、葉が出る前に花を付ける。[9] 南部のジョージア州、ノースカロライナ州(州花)などで珍重されていて、栽培種をまるで日本の盆栽のように展示する家庭も多い。

形態・生態

[編集]

落葉広葉樹小高木[8]から高木[4]。日本では樹高3 - 8メートル (m) ほどであるが、原産地では高さ12 mほどになる[8][10]。成木の樹皮は灰白色から灰黒色で、網目状に細かく深い割れ目がある[11][8][10]。若木の樹皮は滑らかである[10]

葉は対生して[12]卵形楕円形で、細長いものから丸っぽいものまで様々あり、葉裏は白っぽい[11]。よく似た近縁種のヤマボウシと比べると、葉が一回り大きくて長い[8]には紅葉する[4]。紅葉は濃い赤色で、色づきはじめは木全体が濃い赤紫色になり、葉陰の部分は緑色が残りグラデーションになる[8]。紅葉期は他種よりも早いのでよく目立ち、紫色の葉は葉裏の緑色がまだ残っていることが多い[8]

花期は4月下旬 - 5月上旬でヤマボウシよりも早く[13]、芽吹きと同時に花が咲き、品種によって花色が白色の木や、やや薄いピンク色の木がある[12]。ただし、花弁のように見えるのは総苞で、中心の塊が花序である。花びらに見える総苞片は4枚で、先端部はくぼんでおり[11][12][13]、白花の先端には紅色が差してポイントになっている[14]。実際の花は、4弁の直径5ミリメートル (mm) 程度の目立たない花が20個ほど集合して[15]、順次開花する。咲き始めごろは行灯のような愛らしい形をしている[12]。総苞片はカラカラに乾燥してから散り、地上に落ちてもしばらくの間は色褪せずに残っている[12]

果期は9 - 10月[12]。果実は核果で、枝の先に数個ずつ集まってつき[11]、長さ1 cmほどの楕円形や卵球形をしており[16][10]、秋になると赤色に熟して、落葉後も枝先に残っている[4]

枝先につく冬芽は、一年枝を含めてごく短い白色に伏毛に覆われていて、粉が吹いたように見える[10]葉芽は細長い円錐形で、赤褐色の芽鱗2枚に包まれている[16]花芽はやや偏平な球形で大きく、全体に白っぽくて、擬宝珠のような形にも見える[10]。花芽は花序の柄が少し伸びて、基部に残されるように内外2対の芽鱗がある[16]。花芽そのものは総苞片が保護する形となっており、その中に多数の花蕾が入っている[16][10]。葉痕は半円形から三日月形で、維管束痕が3個つく[10]

人間との関わり

[編集]
のハナミズキ。紅葉が始まっている。

春の芽吹きと同時に咲く花が愛でられ、庭木や公園樹のほか、街路樹として利用される[4][10]栽培する際には、うどんこ病などに注意する。また、アメリカシロヒトリの食害にも遭いやすい。ハナミズキの深刻な病害であるハナミズキ炭疽病の感染地域では、感染によってハナミズキの街路樹が枯死すると、ハナミズキ炭疽病に抵抗性があるヤマボウシまたはハナミズキのヤマボウシ交配品種に植え替える病害対策が行われることがある。

日本における植栽

[編集]

日本における植栽は、明治時代末期の1912年に当時の東京市長であった尾崎行雄が、アメリカ合衆国ワシントンD.C.サクラソメイヨシノ)を贈った際、大正時代初期の1915年にその返礼としてワシントン市から東京市に贈呈されたのが始まりである[16][12][注 1]。贈られたハナミズキは全部で60本で、うち白花の苗木が40本、ピンク花の苗木が20本で、日比谷公園小石川植物園などに植えられた[17]。原木は第二次世界大戦中にほとんどが伐採されるなどして、戦後小石川植物園で切株が発見されて、その標本が憲政記念館に展示されており[12][18]、原木は現在東京都立園芸高等学校にしか残っていない[19]。なお、2012年にサクラの寄贈100周年を記念して再びハナミズキを米国日本に送る計画が行われて、最初の100本が東京都代々木公園に植樹され、その後3年間続く予定[20]

シンボル

[編集]

日本

[編集]

アメリカ合衆国

[編集]

イエス・キリストに関する伝説

[編集]

イエス・キリストが掛かった十字架にはハナミズキの木が使われて、そのため以前は大きかったこの木は小さくなり、花は4弁で十字架に似ていて、花弁にくぎを刺された傷跡があるという伝説がある。[21] この伝説の出どころはアメリカ合衆国と推察され、「When Christ was on earth, the dogwood grew / To a towering size with a lovely hue.」で始まる詩があり、これは1954年に「The Victoria Advocate」紙(1954年4月18日)に発表されたことまでは分かっている。20世紀よりも前にはない伝説で、キリスト教聖書には書かれておらず、またハナミズキは北アメリカ原産でイスラエルには自生していない。 [22]

ハナミズキを題材とした作品

[編集]

脚注

[編集]

注釈

[編集]
  1. ^ この話は、1981年改訂版の日本の中学生向け教科書『NEW PRINCE』中3版でもエピソード的に取り上げられた。

出典

[編集]
  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cornus florida L. アメリカヤマボウシ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年4月18日閲覧。
  2. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Cynoxylon florida (L.) Raf. ex Jackson アメリカヤマボウシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月18日閲覧。
  3. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Benthamidia florida (L.) Spach アメリカヤマボウシ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月18日閲覧。
  4. ^ a b c d e f g 亀田龍吉 2014, p. 48.
  5. ^ Linnaeus, Carolus (1753) (ラテン語). Species Plantarum. Holmia[Stockholm]: Laurentius Salvius. p. 117. https://www.biodiversitylibrary.org/page/358136 
  6. ^ POWO (2019). Plants of the World Online. Facilitated by the Royal Botanic Gardens, Kew. Published on the Internet; http://www.plantsoftheworldonline.org/taxon/urn:lsid:ipni.org:names:811610-1 Retrieved 23 September 2021.
  7. ^ 辻井達一 1995, p. 270.
  8. ^ a b c d e f g 林将之 2008, p. 66.
  9. ^ キャンパスの植物達(東邦大学)
  10. ^ a b c d e f g h i 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 84.
  11. ^ a b c d 平野隆久監修 1997, p. 45.
  12. ^ a b c d e f g h 田中潔 2011, p. 138.
  13. ^ a b 長谷川哲雄 2014, p. 79.
  14. ^ 辻井達一 1995, p. 271.
  15. ^ 菱山忠三郎 1997, p. 29.
  16. ^ a b c d e 菱山忠三郎 1997, p. 28.
  17. ^ 米国から贈られた「ハナミズキ」100年祭、日米親善のもう1つの‟絆”(nippon.com)
  18. ^ 祝! ハナミズキ来日100周年(東京大学総合研究博物館)
  19. ^ 特殊切手「米国からのハナミズキ寄贈100周年」の発行 - 日本郵便株式会社HP。
  20. ^ Friendship Blossoms ~ 100年の時を経て、新たに日米を結ぶ友好の木(米国在東京大使館:アメリカンビュー、2013年)
  21. ^ ハナミズキの由来(長坂聖マリヤ教会)
  22. ^ Was Jesus Crucified on a Dogwood Tree?

参考文献

[編集]
  • 亀田龍吉『落ち葉の呼び名辞典』世界文化社、2014年10月5日、48頁。ISBN 978-4-418-14424-2 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、84頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、138頁。ISBN 978-4-07-278497-6 
  • 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日。ISBN 4-12-101238-0 
  • 長谷川哲雄『森のさんぽ図鑑』築地書館、2014年3月10日、79頁。ISBN 978-4-8067-1473-6 
  • 林将之『紅葉ハンドブック』文一総合出版、2008年9月2日。ISBN 978-4-8299-0187-8 
  • 菱山忠三郎『樹木の冬芽図鑑』主婦の友社、1997年1月7日、28-29頁。ISBN 4-07-220635-0 
  • 平野隆久監修『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、45頁。ISBN 4-522-21557-6 
  • 茂木透写真『樹に咲く花 離弁花2』高橋秀男・勝山輝男監修、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2000年、646-647頁。ISBN 4-635-07004-2 

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]