スターリング数(スターリングすう、英: Stirling number)は、上昇階乗冪 (rising factorial) や下降階乗冪 (falling factorial) を数値の冪乗と関係づけるための級数の展開係数として、イギリスの数学者ジェームズ・スターリング(英語版)が1730年に彼の著書 Methodus Differentialis で導入した数[1]である。スターリング数は第1種スターリング数と、第2種スターリング数に分類される。第1種スターリング数はべき乗から階乗への変換に、第2種スターリング数は階乗からべき乗への変換に現れる。また、スターリング数は組合せ数学において意味をもった数値を与える。
第1種スターリング数 (en:Stirling numbers of the first kind)
は、上昇階乗冪
を
のべき級数:
![{\displaystyle x^{\overline {n}}=\textstyle \sum \limits _{k=0}^{n}\displaystyle \left[{n \atop k}\right]\,x^{k}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/d024db3bfc8463522fb3060ef882312e8695c197)
で表現したときの展開係数として定義される。この定義では
である。また、便宜上
と定義する。第1種スターリング数は、
![{\displaystyle \left[{n \atop k}\right]=\left[{n-1 \atop k-1}\right]+(n-1)\,\left[{n-1 \atop k}\right]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/129a587b8326d0443de9afceaf3d518824f369e0)
なる漸化式で計算できる。この漸化式は、べき級数の展開係数としての定義から導出できる。第1種スターリング数の中で、簡単な数式で書ける成分として、
![{\displaystyle \left[{n \atop 0}\right]=0,\quad \left[{n \atop 1}\right]=(n-1)!,\quad \left[{n \atop n-1}\right]=\left({n \atop 2}\right),\quad \left[{n \atop n}\right]=1}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/3dc5cc37c369a8888ba16576ae1eaad77f8ad3c3)
が挙げられる。なお、
は二項係数(二項定理を参照)である。これらは上記の漸化式を用いれば証明できる。特に、第1の関係式は、
であることから導くこともできる。上に示した漸化式に従い、第1種スターリング数は下表のように計算される。なお、表中の空欄に位置する数値はゼロであると解釈する。
n \ k
|
0
|
1
|
2
|
3
|
4
|
5
|
6
|
7
|
0
|
1 |
|
|
|
|
|
|
|
1
|
0 |
1 |
|
|
|
|
|
|
2
|
0 |
1 |
1 |
|
|
|
|
|
3
|
0 |
2 |
3 |
1 |
|
|
|
|
4
|
0 |
6 |
11 |
6 |
1 |
|
|
|
5
|
0 |
24 |
50 |
35 |
10 |
1 |
|
|
6
|
0 |
120 |
274 |
225 |
85 |
15 |
1 |
|
7
|
0 |
720 |
1764 |
1624 |
735 |
175 |
21 |
1
|
下降階乗冪
も第1種スターリング数を含む展開係数を伴い、
のべき級数で表現できる。具体的には、
![{\displaystyle x^{\underline {n}}=\textstyle \sum \limits _{k=0}^{n}(-1)^{n+k}\displaystyle \left[{n \atop k}\right]\,x^{k}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/31b3600917e3b9ffcf4c3fc77a9dea0d60939b67)
と書けるので、展開係数は第1種スターリング数に符号補正
を施した値である。この展開式は、

であることに注意すれば容易に証明できる。
![{\displaystyle {\begin{aligned}&\textstyle \sum \limits _{k=0}^{n}\displaystyle \left[{n \atop k}\right]=n!,\\&\textstyle \sum \limits _{k=0}^{n}2^{k}\displaystyle \left[{n \atop k}\right]=(n+1)!,\\&\textstyle \sum \limits _{k=0}^{n}(-1)^{k}\displaystyle \left[{n \atop k}\right]=0\quad (n\geq 2)\end{aligned}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/7037897f5733470abfe2cf4502b9b55310187eff)
第1の関係式は、
から導かれる。第2の関係式は
から導かれる。第3の関係式は
に関して、
であることから導かれる。
第1種スターリング数はベルヌーイ数
と次のような関係がある。
![{\displaystyle {\begin{aligned}&{\frac {1}{m!}}\textstyle \sum \limits _{k=0}^{m}\displaystyle \left[{m+1 \atop k+1}\right]\,B_{k}={\frac {1}{m+1}},\\&{\frac {1}{(m-1)!}}\textstyle \sum \limits _{k=0}^{m}\displaystyle \left[{m \atop k}\right]\,B_{k}=-{\frac {1}{m+1}}\quad (m\geq 1).\end{aligned}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/f4e6d03d28ccf2d6291c7aabb2604b890ae00201)
第1の関係式は、上昇階乗冪の和の公式:

から導くことができる。第2の関係式は、第1の関係式に第1種スターリング数の漸化式を適用すれば導かれる。
第1種スターリング数
は、組合せ数学において、
個の要素を
個の巡回列に分割する組み合わせの数を与える。巡回列は山手線の駅のように繰り返される要素を示したデータ列である。ここでは、巡回列を
のように書こう。この場合、0, 2, 1, 3の順に数値が繰り返される場合を意味する。巡回列の場合、順列ではあるが
と
のように要素を巡回置換した巡回列どうしは同一とみなす。したがって、
個の要素で構成される巡回列の組み合わせは
通りである。また、
は1個の要素で構成される巡回列であると考える。
例として4個の要素を巡回列2個に分割する組み合わせを考えよう そのような分割においては、構成要素が1個と3個の巡回列に分割する組み合わせと、構成要素が2個と2個の巡回列に分割する組み合わせがある。前者の分割法では、4個の要素から、単独で巡回列をなす要素1個を選び、残りの3個の要素で巡回列を作る組み合わせを考えればよい。要素4個から1個を選ぶ組み合わせは4通りであり、3個の要素から巡回列を作る組み合わせは2通りである。したがって、前者の分割法による組み合わせは全部で8通りとなる。後者については、4個の要素から巡回列をなす2個を選び、それぞれ2個の巡回列の組み合わせを考えればよい。要素4個から2個を選ぶのは6通りの組み合わせがあり、2個の要素が巡回列は1通りしかない。しかし、得られる2個の巡回列は同一構造の巡回列なので、6通りの組み合わせからその自由度を補正する必要がある。つまり、2分の1するということであり、後者の分割法による組み合わせは3通りである。つまり、4個の要素を巡回列2個に分割する組み合わせは全部で11通りとなる。この数値は
と一致する。そのような組み合わせをすべて列挙すると以下のようになる。
![{\displaystyle {\begin{array}{llll}{}[(0),(1,2,3)],&[(0),(1,3,2)],&[(1),(0,2,3)],&[(1),(0,3,2)]\\{}[(2),(0,1,3)],&[(2),(0,3,1)],&[(3),(0,1,2)],&[(3),(0,2,1)]\\{}[(0,1),(2,3)],&[(0,2),(1,3)],&[(0,3),(1,2)]\end{array}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/c5bab1fa9ad5e2284628b7e7ccb0360610e9af63)
上で説明した直接的な順列の作り方のほかに、4個の要素から巡回列2個を作る方法として次の手順を考える。手順1として、3個の要素から巡回列1個を作り、4番目の要素を単独要素の巡回列として追加する。手順2として、3個の要素から巡回列2個を作り、4番目の要素を既に作られた巡回列に追加する。手順1では、3個の要素から巡回列を作る組み合わせとして2通りが可能である。手順2では、3個の要素から巡回列2個を作る組み合わせが3通りある。さらに、4番目の要素を既存の巡回列に挿入する組み合わせは3通りずつあるので、手順2による組み合わせは9通りとなる。よって、手順1と手順2による組み合わせの合計として11通りになる。
この考え方を一般化し、
個の要素から 巡回列
個を作るには、手順1として、
個の要素から 巡回列
個を作った後、
番目の巡回列として
番目の要素を単独で追加する。その組み合わせの数は、
個の要素から 巡回列
個を作る組み合わせの数に等しい。手順2として、
個の要素から巡回列
個を作った後、
番目の要素を既存の巡回列に挿入する。その組み合わせの数は、
個の要素から 巡回列
個を作る組み合わせの数を
倍した値となる。手順1と手順2の組み合わせの和であることを考えると、
個の要素から 巡回列
個を作る組み合わせの数は第1スターリング数の漸化式で与えられることがわかる。したがって、その組み合わせの数は第1スターリング数
に等しい。
第2種スターリング数 (en:Stirling numbers of the second kind)
は、
を下降階乗冪
の級数:

で展開したときの展開係数として定義される。この定義では、
である。便宜上、
と定義する。第2種スターリング数は

なる漸化式で計算できる。この漸化式は、上記の級数展開による定義から導出できる。その漸化式に従うと、第2種スターリング数は下表のよう計算される。
n \ k
|
0
|
1
|
2
|
3
|
4
|
5
|
6
|
7
|
0
|
1 |
|
|
|
|
|
|
|
1
|
0 |
1 |
|
|
|
|
|
|
2
|
0 |
1 |
1 |
|
|
|
|
|
3
|
0 |
1 |
3 |
1 |
|
|
|
|
4
|
0 |
1 |
7 |
6 |
1 |
|
|
|
5
|
0 |
1 |
15 |
25 |
10 |
1 |
|
|
6
|
0 |
1 |
31 |
90 |
65 |
15 |
1 |
|
7
|
0 |
1 |
63 |
301 |
350 |
140 |
21 |
1
|
第2種スターリング数
は、第1種スターリング数に符号補正を施した
に対して逆行列の関係、すなわち、
![{\displaystyle \textstyle \sum \limits _{k=0}^{N}(-1)^{n+k}\displaystyle \left[{n \atop k}\right]\,\left\{{k \atop m}\right\}=\delta _{nm}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/c83e133fdc4c7b7b05357d81370deaa74e8b2434)
の関係を満たす。ただし、
とする。また、
はクロネッカーのデルタである。この関係は、
を下降階乗冪
で展開した数式に対し、
を
のべき級数で展開すれば導出できる。べき乗
は 上昇階乗冪
で展開した場合も、第2種スターリング数を含む展開係数を伴う。その展開した結果は、

となり、展開係数は第2種スターリング数に符号補正
を施した値である。この展開式は、
であることに注意すれば導出できる。

第1の関係式は第2種スターリング数の漸化式から導出できる。第2の関係式は、
であることから導出できる。第3の関係式は
から導出できる。
第2種スターリング数もベルヌーイ数との関係を示すことができる。

第1の関係式は、第1種スターリング数とベルヌーイ数の関係式から導出できる。第2の関係式は、第1の関係式に第2種スターリング数の漸化式を適用すれば導出できる。さらに、第2種スターリング数は公式:

によって一般項が計算できる。しかし、この公式も総和記号を含んでいるため、漸化式よりも便利な公式とは言いがたいが、この公式をベルヌーイ数との関係式(第2の関係式)に代入すればベルヌーイ数の一般項を得ることができる。
第2種スターリング数
は、組合せ数学において、番号づけされた
個の要素をグループ
個に分割する組み合わせの数を与える。分割する要素は番号付けされているので個別に区別できるが、グループは順序を特に区別しないものとする。選択された要素を
と書いた場合、
のように要素を置換した列も同一であるとみなす。分割されたグループに含まれる要素の数は均等である必要はなく、1個の要素しか含まないグループがあってもよいとする。要素4個をグループ2個に分割するには、要素が1個と3個のグループに分割する場合と、要素が2個と2個のグループに分割する組み合わせが挙げられる。前者の分割法では、要素4個から単独グループをなす要素1個を選ぶ組み合わせ、すなわち、4通りだけが存在する。後者の分割法では、要素4個から一方のグループを構成する2個を選ぶ組み合わせを考えればよい。その組み合わせは6通りあるのだが、分割される双方のグループが要素2個で構成されることから、グループ間に対称性がある。その対称性から2の自由度がある。その自由度を補正すると、後者の分割法は3通りの組み合わせがあることになる。したがって、要素 0, 1, 2, 3 をグループ2個に分割する組み合わせは、全部で以下の7通りがある。
![{\displaystyle {\begin{array}{llll}{}[(0),(1,2,3)],&[(1),(0,2,3)],&[(2),(0,1,3)],&[(3),(0,1,2)],\\{}[(0,1),(2,3)],&[(0,2),(1,3)],&[(0,3),(1,2)]\end{array}}}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/f6177233a5fdc5066b8304ae6ce8f10a1618656d)
上で列挙した要素4個をグループ2個に分割する組み合わせは、次のように構成することもできる。手順1として、要素3個をグループ1個に分割し、4番目の要素を第2のグループとして単独で追加する。手順2として、要素3個をグループ2個に分割し、4番目の要素をどちらかのグループに挿入する。手順1で構成される組み合わせは、要素3個をグループ1個に分割する組み合わせの数:1通りに等しい。手順2で構成される組み合わせは、要素3個をグループ2個に分割する組み合わせの数:3通りに対して、4番目の要素を2つのグループのどちらかに挿入する組み合わせ(2 通り)があるので、全部で6通りである。手順1と手順2による組み合わせの和は7通りとなり、上で列挙した組み合わせの数と一致する。
これを一般化して、要素
個をグループ
個に分割するには、次の2つの手順で組み合わせを作ればよい。手順1として、要素
個をグループ
個に分割し、
番目の要素を
番目のグループとして単独で追加すればよい。手順2として、要素
個をグループ
個に分割し、
番目の要素を
個のグループのどれかに挿入する。手順1で構成される組み合わせの数は、要素
個をグループ
個に分割する組み合わせの数に等しい。手順2で構成される組み合わせの数は、要素
個をグループ
に分割する組み合わせの数の
倍に等しい。したがって、手順1と手順2で構成される組み合わせの和として、求める組み合わせの数は第2種スターリング数の漸化式で与えられる。要素
個をグループ
個に分割する組み合わせは、第2種スターリング数
で与えられる。
- ^ Charalambos A., Charalambides, "Combinatorial Methods in Discrete Distributions," John Wiley & Sons, Inc., p.73, 2005.