有理型関数 (英 : meromorphic function )とは異なります。
数学 における有理関数 (ゆうりかんすう、英 : rational function )は、二つの多項式 をそれぞれ分子と分母に持つ分数 として書ける関数 の総称である。抽象代数学 においては変数 と不定元 とを区別するので、後者の場合を有理式 と呼ぶ。
2次の有理関数の例:
y
=
x
2
−
3
x
−
2
x
2
−
4
{\displaystyle y={\frac {x^{2}-3x-2}{x^{2}-4}}}
一変数の場合(
x
{\displaystyle x}
とする)、有理関数は次の形の関数である:
f
(
x
)
=
P
(
x
)
Q
(
x
)
{\displaystyle f(x)={\frac {P(x)}{Q(x)}}}
ここで
P
,
Q
{\displaystyle P,Q}
は
x
{\displaystyle x}
の任意の多項式である。ただし
Q
{\displaystyle Q}
はゼロ多項式(0 となる多項式)であってはならない。上の
f
{\displaystyle f}
の定義域 は、分母の
Q
(
x
)
{\displaystyle Q(x)}
が0とならない全ての
x
{\displaystyle x}
から成る。
有理方程式 とは、二つの有理式を等しいとおいて得られる方程式である。これには通常の(数の比である)分数 と同様に、分母を払う等の操作を行ってよい。ただしそうして得た解のうち、分母が0になるようなものは元の有理方程式の解として不適切として除かれる。
3次の有理関数の例:
y
=
x
3
−
2
x
2
(
x
2
−
5
)
{\displaystyle y={\frac {x^{3}-2x}{2(x^{2}-5)}}}
次の有理関数
f
(
x
)
=
x
3
−
2
x
2
(
x
2
−
5
)
{\displaystyle f(x)={\frac {x^{3}-2x}{2(x^{2}-5)}}}
は、分母の零点 である
x
2
=
5
{\displaystyle x^{2}=5}
なる
x
{\displaystyle x}
、すなわち
x
=
±
5
{\displaystyle x=\pm {\sqrt {5}}}
においては定義されない 。なお、この有理関数は、
x
→
∞
{\displaystyle x\to \infty }
で
x
2
{\displaystyle {\frac {x}{2}}}
に漸近する(直線
y
=
x
2
{\displaystyle y={\frac {x}{2}}}
が漸近線 )。
また次の有理関数
f
(
x
)
=
x
2
+
2
x
2
+
1
{\displaystyle f(x)={\frac {x^{2}+2}{x^{2}+1}}}
は全ての実数 について定義されているが、全ての複素数 については定義されていない。これもやはり
x
=
±
i
{\displaystyle x=\pm i}
が分母の零点となっているからであり、その2点が定義域から除かれる。
自明な例としては、
f
(
x
)
=
x
2
+
1
{\displaystyle f(x)=x^{2}+1}
等の多項式関数 も有理関数に含まれる。これは分子が2次の多項式
x
2
+
1
{\displaystyle x^{2}+1}
、分母は0次の多項式 1 であるとみなせる。
さらに自明な例として、他に
f
(
x
)
=
π
{\displaystyle f(x)=\pi }
等の定数関数 も有理関数に含まれる。これは分子が0次の多項式
π
{\displaystyle \pi }
、分母も0次の多項式 1 であるとみなせる。
ここで注意すべきは、
π
{\displaystyle \pi }
が無理数 であることと、上の
f
{\displaystyle f}
が有理関数であることは両立する点である。「関数が有理関数である/ない」という概念と、「返り値が有理数 である/ない」という概念を混同してはならない。
実係数の一変数有理関数
f
(
x
)
=
P
(
x
)
Q
(
x
)
{\displaystyle f(x)={\frac {P(x)}{Q(x)}}}
が与えられたとき、分母 Q (x ) の最高次係数が 1 で k 個の相異なる実根 r 1 , …, r k をもつならば、既約多項式 の積
Q
(
x
)
=
(
x
−
r
1
)
m
1
⋯
(
x
−
r
k
)
m
k
(
x
2
+
s
1
x
+
t
1
)
n
1
⋯
(
x
2
+
s
l
+
t
l
)
n
l
{\displaystyle Q(x)=(x-r_{1})^{m_{1}}\dotsm (x-r_{k})^{m_{k}}(x^{2}+s_{1}x+t_{1})^{n_{1}}\dotsm (x^{2}+s_{l}+t_{l})^{n_{l}}}
に分解できる。このとき有理関数 f (x ) は以下の形をした関数を用いて表せる(部分分数分解 )。
f
0
(
x
)
=
x
u
(
u
≥
0
)
f
1
(
x
)
=
1
x
−
r
f
2
(
x
)
=
1
(
x
−
r
)
v
(
v
>
1
)
f
3
(
x
)
=
1
x
2
+
a
2
(
a
≠
0
)
f
4
(
x
)
=
1
(
x
2
+
a
2
)
w
(
w
>
1
,
a
≠
0
)
f
5
(
x
)
=
x
x
2
+
a
2
(
a
≠
0
)
f
6
(
x
)
=
x
(
x
2
+
a
2
)
w
(
w
>
1
,
a
≠
0
)
{\displaystyle {\begin{aligned}f_{0}(x)&=x^{u}&&(u\geq 0)\\f_{1}(x)&={\frac {1}{x-r}}&&\\f_{2}(x)&={\frac {1}{(x-r)^{v}}}&&(v>1)\\f_{3}(x)&={\frac {1}{x^{2}+a^{2}}}&&(a\neq 0)\\f_{4}(x)&={\frac {1}{(x^{2}+a^{2})^{w}}}&&(w>1,\ a\neq 0)\\f_{5}(x)&={\frac {x}{x^{2}+a^{2}}}&&(a\neq 0)\\f_{6}(x)&={\frac {x}{(x^{2}+a^{2})^{w}}}&&(w>1,\ a\neq 0)\end{aligned}}}
したがって有理関数 f (x ) の不定積分 は f i (x ) の不定積分 F i (x ) を用いて表せる。
F
0
(
x
)
=
1
u
+
1
x
u
+
1
F
1
(
x
)
=
log
|
x
−
r
|
F
2
(
x
)
=
−
1
v
−
1
1
(
x
−
r
)
v
−
1
F
3
(
x
)
=
1
a
arctan
x
a
F
4
(
x
)
=
1
2
a
2
(
1
w
−
1
x
(
x
2
+
a
2
)
w
−
1
+
2
w
−
3
w
−
1
∫
d
x
(
x
2
+
a
2
)
w
−
1
)
F
5
(
x
)
=
1
2
log
(
x
2
+
a
2
)
F
6
(
x
)
=
−
1
2
(
w
−
1
)
1
(
x
2
+
a
2
)
w
−
1
{\displaystyle {\begin{aligned}F_{0}(x)&={\frac {1}{u+1}}x^{u+1}\\F_{1}(x)&=\log |x-r|\\F_{2}(x)&={\frac {-1}{v-1}}{\frac {1}{(x-r)^{v-1}}}\\F_{3}(x)&={\frac {1}{a}}\arctan {\frac {x}{a}}\\F_{4}(x)&={\frac {1}{2a^{2}}}{\bigg (}{\frac {1}{w-1}}{\frac {x}{(x^{2}+a^{2})^{w-1}}}+{\frac {2w-3}{w-1}}\int {\frac {dx}{(x^{2}+a^{2})^{w-1}}}{\bigg )}\\F_{5}(x)&={\frac {1}{2}}\log(x^{2}+a^{2})\\F_{6}(x)&={\frac {-1}{2(w-1)}}{\frac {1}{(x^{2}+a^{2})^{w-1}}}\end{aligned}}}
特に有理関数の不定積分は有理関数を用いて表せるとは限らないが、有理関数に加えて対数関数 log と逆正接関数 arctan を用いれば必ず表せる。
一方で複素係数の一変数有理関数が与えられたとき、その不定積分は有理関数と対数関数さえ用いれば必ず表せるので、より簡明である。(対数関数 は多価関数 で偏角 に由来する不定性があるが、不定積分では積分定数への影響しかない。)
(多項式や反比例等を除いて)有理関数に最初に触れる機会は、日本では高校の「数学III」が普通であろう。
より高度な数学においては抽象代数学 の体論 、特に体の拡大 において重要となる。有理関数は非アルキメデス体 の例でもある。
有理関数は数値解析 において点の補間 や関数の近似 に用いられる[ 1] 。代表例としてアンリ・パデ によるパデ近似 や最良有理関数近似としてのチェビシェフ有理関数近似などがある。有理関数を用いた近似法は計算機代数 システムを始めとする数値計算ソフトウェアに適している。有理関数は多項式と同様に計算が容易でありながら、多項式よりも幅広い表現が可能である[ 2] [ 3] [ 4] 。
^ Yoji Nakatsukasa, Olivier Sète, and Lloyd N. Trefethen: "The AAA Algorithm for Rational Approximation", SIAM J. Sci. Comput., Vol.40, No.3, pp.A1494-A1522.
^ Lloyd N. Trefethen: "Rational Approximation", Notices, Vol.72, no.1 (Jan.,2025), American Mathematical Society
^ L.N. Trefethen, J.A.C. Weideman and T. Schmelzer: "Talbot Quadratures and Rational Approximation", BIT Numerical Mathematics (2006), vol.46, pp.653-670.
^ Nick Trefethen: "Talbot quadratures and rational approximations"
解析学 (特に複素解析 )における有理型 関数 とは異なる概念であり、混同しないよう注意すること。日本語では似通った語が用いられているが、例えば英語では二つは全く異なる語で表される("rational" 対 "meromorphic")。
ただし、概念としては異なるが関連はある。有理関数であれば有理型関数であるし、C ∪ {∞}全体で有理型である関数は有理関数に限る。
部分分数分解