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偽常染色体領域

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
擬似常染色体領域から転送)
ヒトの中期スプレッド。X染色体(左)とY染色体(右上)の短腕の偽常染色体領域が蛍光in situハイブリダイゼーション(緑)によって検出されている。染色体は赤色で対比染色されている。

偽常染色体領域(ぎじょうせんしょくたいりょういき、: pseudoautosomal region、略称: PAR)とは、X染色体Y染色体(またはZ染色体とW染色体)の間で配列が相同な領域のことである。

偽常染色体領域という名称は、この領域の遺伝子(これまでヒトでは少なくとも29遺伝子が見つかっている[1])が常染色体上の遺伝子のような遺伝パターンを示すことに由来する。ヒトではPAR1PAR2と呼ばれる2つの領域が存在する[2]。PAR1はヒトや類人猿のX染色体とY染色体の短腕の先端2.6 Mbpの領域、PAR2は長腕の先端320 kbpの領域である(X染色体の全長は155 Mbp、Y染色体は59 Mbp)[3]

位置

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偽常染色体領域は性染色体の両末端に位置する。

GRC英語版h38(ヒトゲノム)によるPARの位置を示す[4]

名称 染色体 塩基対開始 塩基対終了 バンド[5]
PAR1 X 10,001 2,781,479 Xp22
Y 10,001 2,781,479 Yp11
PAR2 X 155,701,383 156,030,895 Xq28
Y 56,887,903 57,217,415 Yq12

遺伝と機能

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正常なオスの哺乳類では、PAR内の遺伝子はX染色体のPARに1コピー、Y染色体のPARに1コピーの計2コピー存在する。また正常なメスも2本のX染色体に1コピーずつの計2コピー持つ。通常、X染色体とY染色体の間の乗換えはPARに限定されている。そのため、PAR内の遺伝子は性染色体連鎖型ではなく常染色体型の遺伝パターンを示す。そのため、もともと父親のY染色体に存在していたアレルをメスが受け継ぐこともある。

こうしたPARの機能は、オスの減数分裂時にX染色体とY染色体が対合し、正しい分離を可能にしている[6]

遺伝子

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PAR1には16遺伝子が含まれ、PLCXD1が最もテロメア側末端に近く、XGセントロメア側末端の境界部に位置する。PAR2には3遺伝子が含まれ、SPRY3がセントロメア側末端の境界に位置し、IL9Rがテロメア側の末端に位置する[7]

偽常染色体領域はPAR1、PAR2という2つの異なる位置に存在し、これらはそれぞれ独立に進化したと考えられている[8]

PAR1

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PAR1内の遺伝子には次のようなものがある[9]

マウスでは、PAR1の遺伝子の一部は常染色体に移動している[10]

PAR2

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PAR2内の遺伝子には次のようなものがある[11]

病理

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X染色体とY染色体の対合(シナプシス)とPAR間での乗換えは、男性の減数分裂の正常な進行に必要であるようである[13]。そのため、X-Y染色体間での組換えが起こらなかった細胞では、減数分裂が完了しない。X、Y染色体のPARの構造的・遺伝的非類似性は対合や組換えを阻害し、男性不妊の原因となる。

PAR1領域のSHOX遺伝子は、ヒトの疾患と最もよく関係しており、理解が進んでいる[14]。PARの全ての遺伝子はX染色体の不活性化を回避し、そのため性染色体異数性疾患(45,X47,XXX47,XXY47,XYYなど)における遺伝子量英語版効果の候補遺伝子となっている。また、PARの欠失もレリーワイル症候群英語版[15]マーデルング変形と関係している。

出典

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  1. ^ “The pseudoautosomal regions, SHOX and disease”. Curr Opin Genet Dev 16 (3): 233–9. (2006). doi:10.1016/j.gde.2006.04.004. PMID 16650979. 
  2. ^ Mangs, Helena; Morris BJ (2007). “The Human Pseudoautosomal Region (PAR): Origin, Function and Future.”. Current Genomics 8 (2): 129–136. doi:10.2174/138920207780368141. PMC 2435358. PMID 18660847. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2435358/. 
  3. ^ “The Human Pseudoautosomal Region (PAR): Origin, Function and Future”. Curr. Genomics 8 (2): 129–36. (April 2007). doi:10.2174/138920207780368141. PMC 2435358. PMID 18660847. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2435358/. 
  4. ^ Genome Reference Consortium (2017年1月6日). “Human genome overview GRCh38.p10”. 2017年5月10日閲覧。
  5. ^ Pseudoautosomal regions Gene Family”. HUGO Gene Nomenclature Committee. 2017年5月11日閲覧。
  6. ^ a b “Differentially regulated and evolved genes in the fully sequenced Xq/Yq pseudoautosomal region”. Hum. Mol. Genet. 9 (3): 395–401. (February 2000). doi:10.1093/hmg/9.3.395. PMID 10655549. 
  7. ^ “Sex chromosome loss and the pseudoautosomal region genes in hematological malignancies”. Oncotarget 7 (44): 72356–72372. (2016). doi:10.18632/oncotarget.12050. PMC 5342167. PMID 27655702. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5342167/. 
  8. ^ “Complex events in the evolution of the human pseudoautosomal region 2 (PAR2)”. Genome Res. 13 (2): 281–6. (February 2003). doi:10.1101/gr.390503. PMC 420362. PMID 12566406. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC420362/. 
  9. ^ Pseudoautosomal region 1 (PAR1) Gene Family”. HUGO Gene Nomenclature Committee. 2017年5月12日閲覧。
  10. ^ “The SWI/SNF protein ATRX co-regulates pseudoautosomal genes that have translocated to autosomes in the mouse genome”. BMC Genomics 9: 468. (2008). doi:10.1186/1471-2164-9-468. PMC 2577121. PMID 18842153. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2577121/. 
  11. ^ Pseudoautosomal region 2 (PAR2) Gene group”. HUGO Gene Nomenclature Committee. 2019年8月30日閲覧。
  12. ^ WASH6P”. HUGO Gene Nomenclature Committee. 2019年8月30日閲覧。
  13. ^ Eichner, E.M. (February 1991). “The mouse Y* chromosome involves a complex rearrangement including interstitial positioning of the Y-pseudoautosomal region”. Cytogenetics and Cell Genetics 57 (4): 221–230. doi:10.1159/000133152. PMID 1743079. 
  14. ^ “The pseudoautosomal regions, SHOX and disease”. Curr. Opin. Genet. Dev. 16 (3): 233–9. (June 2006). doi:10.1016/j.gde.2006.04.004. PMID 16650979. 
  15. ^ “A novel class of Pseudoautosomal region 1 deletions downstream of SHOX is associated with Leri-Weill dyschondrosteosis”. Am. J. Hum. Genet. 77 (4): 533–44. (October 2005). doi:10.1086/449313. PMC 1275603. PMID 16175500. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1275603/. 

関連項目

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外部リンク

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