コンテンツにスキップ

技術哲学

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
技術哲学者から転送)

技術哲学(ぎじゅつてつがく、英語: philosophy of technology〔フィロソフィー・オブ・テクノロジー〕)は、科学技術(テクノロジー/技術学)または技術(テクニック)を対象とする哲学の一分野。

概要

[編集]

テクノロジーに関する諸問題は、古代ギリシアに端を発する伝統的な西洋哲学の黎明期から重要視されてきた。

「技術哲学」という用語は、19世紀ドイツ哲学者であるエルンスト・カップの著書「Grundlinien einer Philosophie der Technik(邦訳︰技術哲学の基本路線)」において初めて使用された。

歴史

[編集]

古代ギリシア

[編集]

西洋における「テクノロジー」という言葉は、ギリシア語の「τέχνη」(テクネー、芸術・工芸知識)に由来し、技術に対する哲学的な見解は西洋哲学の黎明期にまで遡ることが出来る。

古代ギリシアのテクネーに対する見方に共通するのが、蜘蛛の観察から発展した織物に代表される様に、「テクネーは自然の模倣として生まれる」というテーマであり、ヘラクレイトスデモクリトスらはこれを支持した。

アリストテレスはこのような模倣が頻繁に行われることに同意したが、「テクネーは自然を超越」し、「自然が仕上げに持って来ることの出来ない物」を完了するとした。また、「ピュシス(自然)とテクネーは存在論的に区別される」と主張した。

プラトンは、対話編『ティマイオス』において、「職人が設計図を使って物を作るように、永遠の形に沿って創造されたデミウルゴスの作品」として世界を描写した。また、対話編『法律』の中で、「職人の芸はデミウルゴスの模倣である」と主張した。

中世から19世紀にかけて

[編集]

ローマ時代から古代末期にかけて、ウィトルウィウスの『建築学』やゲオルク・アグリコラの『金属について』など、実用的な書物を記した学者が存在した。

また、中世スコラ哲学は、「技術は自然の模倣である」という伝統的見解を支持していた。

ルネサンス期には、フランシス・ベーコンが登場し、彼の哲学は、技術が社会に与える影響を考察した近代哲学の嚆矢となった 。

19世紀

[編集]
フランシス・ベーコン卿

テキサスを拠点としたドイツ出身の哲学者・地理学者エルンスト・カップは、1877年に『Grundlinien einer Philosophie der Technik』というファンダメンタル・ブックを出版した。 カップはヘーゲルの哲学に深く感銘を受け、技術を人間の臓器の投影とみなした。現代において、ヨーロッパの文脈では、彼が技術哲学の創始者、先駆者であるとされる。

後の20世紀の技術哲学に大きな影響を与えたもう一つの、より唯物論的な技術の立場は、ベンジャミン・フランクリンカール・マルクスの思想を中心として展開された。

20世紀から現代まで

[編集]

現代的な技術が人類に及ぼす影響を直接取り上げた20世紀初期の著名な哲学者は、ジョン・デューイマルティン・ハイデッガーヘルベルト・マルクーゼギュンター・アンダースハンナ・アーレントの5人である。 後者の4人つまりハイデッガー、アンダース、アーレント、マルクーゼは、デューイよりも両価的(アンビバレント)かつ批判的だったが、何れにせよ、彼らは皆、テクノロジーを現代生活の中心的なものとして見ていた。

ハイデッガーにとっての問題は、技術の本質であるゲシュテル(Gestell)やエンフレーミング(Enframing)の隠れた性質である。この性質は、彼が「最大の危険」と呼ぶものを人間にもたらし、それ故に「最大の可能性」をもたらすものであった。 技術に関するハイデガーの主要な仕事は『技術への問い(英題: The Question Concerning Technology)』に見られる。

20世紀後半には多くの重要な著作が出版された。ポール・ダービンは、世紀の変わり目に出版された、『技術と良い生活(Technology and the Good Life)』(2000年、エリック・ヒッグス、アンドリュー・ライト、デビッド・ストロング編著)と、『アメリカの技術哲学(American Philosophy of Technology)』(2001年、ハンス・アハテルハウズ編著)が、技術哲学が学術的なサブディシプリンとして発展し、正典的なテキストを持つようになったことを指摘している。

この10年間で、技術哲学をテーマにしたいくつかの論文集が出版されており、雑誌『テクネ︰哲学と技術の研究(英: Techne: Research in Philosophy and Technology)』(哲学と技術の学会誌、哲学資料センター発行)や『哲学と技術(英: Philosophy & Technology』(シュプリンガー)などのジャーナルでは、技術哲学の専門書が出版されている。

技術と中立性

[編集]

技術決定論とは、「技術の特徴がその使用を決定し、進歩的な社会の役割は、技術の変化に適応し、技術の変化から利益を得ることであった」という考え方である。 Lelia Greenは、技術決定論と社会決定論を選択的に示すために、ポート・アーサー大虐殺やダンブレーン銃乱射事件のような、現代における銃による虐殺事件を挙げた。 Greenによれば、技術は、特定の技術を循環させる社会文化的な文脈や問題が取り除かれて初めて、中立的な存在として考えることが出来るという。 そのときに、技術の所有によって提供される社会集団と権力の関係性が見えてくるとしている。

関連項目

[編集]

参考文献

[編集]

参考文献

[編集]
  • Vallor, Shannon. (2016). Technology and the Virtues. Oxford University Press. ISBN 978-0190498511ISBN 978-0190498511
  • Joseph Agassi (1985) Technology: Philosophical and Social Aspects, Episteme, Dordrecht: Kluwer. ISBN 90-277-2044-4ISBN 90-277-2044-4.
  • Hans Achterhuis (2001) American Philosophy of Technology Indiana University Press. ISBN 978-0-253-33903-4ISBN 978-0-253-33903-4
  • Jan Kyrre Berg Olsen and Evan Selinger (2006) Philosophy of Technology: 5 Questions. New York: Automatic Press / VIP. website
  • Jan Kyrre Berg Olsen, Stig Andur Pedersen and Vincent F. Hendricks (2009) A Companion to the Philosophy of Technology. Wiley-Blackwell. [1] ISBN 978-1-4051-4601-2ISBN 978-1-4051-4601-2
  • Borgmann, Albert (1984) Technology and the Character of Contemporary Life. University of Chicago Press. ISBN 978-0-226-06628-8ISBN 978-0-226-06628-8
  • Drengson, A. (1995). The Practice of Technology: Exploring Technology, Ecophilosophy, and Spiritual Disciplines for Vital Links, State University of New York Press, ISBN 079142670X.
  • Dusek, V. (2006). Philosophy of Technology: An Introduction, Wiley-Blackwell, ISBN 1405111631.
  • Ellul, Jacques (1964), The Technological Society. Vintage Books.
  • Michael Eldred (2000) 'Capital and Technology: Marx and Heidegger', Left Curve No.24, May 2000 ISSN 0160-1857 (Ver. 3.0 2010). Original German edition Kapital und Technik: Marx und Heidegger, Roell Verlag, Dettelbach, 2000 117 pp. ISBN 3-89754-171-8ISBN 3-89754-171-8.
  • Michael Eldred (2009) 'Critiquing Feenberg on Heidegger's Aristotle and the Question Concerning Technology'.
  • Feenberg, Andrew (1999) Questioning Technology. Routledge Press. ISBN 978-0-415-19754-0ISBN 978-0-415-19754-0
  • Ferre, F. (1995). Philosophy of Technology, University of Georgia Press, ISBN 0820317616.
  • Green, Lelia (2001) Technoculture: From Alphabet to Cybersex. Allen & Unwin, Crows Nest pp 1–2
  • Heidegger, Martin (1977) The Question Concerning Technology. Harper and Row.
  • Hickman, Larry (1992) John Dewey's Pragmatic Technology. Indiana University Press.
  • Eric Higgs, Andrew Light and David Strong. (2000). Technology and the Good Life. Chicago University Press.
  • Christoph Hubig, Alois Huning, Günter Ropohl (2000) Nachdenken über Technik. Die Klassiker der Technikphilosophie. Berlin: edition sigma. 2nd ed. 2001.
  • Huesemann, M.H., and J.A. Huesemann (2011).Technofix: Why Technology Won’t Save Us or the Environment, New Society Publishers, Gabriola Island, British Columbia, Canada, ISBN 0865717044, 464 pp.
  • Ihde, D. (1998). Philosophy of Technology, Paragon House, ISBN 1557782733.
  • Pitt, Joseph C. (2000). Thinking About Technology. Seven Bridges Press.
  • David M. Kaplan, ed. (2004) Readings in the Philosophy of Technology. Rowman & Littlefield.
  • Manuel de Landa War in the Age of Intelligent Machines. (1991). Zone Books. ISBN 978-0-942299-75-5ISBN 978-0-942299-75-5.
  • Levinson, Paul (1988) Mind at Large: Knowing in the Technological Age. JAI Press.
  • Lyotard, Jean-François (1984) The Postmodern Condition: A Report on Knowledge. University of Minnesota Press.
  • McLuhan, Marshall.
    • The Gutenberg Galaxy. (1962). Mentor
    • Understanding Media: The Extensions of Man. (1964). McGraw Hill.
  • Nechvatal, Joseph (2009) Towards an Immersive Intelligence: Essays on the Work of Art in the Age of Computer Technology and Virtual Reality (1993–2006). Edgewise Press.
  • Nechvatal, Joseph (2009) Immersive Ideals / Critical Distances. LAP Lambert Academic Publishing.
  • Nye, David. (2006). Technology Matters. The MIT Press. ISBN 978-0-262-64067-1ISBN 978-0-262-64067-1
  • Marshall Poe. (2011) A History of Communications. Cambridge University Press. New York, NY. ISBN 978-1-107-00435-1ISBN 978-1-107-00435-1
  • Scharff, Robert C. and Val Dusek eds. (2003). Philosophy of Technology: The Technological Condition. An Anthology. Blackwell Publishing. ISBN 978-0-631-22219-4ISBN 978-0-631-22219-4
  • Seemann, Kurt. (2003). Basic Principles in Holistic Technology Education. Journal of Technology Education, V14.No.2.
  • Shaw, Jeffrey M. (2014). Illusions of Freedom: Thomas Merton and Jacques Ellul on Technology and the Human Condition. Eugene, OR: Wipf and Stock. ISBN 978-1625640581ISBN 978-1625640581.
  • Simondon, Gilbert.
    • Du mode d'existence des objets techniques. (1958). (フランス語)
    • L'individu et sa genèse physico-biologique (l'individuation à la lumière des notions de forme et d'information), (1964). Paris PUF (フランス語)
  • Stiegler, Bernard, (1998). Technics and Time, 1: The Fault of Epimetheus. Stanford University Press.
  • Winner, Langdon. (1977). Autonomous Technology. MIT Press. ISBN 978-0-262-23078-0ISBN 978-0-262-23078-0
  • Meijers, Anthonie, ed (2009). Philosophy of technology and engineering sciences. Handbook of the Philosophy of Science. 9. Elsevier. ISBN 978-0-444-51667-1 
  • Galloway, Alexander, Eugene Thacker, McKenzie Wark (2013). Excommunication: Three Inquiries in Media and Mediation. University of Chicago Press. ISBN 978-0226925226ISBN 978-0226925226.
エッセイ
  • ハラウェイ、ドナ 、「サイボーグ宣言:20世紀後半の科学、技術、社会主義-フェミニズム」。 Cybercultures Reader、Routledge、ロンドン(2000):291。
  • ポール、キングスノース (2015年12月30日)。 ニューステーツマン のキーボードとスペード

外部リンク

[編集]

ジャーナル

[編集]

ウェブサイト

[編集]

学習プログラム

[編集]