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三びきのやぎのがらがらどん

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
三びきのやぎのがらがらどんが、トロールの住む橋を渡る様子を表現した彫像

三びきのやぎのがらがらどん[注 1]ノルウェー語: De tre bukkene Bruse英語: Three Billy Goats Gruff)は、「がらがらどん」という同じ名前をもつ3匹の山羊が餌を求めて冒険に出かける童話ノルウェー昔話の一つで、アスビョルンセンヨルゲン・モー英語版によって、彼らの著作『ノルウェー民話集』に収録された。

日本語訳としては他に『ふとりたくて丘にゆく三びきの牡ヤギ・ブルーセ[2]、『ふとろうと山に行く三匹のヤギのドンガラン[3]などがみられる。

あらすじ

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絵本

「がらがらどん」という名前の小・中・大3匹の山羊が太りたくなって、草を求めて山(丘)を目指す。だが、途中にかかるの下には醜いトロールがいて、大声で「おまえを飲み込んでやる」と威嚇する。

最初に来た小さな山羊は「後から大きな山羊が来るから」と言って、トロールに見逃してもらい橋を渡る。続いて来た中くらいの山羊も、同じように言って橋を渡る。しかし最後に来た大きな山羊は、恫喝するトロールに立ち向かい、トロールをやっつけるのであった。

無事に山へ行った山羊たちは、丸々と太って帰って来た。

名称

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「がらがら」+「どん」[注 2]瀬田貞二訳)は英語の「Gruff」('荒っぽい低音の声'の意)よりの重訳[1]。原作ではノルウェー語で「ブルーセ」(Bruse)という名だが、「Gruff」というのは誤訳で、正しくは「ヤギの額から生えた前毛の房」のことだとされる[5]

そもそもジョージ・W・ダセント英語版が「Three Billy-Goats Gruff」という題名で英訳し『ノルウェー昔話集(Popular Tales from the Norse)』(1859年)に収め、これと同じ英訳題名が長らく受け継がれてきた[5][6]

「ブルーセ」(Bruse) の定義は文献によって様々で、ブリニルセン編『ノルウェー=英語辞典』では、「シュワシュワ」とか「発泡」の意味[注 3]の"fizz"という定義もあれば、応用例では「縮れ毛」を意味する "frizz"の定義もあるとしている[7]。また、『ノルウェー百科事典』とイヴァル・オーセンデンマーク語版の二冊の事典を比較すると(第一義は若干のずれがみられるが)第二義は「馬や雄ヤギの額の毛の房」の意であるとほぼ一致する[8][9][注 4][注 5]

絵本

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上述ダセント英語版による1859年英訳を基にしたを絵本は、1957年に出版された。ダセントの文章はリズムを尊重したものとなっている。マーシャ・ブラウンによる絵は力強さを特徴としている[13]。その瀬田貞二訳『三びきのやぎのがらがらどん』(1965年)は福音館書店より刊行された[1][注 6]

ポール・ガルドン英語版原作(1973年)は、青山南訳『やぎのブッキラボー 3きょうだい』(2005年)が小峰書店より刊行されている。

英訳された子供向けの絵本版は、まだほかにも数多く存在する[6][注 7]

楽曲

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本作をモチーフとした楽曲「三匹の山羊のガラガラドン」(作詞:舘紅、作曲:田中昭子)が存在する[17]

アメリカのフランク・ルーサー英語版が、「The Three Billy Goats Gruff」の歌(ナレーション、効果音まじり、1948年)をレコードで出版しており[20]、低学年の音楽教材として取り上げられている[21][注 8]。より以前にはイヴォーヌ・ラヴェル(Yvonne Ravell)が自作の歌を歌いレコード化しており(1940年)[24]、演劇教育の推薦される録音物として雑誌にもとりあげられている[25]

ジェイムズ・スコット・バレンタイン作のナレーション付き弦楽四重奏曲『キンダーコンツェツ Kinderkonzerts』の一曲が「The Three Billy Goats Gruff」。テキストはヴァイオリン奏者ステファニー・サンタンブロージョ英語版が担当。その録音は「カクタスペア音楽祭」のアルバム(2010年)にリリースされている[26][27]

また、『メアリー・ポピンズ』のリメーク版で知られるジョージ・スタイルズ英語版アンソニー・ドリュー英語版の作詞・作曲タグによるミュージカル版は、シンガポールレパートリー劇場英語版の依頼でつくられ、同劇場で2015年開幕した[28]。オリジナルキャストのレコーディングも出版されている[29]

グウェン・エドワーズ(Gwen Edwards)作詞・ベン・マッケル(Ben Mackel)作曲のミュージカル版『Billy, Goat, Gruff: The Musical』が、米バージニア州アビンドン (バージニア州)英語版のバーター劇場(Barter Theatre)等で公演されている[30][31]

他作品での言及

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日本のアニメ映画『となりのトトロ』(スタジオジブリ)のエンディングでは、サツキとメイが布団の中でお母さんにこの本を読んでもらっている。

イギリスのアニメ『きかんしゃトーマス』ではこの童話をもとに制作されたエピソード(第20シーズン「おそろしいようかい」)があり、パーシーとトビーが三匹の山羊やトロールの話をする。また、日本語版では「トロール」は「妖怪」と訳された。

スティーブン・キングのホラー小説『It』では、ペニーワイズのモチーフの一つがこの作品のトロールであるほか、図書館のシーンでも言及されている。

注釈

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  1. ^ 瀬田貞二訳『三びきのやぎのがらがらどん』(1965年)の表記。マーシャ・ブラウンの英訳絵本『Three Billy-Goats Gruff』よりの重訳[1]
  2. ^ 「どん」は、童話で(「たぬきどん」、「きつねどん」等)よくつかわれる方言の尊称をつけたものと思われる(参照:岩淵悦太郎[4])。
  3. ^ 更にはモダン的には「発砲飲料」の意味も併記される。
  4. ^ 『ノルウェー百科事典』(採番はしていないが第一義)は「こんもりした低木灌木。とくにネズ.. (後略)」とあり、オーセンの辞典の第一義は「ネズの木(=ネズ)」[10]ハンス・ロスノルウェー語版の辞典では「花穂(花の房)」という説明がある。
  5. ^ 方言形や多言語の同根語だが、ロスの辞典では"Brusk"がテレマルク県Smaaleneneの方言にあるとし、(標準語の)Brus に相当し、同様の意味で定義され、参照にアイスランド語のbrúskr (「毛の房」)を挙げている[11]。またフェロー語のbrúsa(第2義、ただし動詞)"clip.. the hair on the forehead.. of lamb"[12]
  6. ^ 2007年6月の第130刷より色が改訂され、背表紙などにあった「北欧の民話」の表記が「ノルウェーの昔話」に変更、原書にある「アン・キャロル・ムアトロルに捧げる」という言葉の追加が行われた[14]
  7. ^ 一部の例として: など。
  8. ^ 英国BBCラジオ番組「Children's Favourites」でも1950~60年代にしばしば放送された[22]

出典

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脚注
  1. ^ a b c 桂宥子編著『たのしく読める英米の絵本』ミネルヴァ書房、2006年、134-135頁
  2. ^ 『太陽の東 月の西』(アスビョルンセン著、佐藤俊彦訳、岩波書店〈岩波少年文庫〉、2005年新版、ISBN 978-4-00-114126-9)で確認した日本語題。
  3. ^ 『ノルウェーの昔話』(大塚勇三訳、福音館書店〈世界傑作童話シリーズ〉、2003年、ISBN 978-4-8340-0828-9 )で確認した日本語題。
  4. ^ 岩淵悦太郎"どん" 方言をめぐつて(座談会)>」『東京學藝大學研究報告』通号 5、筑摩書房、1952年2月、125–126 (817–818)。「昔話では「サルどん」「ガラどん」みな「どん」がついている」 
  5. ^ a b Hawes, Barbara (19 October 2015). “The Goats that Got Away”. European Studies Blog. British Library. 2024年2月23日閲覧。 “The story's original Norwegian title in full (a bit less snappy than the English one we know) was De tre Bukkene Bruse, som skulde gaa til Sæters og gjøre seg fede which roughly translates as 'The three Billy-Goats Gruff who were going to mountain pastures to fatten themselves up'. 'Bruse', which is the name of the goats, was translated as 'Gruff' in the first English version, and this translation has stuck ever since but in fact the word refers to the hairy tuft on a goat's forehead”
  6. ^ a b 子供向けの英訳版は、ほぼ絵本であり、 18ほどの版本を(教育関連の参考書2点のリストを統合すると)数えることができる。題名の多くは『Three Billy Goats Gruff』だが、変わり種のものもある[15][16]
  7. ^ Brynildsen, John, ed. (1927). "Bruse1". Norsk-engelsk ordbok. Oslo: H. Aschehoug & Company (W. Nygaard). p. 120.
  8. ^ Store Norske Leksikon s.v Bruse
  9. ^ Aasen, Ivar [in 英語], ed. (1873). "Bruse2". Norsk ordbog med dansk forklaring. Christiania: P.T. Mallings boghandel. p. 85.
  10. ^ Aasen (1873) Norsk ordbog med dansk forklaring&& "Bruse 1": Enebaertræ (=Einer)
  11. ^ Ross (1895) Norsk ordbok, s.v. "Brusk".
  12. ^ Young, G. V. C.; Clewer, Cynthia R., eds. (1985). "Brúsa". Føroysk-Ensk ordabók: with Faroese folk-lore and proverbs. Peel, Isle of Man: Mansk-Svenska Publishing Co. Ltd. p. 65. ISBN 9780907715221
  13. ^ 桂宥子編著『はじめて学ぶ英米絵本史』ミネルヴァ書房、2011年、144-145頁
  14. ^ 三びきのやぎのがらがらどんNO5 - ウェイバックマシン(2022年2月10日アーカイブ分)
  15. ^ McElmeel, Sharron L. (1996), “Chapter 2. Folklore”, Educator's Companion to Children's Literature: Folklore, Contemporary Realistic Fiction, Fantasy, Biographies, and Tales from Here and There, Bloomsbury Publishing USA, p. 29–30, ISBN 9780313079399, https://books.google.com/books?id=-OTEEAAAQBAJ&pg=PA30 
  16. ^ Tussey, Jill T.; Haas, Leslie (2024), “Chapter 2. First Grade―Fairy Tales”, Exploring Genre through Gamified Adventures in Elementary Classrooms, Springer Nature, p. 20, ISBN 9783031417177, https://books.google.com/books?id=f7jrEAAAQBAJ&pg=PA20 
  17. ^ 小林美実(編)『続こどものうた200』チャイルド本社、1996年、149頁。ISBN 978-4-8054-0002-9
  18. ^ Frederick, Marilyn D. (1955). Some Music Activities to Correlate with Children's Literature in the Primary Grades (Ph.D.). University of Michigan. p. 25. Singing on Our Way " from Our Singing World . New York : Ginn and Company , ( c . 1949 )
  19. ^ Frank Luther 'The Three Billygoats Gruff' 1948 78 rpm(フル再生)
  20. ^ "Singing on Our Way", Our Singing World Series by the Ginn and Company (1948)。Frederickの博士号論文では"c. 1949"[18]とするが、詳しく調べると1947年12月29日に録音、翌1948年にリリースとある[19]
  21. ^ “Front Matter”. Music Educators Journal 43 (5): 32. (April–May 1957). JSTOR 3388261. https://books.google.com/books?id=KjZH-9TR33cC&q=%22Goats+Gruff%22. 
  22. ^ Children's Favourites”. Whirligig-tv.co.uk (2005年11月28日). 2010年6月9日閲覧。
  23. ^ Barton, Phyllis Settecase (1998). The Pictus Orbis® Sambo: Being a Publishing History, Checklist and Price Guide for The Story of Little Black Sambo. Pictus Orbis Press. p. 250. ISBN 9780966011791. https://books.google.com/books?&id=s0InAQAAIAAJ&q=ravell 
  24. ^ Ravell, Yvonne [pseud. of Yvonne Rapeer Shanley] (soprano); Leaman, Harold (piano) (1940) "Little Black Sambo" ; "The Gingerbread Boy" ; "The Wee Wee Woman" ; "The Three Billy Goats Gruff" (3 album set, J-20 , Nos. 35-651, 35-652, and 35-653).[23]
  25. ^ Voorhees, Lillian W.; Foster, Jacob F. (October 1949). “Recordings for Use in Teaching Theatre”. Educational Theatre Journal 1 (1): 67. JSTOR 3204109. https://books.google.com/books?id=Q9oQAAAAIAAJ&q=%22Goats+Gruff%22. "Music Fairy Stories, written and performed by Yvonne Ravell, the 'Singing Story Lady'" 
  26. ^ Balentine, James Scott. “Kinderkonzerts”. Cactus Pear Music Festival. Guildhian Music. 2024年2月6日閲覧。
  27. ^ "Klassics 4 Kids: Cactus Pear Music Festival Artists" (2010)
  28. ^ Admin (January 2024). “The Grass is always Greener”. Unicorn Theatre. 2024年2月26日閲覧。
  29. ^ Music Review: The Three Billy Goats Gruff – Stiles and Drewe”. Musical Theatre Review (5 February 2023). 2024年2月26日閲覧。
  30. ^ It's curtains up on Barter's '07 season”. GoTricities.com. 2007年5月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年5月2日閲覧。
  31. ^ Staff Writer Hendersonville Times-News (6 April 2008). “Folktale retold: 'Billy, Goat, Gruff -- The Musical' at Flat Rock Playhouose”. https://www.blueridgenow.com/story/news/2008/04/06/folktale-retold/28066970007/ 
参考文献

外部リンク

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